青の話

豆腐

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マンション下に降りて、浮気野郎の影がない事に安堵の息を吐き、電車に揺られて池袋駅に着いてから不動産屋へ行き、担当者に連れられ何件か物件を見回った。
が。

「思った物件じゃなかった?」
「そうなんですよねぇ・・・困った事に」

どの物件も会社からのアクセスや予算、間取りがどれもしっくりいかない。
妥協すれば数件あるが、住むからには妥協出来ない。
それに。

「担当者が・・・」
「あぁ、あれはないな」

池袋駅まで戻り、近くの多国籍料理店でランチを済ませ、食後のコーヒーを飲みながら息を吐く。
担当者が、何だかねちっこいのだ。
気のせいかな、と放っておいたが、やたら距離が近いし胸に目が行っているのがはっきりわかる。靴を履こうとしてしゃがむと、向こうがわざと書類を落とし、拾う振りをしてスカートの中を見ていた。楠木さんがずっと近くにいてくれたし、スカートの中はショートパンツを履いているので下着は見えなかっただろうが、不快は不快。

「あいつ、店入ってすぐに、俺の顔見て舌打ちしてたしな」
「え、本当ですか」
「あぁ。良かったな、一人で来なくて」
「うわぁ・・・もう二度とあの店には行きません」

本当に付いて来てもらってよかった。感謝しかない。
でもどうしよう。早めに家見つけないといけないのに。
マンスリーマンション代は会社が負担してくれているし、家が見つかるまでいつまででも住んでていいとは言われたが、さすがにそうのんびりはしたくない。狭いし。

「う~~~~~~~~ん」
「間取りは2LDKで、駅近くがいいんだよね?」
「そうですね、そこは譲れません」
「池袋駅じゃないとだめなのか?1個隣の駅とか」
「えぇ、会社まで乗り換えしないでいいならどこでも」

池袋は、オタ趣味のせいですすみません。乙女ロードとかメイトとか入り浸りたいだけなんです・・・あとディ○ニーまでそこまで乗り換えしなくて行けるからです・・・


「家賃は、さっきまで見てた物件くらい?」
「ですね。それ以上だと厳しいです」
「ふぅん・・・なら、いい物件あるんだけど、今から見てみない?」
「へ?いいんですか?」
「もちろん」

行こうか、と促され、会計を済ませ店を出ると、近くの機械式駐車場へ向かう。
ぴ、ぴ、と操作し、暫くして扉が開いて出てきた車を見て、固まる。

「・・・・・」

ゆずこしってる。これ、おたかいくるまや。
右ハンドルだから、国産?いや、この車の前に付いてるロゴは確実に国産じゃねぇ、確かイギリスやオーストラリアは右ハンドルだ。やはり外車か。

「? どうした?乗りなよ」
「ハイ、オジャマシマス」

余計なことをして汚したらいかん、と緊張で固くなりながら助手席へ乗り込む。
わぁ、めっちゃ乗り心地いいわー

「大塚駅の方が近いんだ、池袋駅も歩いて10分くらいなんだけど。それでも構わないかな?」
「問題ナイデス」

もう気にしない。でも何かかっちょいいから後で撮らしてもらおう。
少し走って、1つの大きいタワーマンション前に駐車すると、奥からコンシェルジュが小走りに寄ってくるのが見えた。
いつの間に降りてきたのか、どうぞ、と楠木さんがドアを開けて降りるよう促された。

「あ、ありがとうございます。えと、ここですか?」
「あぁ、ここの3階なんだ」
「ーー楠木様!お帰りなさいませ」
「車お願いするよ。連絡していた鍵は?」
「こちらです」
「ありがとう・・・・さ、行こうか」

な、なんだ今のやり取り。楠木様???
混乱している間に肩に手を回され、目の前のタワーマンションの中へ促される。
3階でエレベーターを降りてすぐのドアをカードキーで開けて中に入る。

「ここは元々は妹が住んでたんだがな、今はイギリスの大学に行ってそのまま向こうで仕事を見つけてしまったから空き部屋になってしまってな。でも次に住む人は知ってる人がいいとか無茶を言い出してね、なかなか貸せなくなってしまったんだ」
「え、わたしが住んでもいいんですか?面識無いのに」
「俺の部下だから知らない訳ではないし、妹にも許可は貰ってる」

ここが10畳、こっちがバスルームと案内されながら、この部屋が空いていた事情を知る。
うわ、アイランドキッチンだ、コンロ三口ある!!リビング広いし、ちゃんと2部屋あるし本も納まりそう・・・文句なしの物件だけど、絶対ここ高いよね。タワマンだし。

「どう?」
「こ、ここ家賃高いんじゃ」
「ああ、家賃はこのくらいでどう?」
「・・・・えっ」

指を立てて示された数字は、午前に見回った物件よりも3万も安かった。

「え、嘘、何でそんなに!?てか、勝手に決めていいんですか!?」
「勝手にじゃないよ、マンションのオーナー、俺だから問題ない」
「は、はい!?」

オーナーオレダカラモンダイナイ???なんの呪文だ???
次から次へとぶつけられる発言に頭が追いつかない。
あ、だからか!雇い主オーナーだから!!納得!!!

「正直、空き部屋よりも住んでもらった方が助かるんだよ。いつまでも空き部屋だと、なんか問題でもあるのかって勘ぐられるし」
「そ、そうなんですか」
「そうなんですよ。もちろん、嫌じゃなければだけどな」
「喜んで借りさせていただきます!!!」

どうする?と首を傾げる楠木さん。
そんな姿も大天使、と見惚れそうになりながらも、思いっきり頷いた。

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