53 / 110
53.通学電車の中の二人の会話。
しおりを挟む
真央と未来は、学校から駅までの道をおしゃべりしつつ歩いていた。
「あ、雪!」
未来は、歩道のタイルの線を踏まないようにこだわって歩いていたので、下を向いていたから、真央が先に気が付いた。
「ホントだ。」
いつもの改札に入って、電車の中から、細かい雪が降っているのを見手数料いると、真央がドアのガラスにハアーと息を吹きかけた。ガラスは冷たいのに車内が温かかったためか、あまり白く曇らなかった。
「もー・・寒いよねぇ」
「・・ホワイトクリスマスになるといいな。」
「えー、原チャリでカフェに行けなくなるよ。」
未来の少々夢見がちなつぶやきに対して、真央は現実的だ。
「その時は親に送ってもらえばいいじゃない。」
「クリスマスに親の姿が見えるなんて興ざめだよ・・」
「・・・。」
クリスマスパーティーやろうと言い出したのは、真央だった。
有希ちゃんも同じことを考えたらしいが、真央のほうが年上でカフェでも先輩だから、仕切るのを全面的に任せたようだ。
個人的な分析だが、真央は、遊のことが好きだから,“想い出のクリスマス”にしたいのだろうと思う。
マキノさんは、自分たちの申し出に、笑いながら「24日は早めにお店を閉めるから、その後は好きなようにしてもいいよ。」と言ってくれた。スタッフどうしの親睦はとても大事なんだそうだ。
親睦しなくても、お店の仲間はみんな、もともと仲良しだ。
せっかくパーティーメニューとプレゼント交換と参加費用のことなんかをまじめに考えているのに、真央は最近、私に対してあまり態度が良くない。
「未来は、この間の彼氏とデートでもすればいいよ。」
「もう、やめてってば。彼氏じゃないよ。」
無責任なセリフには、きちんと反論しなくては。
実は、1週間ほど前の雨の日に、クラスの男の子が駅まで一緒に帰ろうと言ってきて、その時につきあってと言われたのだ。
自分はそんなこと考えたことがなかったから、本当にびっくりした。
同時に、少し嬉しかったのだ。
その彼は直也くんと言って、3年の1学期まではサッカー部にいて、勉強なんかは普通で、男友達がワイワイと騒いでいる中の一人だという印象だった。率先してクラスの中心になるような目立つ性格じゃなかった。
未来とは、3年で同じクラスになってから時々話をするようになった。
隣の席になったこともあって、教科書を忘れて来たときに、見せてあげたこともある。
話しやすい人だなと、思ってはいた。
あの日は傘をさして、通学路の横にある公園の中を歩いていた。
急に立ち止まって、まっすぐにこちらを見て、気持ちを伝えてくれた。
あの時のことを思い返すときゅんと胸が痛くなる。
自分の事をそんな風に思ってくれてたの・・って思ったら、なんだか照れくさくて、にやけて変な顔をしてはいけないと思って。決して嫌いじゃないし、嬉しいって気持ちもあって。だけど、まだ直哉君のこと、よく知らないし・・。どう返事していいのかわからなくて本当に困ってしまったのだ。
そう・・ホントに返事には困ったんだけど・・。
自分は、普通に学校に行って、変ったこともしてなくて、顔だって10人並だと思ってるし、これといったとりえもないのに、こんな自分を誰かが見てくれてて、好きになってくれたのかなって思ったら、やっぱり嬉しかった。
でも、嬉しい反面、直也君の勘違いじゃないかなとも思う。
・・私も、怒ったり拗ねたり、うじうじしたり、いろいろイヤなところもあるのに、今までは表面だけで何気なくしゃべってたけど、彼は本当の自分を知らないんだもん。
いつか、がっかりされるかもしれない・・って思う。
なんか、つきあうって、ちょっとこわいかも。
直也君から、「クリスマスはどうするの?」と聞かれて「バイト。」と答えてしまった。
本当の事だけど、断ったことになっちゃうのかな・・・。
なんだかちょっと、残念な気がした。
「パーティーに誘えば?」
「えー。おかしいよ、そんなの。スタッフでもないのに。」
「マキノさんなら連れて来いって言うよきっと。」
「・・・。」
うんまぁ・・そんな気はする。
「スタッフ以外にも誰か呼んでもいいと思う?」
「遊のお友達のカズ君とかもいいかもね。」
「そだね。」
