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53.通学電車の中の二人の会話。

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真央と未来は、学校から駅までの道をおしゃべりしつつ歩いていた。
「あ、雪!」
未来は、歩道のタイルの線を踏まないようにこだわって歩いていたので、下を向いていたから、真央が先に気が付いた。
「ホントだ。」

いつもの改札に入って、電車の中から、細かい雪が降っているのを見手数料いると、真央がドアのガラスにハアーと息を吹きかけた。ガラスは冷たいのに車内が温かかったためか、あまり白く曇らなかった。
「もー・・寒いよねぇ」
「・・ホワイトクリスマスになるといいな。」
「えー、原チャリでカフェに行けなくなるよ。」
未来の少々夢見がちなつぶやきに対して、真央は現実的だ。

「その時は親に送ってもらえばいいじゃない。」
「クリスマスに親の姿が見えるなんて興ざめだよ・・」
「・・・。」

クリスマスパーティーやろうと言い出したのは、真央だった。
有希ちゃんも同じことを考えたらしいが、真央のほうが年上でカフェでも先輩だから、仕切るのを全面的に任せたようだ。
個人的な分析だが、真央は、遊のことが好きだから,“想い出のクリスマス”にしたいのだろうと思う。
マキノさんは、自分たちの申し出に、笑いながら「24日は早めにお店を閉めるから、その後は好きなようにしてもいいよ。」と言ってくれた。スタッフどうしの親睦はとても大事なんだそうだ。
親睦しなくても、お店の仲間はみんな、もともと仲良しだ。

せっかくパーティーメニューとプレゼント交換と参加費用のことなんかをまじめに考えているのに、真央は最近、私に対してあまり態度が良くない。
「未来は、この間の彼氏とデートでもすればいいよ。」
「もう、やめてってば。彼氏じゃないよ。」
無責任なセリフには、きちんと反論しなくては。

実は、1週間ほど前の雨の日に、クラスの男の子が駅まで一緒に帰ろうと言ってきて、その時につきあってと言われたのだ。
自分はそんなこと考えたことがなかったから、本当にびっくりした。
同時に、少し嬉しかったのだ。

その彼は直也くんと言って、3年の1学期まではサッカー部にいて、勉強なんかは普通で、男友達がワイワイと騒いでいる中の一人だという印象だった。率先してクラスの中心になるような目立つ性格じゃなかった。
未来とは、3年で同じクラスになってから時々話をするようになった。
隣の席になったこともあって、教科書を忘れて来たときに、見せてあげたこともある。
話しやすい人だなと、思ってはいた。


あの日は傘をさして、通学路の横にある公園の中を歩いていた。
急に立ち止まって、まっすぐにこちらを見て、気持ちを伝えてくれた。
あの時のことを思い返すときゅんと胸が痛くなる。

自分の事をそんな風に思ってくれてたの・・って思ったら、なんだか照れくさくて、にやけて変な顔をしてはいけないと思って。決して嫌いじゃないし、嬉しいって気持ちもあって。だけど、まだ直哉君のこと、よく知らないし・・。どう返事していいのかわからなくて本当に困ってしまったのだ。


そう・・ホントに返事には困ったんだけど・・。
自分は、普通に学校に行って、変ったこともしてなくて、顔だって10人並だと思ってるし、これといったとりえもないのに、こんな自分を誰かが見てくれてて、好きになってくれたのかなって思ったら、やっぱり嬉しかった。

でも、嬉しい反面、直也君の勘違いじゃないかなとも思う。
・・私も、怒ったり拗ねたり、うじうじしたり、いろいろイヤなところもあるのに、今までは表面だけで何気なくしゃべってたけど、彼は本当の自分を知らないんだもん。
いつか、がっかりされるかもしれない・・って思う。
なんか、つきあうって、ちょっとこわいかも。


直也君から、「クリスマスはどうするの?」と聞かれて「バイト。」と答えてしまった。
本当の事だけど、断ったことになっちゃうのかな・・・。
なんだかちょっと、残念な気がした。

「パーティーに誘えば?」
「えー。おかしいよ、そんなの。スタッフでもないのに。」
「マキノさんなら連れて来いって言うよきっと。」
「・・・。」
うんまぁ・・そんな気はする。

「スタッフ以外にも誰か呼んでもいいと思う?」
「遊のお友達のカズ君とかもいいかもね。」
「そだね。」
「会費制にしようよ。そしたら気兼ねなく呼べるよ。」
「プレゼントは一個ずつ持ち寄りで。」
「プレゼントは値段決めておかなくちゃ不公平になるよ。」
「大人の人達は、乗ってくれるかなぁ。」
「いいんじゃないの?わたしたちが決めたことに乗っかってもらおうよ。物足りなきゃ自分であげたい人の分は別に用意すればいいんだから。」


「メニューは、ヒロトさんと遊にまかせちゃう?」
「・・・うん。そうだね。」
「食べたいものをリクエストしたら、何とかしてくれるよね。」
「そりゃね。・・ヒロトさんはシェフだもの。」

「遊は、今年卒業できるのかな? その後どうするんだろう。」
「・・ずっとはいないと思うな。この間単位はどう?って聞いたら、ばっちりだよとか言ってたから、たぶん卒業できるんじゃないのかな。」
「へえ・・レポート大変じゃないの?」
「遊って、あれでまじめなんだよ。」
真央ちゃんが遊のことを威張るのは、おかしい。

あんな見た目だから,ちゃらいのかと思ったら,天然パーマも茶髪も生まれつきって聞いて笑っちゃった。損してるのか得してるのか,最初に会った時は,そこらにいる変なやつかと思って怖かったもの。
そのギャップにやられて,真央が好きになったみたいだけど。


最近、真央は遊の話が出ると 少しシリアスな感じになるんだよな。
自分は大学に行くことになっちゃったから,もうすぐお別れだと思ってる。

あれ・・そっか、自分もだ。
せっかく告白してくれたのに、もうすぐ寮に入っちゃうんだよね。
つきあってもすぐにお別れ?・・ううん、そうとも限らない。遠距離でもずっと続くカップルだってあるはずだし。


電車が駅に着いた。
「どんな服にするの?」
「うーん・・。そうねぇ・・。」
「未来、冗談なしで、ホントに直也くん呼べば?」
「・・・いやだよ。できないよ。」
「わたしが呼んであげようか?」
「・・えっ・・そんなこと、やめてよ~。」

やめてよ・・と言いながら胸が高鳴ってるのを感じる。
軽いかなぁ、私・・。
期待も半分で、横をうかがうと・・・。
真央の、にやりとした笑い方は、「わかってますよ。」と言っているようだった。

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