青の話

豆腐

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「印鑑よし、手帳よし、財布も入ってる。寝癖付いてない、服もおっけー」

あああ、落ち着かない。
それもこれも、浮気野郎秦さんのせいだ!!!!!

**************

改札を出てすぐ、秦さんが人混みの中をキョロキョロしているのが見えた。
な、なんで、いるの!?

「・・・落ち着いて。普通に話してる風にして。まだ見つかってないからそのまま抜けるよ」
「は、はい」

腰を抱かれたまま、辺りを見回す秦さんの後ろを早足で通り過ぎる。
そのまま適当に歩みを進め、後ろをこっそり見る。

「・・・・見つからなかった、みたいだね」
「良かった・・・人が多かったからですかね」
「そうだね、上手く紛れられた」

ふう、と2人で息を吐き、家まで送るから、と再び歩き始める。

「あの人、何でいたのでしょうか」
「ホテルがこの辺か、懇親会でたまたまいたか・・・考えたくはないが、住所がバレたか」
「いや、住所は流石にないと思いますけど」

それだったら、家に来るはず。
でも駅にいたんだったら、偶然じゃないかな?

「・・・明日の予定は?」
「え?えっと、池袋にいくつか物件の内覧に行きます」
「そう。何時から?」
「朝10時です」
「なら、明日9時過ぎに迎えに来るから。一緒に行くよ」
「えぇ・・・・むぐっ」
「こら、しー」

突然の提案に思わず大きな声が出そうになったが、楠木さんに人差し指で口を塞がれた。
ふあぁぁぁお美しい指が唇にああああたってるああああああああなんのご褒美
住宅街だから静かに、と注意され何とか頷いて返す。

「住所知られてたら、明日張り込まれてる可能性も捨てきれないからな。牽制だよ、牽制。・・・・それとも、誰かと行く予定だった?」
「いえそんな事ありません是非ともよろしくお願いします」

迷惑か?と眉尻を下げ、しょんぼりとした顔で首を傾げる楠木さんに、秒で返してしまった。
あああああ私は馬鹿か何故頷いてんだでもその顔は卑怯じゃね大天使のくせに子犬みたいなそんなしょんぼり顔は卑怯じゃね頷くしかないだろうワタシハワルクナイ
ふふ、と笑う楠木さんに頭を撫でられる。
そのままアパートの下まで、と思っていたら部屋まで送られた。

「じゃあ明日、部屋まで行くから、それまで外に出ないようにね?ちゃんとドア閉めたらすぐに鍵かけて」
「わ、分かりました」

じゃあ、と手を振って階段を降りる楠木さんを見送り、言われた通りドアを締めてすぐに鍵をかけたのだった。


**************

緊張してあまり眠れず、早く起きてしまったので、無駄に普段しない場所の掃除やシーツの洗濯、おかず作り置きまでしてしまった。
冷蔵庫、ちっちゃいのにいっぱい作っちゃった・・・夏なのに。食材買いたしはちょっと出来ないな。
そわそわして、落ち着かない。もう一回荷物チェックしようか、とバッグを手に取ったところでピンポーン、と少し古い電子音がなった。

「は、はあい!」

楠木さんだ!と、慌ててドアを開けると、楠木さんが少し驚いた顔をした後、にっこり笑って、ぼふ、と頭にやや乱暴に手を置かれた。

「あだっ」
「こーら、今、確認せずに出ただろ」
「う」
「不用心。そんなに慌てなくても待ってるから、準備しておいで」
「は、はい、すみません・・・バッグ取ってきます」

今度は慌てず、暑いため玄関まで入ってもらい(さすがに1Kで半分ベッドが占めている部屋にはあげられない・・・)ベッドの上に広げておいた薄手のデニムジャケットを羽織り、ショルダーバッグを肩にかけて出る。

「お待たせしました」
「全然待ってないよ、じゃあ行こうか」

スニーカーを履いて外に出て、エレベーターのある反対端まで行くところで、さり気なく楠木さんの全身を見る。
白の開襟シャツにネイビーのデニムと白スニーカーのシンプルな出立なのに、それだけで何か雑誌の切抜きみたいな、モデルかよ脚長っ。てか細身だけど、何となく厚みある?実は筋肉あるのか??
腰とか胸触らしてくれないかな、と煩悩まみれに見ながらエレベーターを待っていると、楠木さんがクスクス笑いながら振り返る。

「そんなに熱心に見られると穴が開きそう」

ば、バレてた。筋肉触りたい邪な気持ちが伝わってしまったのか!?

「す、すみません。身長大きいなって」
「そう?まぁ、家系でね、みんな大きいんだ。前回の健康診断では189cmだったかな?」
「へ!?そんなにあるんですか!本当に大きいですね、私と40cmも差あるんですね」

ご、誤魔化せたー、よかった。
登ってきたエレベーターに乗り込み、1階のボタンを押す。
と、ぽん、と頭に手を乗せられ、そのまま撫でられる。

「ひょっ」
「いつもパンツスーツだから、なんか新鮮だな。ワンピースも似合うよ」
「あ、りがとう、ございます」

あああ笑顔、笑顔がヤバい溶ける眩しいイケメンヤバいいいい
ぶわあ、と熱くなる顔を俯いて隠し、早く1階に着いてくれ、と念じながらなんとか支えながら返した。
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