青の話

豆腐

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「と、いうわけで、お返しにプレゼントか何かしたいと思っております。何がいいと思いますか!?」
「はい」
「はい、仲川君」
「本人に聞けよ」
「・・・・何がいいと思いますか!!」
「無視か!」

金曜日。
今日は親睦を深める目的で、A班とランチだ。
と言っても、みんなそれぞれランチをテイクアウトしたりお弁当を持ち寄って、休憩スペースで食べるだけだが。
本社では少人数で班を作り、班ごとに仕事を振って班内で進捗管理等を行っている。
進捗次第で他の班に駆り出されることもあるが、基本班のメンバーは変わらないそうだ。
A班は仲川、神埼さんと桜庭さん、井芹さんと既婚で班紅一点の蔵岡さんの5人だ。
因みに、楠木さんは日帰りで横浜支社に行っている。土曜日、席を外していたときに加賀地さんからプロジェクトの最終段階で顧客と揉めているらしく、落とし所を決めたいからとお願いされたそうだ。ついでに他案件の相談もするらしい。
私も補佐で着いていこうとしたが、別の新規案件について、月末の会議用資料の最終チェックと準備をお願いされた為、お留守番になった。

「てかお前が相談する側とか珍しくね?」
「いやー考えてたんだけど、スタンダードなものよりもちゃんとしたくて。日用品だって、楠木さんの持ち物明らかに高級品だからおいそれと渡せないんですよぉ・・・それなら、お付き合いの長い皆さんに聞いてみようと思って」
「お酒はどうかしら?うちの旦那の誕生日は、毎回お酒あげてるのよ」
「お酒いいですね、蔵岡さん採用です。他には?」

お酒は飲み会で飲んでるのを見ているし、晩御飯連れて行ってもらったときもワインとかウイスキーとか飲んでたから、選べる幅がちょっと広がる。

「身につけるもの以外って難しいな・・・あ、楠木課長、確か車持ってたよな?カー用品は?」
「あんなかっちょいい渋い車、何が合うのかわからん・・・」
「? ウミ、課長の車見たことあんの?」
「皆さんご存知ではないんですか?」
「楠木課長、仕事では社用車だし、飲み会は電車かタクシーだしな」
「プライベートなんてそこまで知らないし」
「えー、課長って何に乗ってんの?」
「私車に詳しくなくって。これとこれなんだけど」
「は・・・は!?」

ほら、と撮った写真をスマホで見せると、覗き込んだ仲川が声をあげた。
あとに続いて除いた人にも、同じ反応をされた。なんだなんだ。

「うるさいなぁ・・・やっぱヨッシー詳しかったんだ。バイクだけだと思ってた」
「ばっか・・・なんでマークも知らないんだよ」
「興味なかったから」
「課長の車、何だったのよ?」
「ロール●ロイスのファントムと、ベ●ツのGLSですよ」
「あ、名前なら分かる!お高いやつでしょ!」
「ウミ、お前ばかか?そんなもんじゃないわ・・・」
「ヨッシー酷くない?そんななの?」
「海野・・・・GLSはな、1500万以上するんだよ」
「いっせんごひゃくまん」
「でな、ファントムはな、物によっては6500万以上するんだよ」
「ろくせんごひゃくまん」

なんて?
ちょっと聞いたことのない金額にびっくりだ。

「・・・・・・・・・・・・・・カー用品は止めておきます」
「ぜひそうしろ」
「んータバコも吸わないしなぁ」
「・・・・・あ、手料理とかは?課長、今彼女いなさそうだし。夜ご飯とか、お弁当とか」
「手料理ですかー・・・夜ご飯はここ最近毎日うちで食べてるし・・・・お弁当か、いいですねぇ。一週間作って渡すとか」
「ちょっと待て、待て待て」

井芹さんの案に、名案だと頷く。
今週作ったメニューで好きそうなのあったな、とか考えていると、神埼さんから待ったがかかった。

「?何ですか、神埼さん」
「いま、なんつった?」
「え?お弁当、一週間作って渡すとか」
「違う、その前」
「お弁当がいいですか?」
「その前!」
「えー・・・なんだっけ?あ、夜ご飯一緒にうちで食べてる?」
「そうそれ!!!」

ばん、とテーブルを叩いてずずいと寄ってくる5つの顔。
仲良いですね皆さん。

「毎日!?毎日一緒に食べてるのか!?」
「ウミの部屋で!?それとも課長の!?」
「いつから!?」
「もしかして一緒に住んでるのか!?」
「てか二人って付き合ってたの!?」
「月曜日から、私の部屋で、毎日食べてます。同じマンションで私の部屋が下の方だから、寄って食べて帰られます。付き合ってません」

ほんとは土曜日から夕飯一緒なんだけど、土日は外食だったから家では食べていない。ので、間違ってはいない。
言ったらうるさそう、黙っとこ。

「えー、付き合ってないとか、えー・・・」
「んだよぅヨッシー、文句あっか?」
「ないけどさぁ」
「恋人でなくとも、上司でも部下でも先輩後輩同僚、友達同級生とも、親しければ一緒にご飯くらい食べるでしょ?それが外か家かの違いよ」
「う、うぅん?そうか?」
「ですです」
「納得出来るような、出来ないような」
「恋人いれば、人によっては異性を家にあげないだろうけどね。今フリーだし」
「まぁ、そうねぇ」
「それに、私ですよ?大天使系ハイスペックイケメンな楠木さんが相手する訳ないですよ」

そら胸はでかいがそれだけだ。ちょっと不思議能力はあるけど、だからどうしたってくらいの能力だし。あんなハイスペックの前には霞む。
それに、あの顔で優しい性格だ。相手は選り取りみどり、私なんて好き好んで選ばんだろ。

「えー、そうかなぁ・・・」
「・・・どちらにしろ、気をつけた方がいいわ。その、一緒にご飯食べてるって他の課の人にはバレないようにね」
「! あー、そうだな、バレたらヤバいな」
「何かあるんですか?」
「あるんだよー、あの人。ファンクラブ的なやつ」
「何ですか、それ」
「まぁ、非公式だしファンクラブつっても、それぞれ個人が出し抜かないように牽制しあってるだけなんだよね。派閥っぽいのはあるみたいだけど」
補佐あなたの前任者は既婚だったから威嚇とか牽制までは無かったけど、呼び出されて隠し撮りをくれとか終業時間教えてとか、友人として紹介してほしいとかお願いされたそうよ。もちろん断ってたけど」

当たり前だ、終業時間はともかく紹介は無理があるだろう。隠し撮りも犯罪だ。

「あなたはフリーだし、結構警戒されていると思うの。これからは呼び出しに気をつけて。なるべくフロア以外は個人で動かないほうがいいわ。トイレでも、私とか他の子に声掛けて」
「えっ、そんなに?」
「それくらい警戒しないとだめよ。暇なのか仕事しろってくらいしつこいから」
「自販機とか帰りも、楠木課長いなかったら男連中に声掛けな」
「あ、ありがとうございます・・・・」

そんなに警戒しなきゃいかんのか・・・・人気者は大変だなぁ。
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