チョコよりも甘い恋

朝賀 悠月

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戸山と星崎と、北野

2-5

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「悪かったな、結局フォーム調整にまで付き合わせて」
「いや、いいよ別に。後で画像送るわ」
「あぁ。……なあこのあと、まだ時間あるか?」
「あー……」

 丘の動物公園近くにある野球部の練習場を出て、星崎は野球部のエースと共に坂を下っていた。
 打ち合わせはすぐに終わったものの、その後このエースに呼び止められて、ピッチングとバットを振る角度などの調整をしたいから写真に収めて欲しいとお願いされ、付き合ってやっていたのだ。
 辺りはすっかり暗くなり、市内に住むこのエースの自転車のライトで照らしてもらいながらでないと、歩けない程だった。
 漸く大通りまで出て、頼りにしていたコンビニの明かりが近付いてくる。
 すると、コンビニの入り口前に立つ戸山の姿が目に映った。
 寒そうにマフラーを口元まで覆って肩を竦めながら、コートのポケットに手を入れて、その場で小刻みに足踏みをしている。
 その姿を見た瞬間、一気に妙な安堵感が全身を巡った。
 約束はしていないのに、待っていてくれたのだと思った。
 星崎は戸山に声を掛けようと、笑顔で手を挙げかけた、その時。

「……きた、の」

 戸山が振り返った先にいた相手は、コンビニから袋をぶら下げて出てきた、北野の姿だった。
 北野はコンビニ袋の中から肉まんらしきものを2つ取り出すと、戸山にどちらがいいかと選ばせる。
 戸山が茶色い方を選択すると、北野は面白そうに柔らかく微笑んだ。
 それは、戸山の好きな『チョコまん』だった。
 北野はそれを半分に割って二人で分け合うと、幸せそうな顔をしながらチョコまんを頬張る戸山を、この上なく幸せそうな笑顔で見つめている。

「星崎?」
「ごめん、俺ここでいいや」
「え?」
「データ送る。じゃな」

 胸がざわつく。モヤモヤする。
 戸山の表情、あれはチョコまんを食べた時に出る顔じゃない。
 大好きなチョコに、プラスアルファがあるからだ。
 あんな顔……俺は知らない……

 星崎は街灯のある大通りを駅に向かって歩きながら、先程見た知らない顔の戸山に思いを馳せる。
 この感情の正体が何なのか、独占欲なのか別の感情なのか、突然の出来事で今はまだ答えが出ないけれど、少なくとも正気ではいられないほどに動揺しているということは、考えなくてもわかった。
 胸を抉られズキズキと痛むトコロを撫でながら、星崎は自然と熱くなる目頭を押さえて、人通りの少ない駅前アーケードを進むのだった。
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