「会費制にしようよ。そしたら気兼ねなく呼べるよ。」
「プレゼントは一個ずつ持ち寄りで。」
「プレゼントは値段決めておかなくちゃ不公平になるよ。」
「大人の人達は、乗ってくれるかなぁ。」
「いいんじゃないの?わたしたちが決めたことに乗っかってもらおうよ。物足りなきゃ自分であげたい人の分は別に用意すればいいんだから。」
「メニューは、ヒロトさんと遊にまかせちゃう?」
「・・・うん。そうだね。」
「食べたいものをリクエストしたら、何とかしてくれるよね。」
「そりゃね。・・ヒロトさんはシェフだもの。」
「遊は、今年卒業できるのかな? その後どうするんだろう。」
「・・ずっとはいないと思うな。この間単位はどう?って聞いたら、ばっちりだよとか言ってたから、たぶん卒業できるんじゃないのかな。」
「へえ・・レポート大変じゃないの?」
「遊って、あれでまじめなんだよ。」
真央ちゃんが遊のことを威張るのは、おかしい。
あんな見た目だから,ちゃらいのかと思ったら,天然パーマも茶髪も生まれつきって聞いて笑っちゃった。損してるのか得してるのか,最初に会った時は,そこらにいる変なやつかと思って怖かったもの。
そのギャップにやられて,真央が好きになったみたいだけど。
最近、真央は遊の話が出ると 少しシリアスな感じになるんだよな。
自分は大学に行くことになっちゃったから,もうすぐお別れだと思ってる。
あれ・・そっか、自分もだ。
せっかく告白してくれたのに、もうすぐ寮に入っちゃうんだよね。
つきあってもすぐにお別れ?・・ううん、そうとも限らない。遠距離でもずっと続くカップルだってあるはずだし。
電車が駅に着いた。
「どんな服にするの?」
「うーん・・。そうねぇ・・。」
「未来、冗談なしで、ホントに直也くん呼べば?」
「・・・いやだよ。できないよ。」
「わたしが呼んであげようか?」
「・・えっ・・そんなこと、やめてよ~。」
やめてよ・・と言いながら胸が高鳴ってるのを感じる。
軽いかなぁ、私・・。
期待も半分で、横をうかがうと・・・。
真央の、にやりとした笑い方は、「わかってますよ。」と言っているようだった。
「あ、雪!」
未来は、歩道のタイルの線を踏まないようにこだわって歩いていたので、下を向いていたから、真央が先に気が付いた。
「ホントだ。」
いつもの改札に入って、電車の中から、細かい雪が降っているのを見手数料いると、真央がドアのガラスにハアーと息を吹きかけた。ガラスは冷たいのに車内が温かかったためか、あまり白く曇らなかった。
「もー・・寒いよねぇ」
「・・ホワイトクリスマスになるといいな。」
「えー、原チャリでカフェに行けなくなるよ。」
未来の少々夢見がちなつぶやきに対して、真央は現実的だ。
「その時は親に送ってもらえばいいじゃない。」
「クリスマスに親の姿が見えるなんて興ざめだよ・・」
「・・・。」
クリスマスパーティーやろうと言い出したのは、真央だった。
有希ちゃんも同じことを考えたらしいが、真央のほうが年上でカフェでも先輩だから、仕切るのを全面的に任せたようだ。
個人的な分析だが、真央は、遊のことが好きだから,“想い出のクリスマス”にしたいのだろうと思う。
マキノさんは、自分たちの申し出に、笑いながら「24日は早めにお店を閉めるから、その後は好きなようにしてもいいよ。」と言ってくれた。スタッフどうしの親睦はとても大事なんだそうだ。
親睦しなくても、お店の仲間はみんな、もともと仲良しだ。
せっかくパーティーメニューとプレゼント交換と参加費用のことなんかをまじめに考えているのに、真央は最近、私に対してあまり態度が良くない。
「未来は、この間の彼氏とデートでもすればいいよ。」
「もう、やめてってば。彼氏じゃないよ。」
無責任なセリフには、きちんと反論しなくては。
実は、1週間ほど前の雨の日に、クラスの男の子が駅まで一緒に帰ろうと言ってきて、その時につきあってと言われたのだ。
自分はそんなこと考えたことがなかったから、本当にびっくりした。
同時に、少し嬉しかったのだ。
その彼は直也くんと言って、3年の1学期まではサッカー部にいて、勉強なんかは普通で、男友達がワイワイと騒いでいる中の一人だという印象だった。率先してクラスの中心になるような目立つ性格じゃなかった。
