チョコよりも甘い恋

朝賀 悠月

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甘い感情

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「さぁみー!空気つめてーぇ!も、早く帰ろうぜ」
「おう」

 北野が帰って少しすると、雪下ろしの冷たい風が極力当たらないように体を小さく小さく折り畳みながら前のめりになって遠くから小走りしてきた星崎と、戸山は何事もなかったように合流した。

「さみーから温かいもん食いてぇなあ。なんか食って帰んない?」
「いいねー。ラーメン?うどん?」
「うどん、と言いたいとこだけど、駅の立ち食いは寒さ凌げないからやっぱ今日はラーメンだな」
「だよなー、やっぱ」
「ラーメンっつうとぉ……?」
「「味噌バター、肉もやし増々!!」」
「おっ。気が合いますな」
「やっぱさすがっすね」

 差し出された星崎の拳に、戸山がガツッと拳を重ね、二人で無邪気に顔をくしゃっとさせながら笑い合った。
 するとその瞬間、何故だか先程までに見た北野の色んな表情と笑顔が、戸山の脳裏に浮かんでくる。
 照れくさそうな笑顔。
 伏し目がちな表情。
 覗き込まれた瞳と、柔らかな笑顔。
 戸山はそっとコートの左ポケットに手を入れると、北野がくれた手作りの焼き菓子が入っている箱に指先で触れて、胸の奥がじんわりと温かくなる感覚を自家発電した。
 大好きな、チョコレート味の焼き菓子。
 戸山は手を温めるフリをしてポケットに手を差し入れたままにしながら、さっき北野と話した会話を思い出して、ムニュムニュと緩む口を隠すために右手でマフラーを鼻の上まで覆った。

 また、雪が降ってきた。
 フワフワと舞うように目の前を落ちていくのを確認してふと空を見上げると、どういうわけだか脳内に流れる、冬のキスと雪解けをかけた可愛らしいチョコのCM曲。自分の中にこんな乙女な部分があったのかと、戸山は一瞬戸惑いを覚えたが、それさえも今はなんだか心地良く感じる。
 北野と初めて会話をして、触れ合って、笑い合ったあの時に湧いてきた感情は、戸山の好きなチョコよりも甘くて。
 だけどこの甘い感情に気付くのは、まだもう少し、先の話。
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