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デート
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日没前を見計らって、戸山と北野は天望デッキへとやって来た。
到着した頃にはまだ空は明るく、東京の景色を三六〇度曇りなく一望できたので、戸山は北野を背後に従えながら、見える景色の好きな場所に移動しては説明を交えて熱弁を振るった。
ここから浅草寺が見えて、あそこには大好きで行くと入り浸ってしまう博物館があるとか、遠くの方にはテーマパークが見えるからこの角度がいいだとか。好きなことを好きなだけ幸せそうに話す戸山の後ろをついて歩きながら、北野は戸山のことを改めて愛しく思って、目を細めながら口元に笑みを携えた。
やがて、太陽が沈み始めると、西を陣取った戸山がショルダーバッグの中からデジタル一眼レフカメラを取り出して、最高のポジションから写真を撮り始めた。
北野はそっと隣に移動して、戸山の横顔を静かに覗き込む。
するとそこにはまた、丘の動物公園で見た、プロ顔負けの真剣な表情でファインダーを覗く戸山の姿があった。
この時ばかりは、話し掛けてはいけない。そう感じ取った北野は、移り変わる景色を横目で見ながらただ、カメラを構える戸山を見つめていた。
「俺さあ……」
「うん?」
思うような写真が撮れたのか、戸山がふいにカメラから目を離し顔を上げて話し始めたので、北野はハッと我に返り戸山の声に応える。
「俺ね、夕日が沈んだこの少しの時間に見られるこれが好きなんだ……」
言われて目を向けてみれば、地平線から空に向かって広がる、オレンジと青のコントラスト。
「地球の神秘ってゆうかさ、なんか……心が洗われるっていうか、澄んでく感覚ってゆうの?……って何言ってんだ俺、はっず!」
言いながら照れて顔を手で扇ぐ戸山は、さっきの眼光鋭くファインダーを覗いていた人と同一人物だとは思えないほど可愛くて、北野は胸の真ん中がじんわりと熱くなっていくのを感じる。
「わかるよ」
ただ一言、北野が戸山の目を見て共感の声を掛けると、戸山は嬉しそうに微笑んだ。
「……俺、将来はこの趣味を仕事にして、色んな写真を撮っていきたいんだ。何が正解か、どうすることが成功なのかなんて、まだわかんないけどさ、俺は……これで生きていきたい」
そう言ってコントラストを生み出す地平線を真っ直ぐに見据えた戸山の瞳は、決意表明のまま凛々しく、強い輝きを放っていた。
やっぱり思った通りだ。
自分を持ってて芯があって真面目で。
だから、好きになった。
「僕は好きだけどな、戸山の写真」
「……あれ?俺、見せたことあったっけ」
「え?あっ……あー、の、ほら!動物公園の時とか……あ!い、今もチラッと……見えたし……」
「そっか……うん、ありがとな。北野」
北野の言葉を励ましだと捉えた戸山は、柔らかく安堵した笑みを、北野に送った。
そして二人は、青く染まっていく東京の街に灯りが点っていくのを眺めながら、僅かに触れ合う二の腕から互いの体温を感じて、明日また学校で会えるというのに、北野の仕事の連絡が入るまで、離れることを惜しんだのだった。
到着した頃にはまだ空は明るく、東京の景色を三六〇度曇りなく一望できたので、戸山は北野を背後に従えながら、見える景色の好きな場所に移動しては説明を交えて熱弁を振るった。
ここから浅草寺が見えて、あそこには大好きで行くと入り浸ってしまう博物館があるとか、遠くの方にはテーマパークが見えるからこの角度がいいだとか。好きなことを好きなだけ幸せそうに話す戸山の後ろをついて歩きながら、北野は戸山のことを改めて愛しく思って、目を細めながら口元に笑みを携えた。
やがて、太陽が沈み始めると、西を陣取った戸山がショルダーバッグの中からデジタル一眼レフカメラを取り出して、最高のポジションから写真を撮り始めた。
北野はそっと隣に移動して、戸山の横顔を静かに覗き込む。
するとそこにはまた、丘の動物公園で見た、プロ顔負けの真剣な表情でファインダーを覗く戸山の姿があった。
この時ばかりは、話し掛けてはいけない。そう感じ取った北野は、移り変わる景色を横目で見ながらただ、カメラを構える戸山を見つめていた。
「俺さあ……」
「うん?」
思うような写真が撮れたのか、戸山がふいにカメラから目を離し顔を上げて話し始めたので、北野はハッと我に返り戸山の声に応える。
「俺ね、夕日が沈んだこの少しの時間に見られるこれが好きなんだ……」
言われて目を向けてみれば、地平線から空に向かって広がる、オレンジと青のコントラスト。
「地球の神秘ってゆうかさ、なんか……心が洗われるっていうか、澄んでく感覚ってゆうの?……って何言ってんだ俺、はっず!」
言いながら照れて顔を手で扇ぐ戸山は、さっきの眼光鋭くファインダーを覗いていた人と同一人物だとは思えないほど可愛くて、北野は胸の真ん中がじんわりと熱くなっていくのを感じる。
「わかるよ」
ただ一言、北野が戸山の目を見て共感の声を掛けると、戸山は嬉しそうに微笑んだ。
「……俺、将来はこの趣味を仕事にして、色んな写真を撮っていきたいんだ。何が正解か、どうすることが成功なのかなんて、まだわかんないけどさ、俺は……これで生きていきたい」
そう言ってコントラストを生み出す地平線を真っ直ぐに見据えた戸山の瞳は、決意表明のまま凛々しく、強い輝きを放っていた。
やっぱり思った通りだ。
自分を持ってて芯があって真面目で。
だから、好きになった。
「僕は好きだけどな、戸山の写真」
「……あれ?俺、見せたことあったっけ」
「え?あっ……あー、の、ほら!動物公園の時とか……あ!い、今もチラッと……見えたし……」
「そっか……うん、ありがとな。北野」
北野の言葉を励ましだと捉えた戸山は、柔らかく安堵した笑みを、北野に送った。
そして二人は、青く染まっていく東京の街に灯りが点っていくのを眺めながら、僅かに触れ合う二の腕から互いの体温を感じて、明日また学校で会えるというのに、北野の仕事の連絡が入るまで、離れることを惜しんだのだった。
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