未来とは、3年で同じクラスになってから時々話をするようになった。
隣の席になったこともあって、教科書を忘れて来たときに、見せてあげたこともある。
話しやすい人だなと、思ってはいた。
あの日は傘をさして、通学路の横にある公園の中を歩いていた。
急に立ち止まって、まっすぐにこちらを見て、気持ちを伝えてくれた。
あの時のことを思い返すときゅんと胸が痛くなる。
自分の事をそんな風に思ってくれてたの・・って思ったら、なんだか照れくさくて、にやけて変な顔をしてはいけないと思って。決して嫌いじゃないし、嬉しいって気持ちもあって。だけど、まだ直哉君のこと、よく知らないし・・。どう返事していいのかわからなくて本当に困ってしまったのだ。
そう・・ホントに返事には困ったんだけど・・。
自分は、普通に学校に行って、変ったこともしてなくて、顔だって10人並だと思ってるし、これといったとりえもないのに、こんな自分を誰かが見てくれてて、好きになってくれたのかなって思ったら、やっぱり嬉しかった。
でも、嬉しい反面、直也君の勘違いじゃないかなとも思う。
・・私も、怒ったり拗ねたり、うじうじしたり、いろいろイヤなところもあるのに、今までは表面だけで何気なくしゃべってたけど、彼は本当の自分を知らないんだもん。
いつか、がっかりされるかもしれない・・って思う。
なんか、つきあうって、ちょっとこわいかも。
直也君から、「クリスマスはどうするの?」と聞かれて「バイト。」と答えてしまった。
本当の事だけど、断ったことになっちゃうのかな・・・。
なんだかちょっと、残念な気がした。
「パーティーに誘えば?」
「えー。おかしいよ、そんなの。スタッフでもないのに。」
「マキノさんなら連れて来いって言うよきっと。」
「・・・。」
うんまぁ・・そんな気はする。
「スタッフ以外にも誰か呼んでもいいと思う?」
「遊のお友達のカズ君とかもいいかもね。」
「そだね。」
「会費制にしようよ。そしたら気兼ねなく呼べるよ。」
「プレゼントは一個ずつ持ち寄りで。」
「プレゼントは値段決めておかなくちゃ不公平になるよ。」
「大人の人達は、乗ってくれるかなぁ。」
「いいんじゃないの?わたしたちが決めたことに乗っかってもらおうよ。物足りなきゃ自分であげたい人の分は別に用意すればいいんだから。」
「メニューは、ヒロトさんと遊にまかせちゃう?」
「・・・うん。そうだね。」
「食べたいものをリクエストしたら、何とかしてくれるよね。」
「そりゃね。・・ヒロトさんはシェフだもの。」
「遊は、今年卒業できるのかな? その後どうするんだろう。」
「・・ずっとはいないと思うな。この間単位はどう?って聞いたら、ばっちりだよとか言ってたから、たぶん卒業できるんじゃないのかな。」
「へえ・・レポート大変じゃないの?」
「遊って、あれでまじめなんだよ。」
真央ちゃんが遊のことを威張るのは、おかしい。
あんな見た目だから,ちゃらいのかと思ったら,天然パーマも茶髪も生まれつきって聞いて笑っちゃった。損してるのか得してるのか,最初に会った時は,そこらにいる変なやつかと思って怖かったもの。
そのギャップにやられて,真央が好きになったみたいだけど。
最近、真央は遊の話が出ると 少しシリアスな感じになるんだよな。
自分は大学に行くことになっちゃったから,もうすぐお別れだと思ってる。
あれ・・そっか、自分もだ。
せっかく告白してくれたのに、もうすぐ寮に入っちゃうんだよね。
つきあってもすぐにお別れ?・・ううん、そうとも限らない。遠距離でもずっと続くカップルだってあるはずだし。
電車が駅に着いた。
「どんな服にするの?」
「うーん・・。そうねぇ・・。」
「未来、冗談なしで、ホントに直也くん呼べば?」
「・・・いやだよ。できないよ。」
「わたしが呼んであげようか?」
「・・えっ・・そんなこと、やめてよ~。」
やめてよ・・と言いながら胸が高鳴ってるのを感じる。
軽いかなぁ、私・・。
期待も半分で、横をうかがうと・・・。
真央の、にやりとした笑い方は、「わかってますよ。」と言っているようだった。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる