1 / 3
第一章
暗闇に彼がいた
しおりを挟む
仕事が忙しくて、その男友達と会うのはひと月ぶりだった。
いつもの店で飲んで、うっかり終電を逃して、近くにある彼のアパートの別々の部屋で朝を迎える、これまでその流れを何回繰り返しただろう。いつかその関係が崩れる予感があっただろうか。
もしくは願望が。
髪も乾かさず倒れ込むように寝ていた私が目を覚ましたのは、扉がキィと開く音だった。仰向けのままぼんやり目を開くと、うっすら彼のシルエットが見えた。
「何?」
「いや、随分飲んでいたから。寝る前に水、飲んどけよ」
声が掠れていたのは彼も飲み過ぎたからだろうか。
起き上がって差し出されたペットボトルを取ったが、ふらりと体勢が崩れる。やば、本当に飲みすぎた。
おい、と苦笑した彼が私を片手で支え、もう片手で私が握ったままのペットボトルの蓋を器用に開けて口に含ませてくれた。こく、こく、と二口ほど飲んで目を開けると彼と目が合った。
急に飲み屋で交わした会話が蘇った。
彼の新しい時計を見ようと伸ばした手を気安く触るな、と避けられ、おまえ男の手を触ったことあるのかよ、と鼻で笑われたのだ。どうせないよ、むくれたあと、触ろうとしたのは時計であってお前
じゃねえ!と蹴飛ばしたすねの感触を思い出して、ふふっと笑う。
その右手が今、私の手の上からペットボトルを握っている。酔いもあってけらけら笑い出した私とその視線の先を見て、彼もその会話を思い出したらしい。
よかったな、と呆れたようにペットボトル(と私の手)を下ろした彼だったが、そのまま私の手を離さない。
やや迷うその目と同じ圧力で手は重ねられたままだ。
この年まで男の手を触ったことがない、それは事実で、つまりそういうことだ。
それでも私はそれが何を意味するのか分かっていながら、自分の手を裏返し彼の手を握った。
いつもの店で飲んで、うっかり終電を逃して、近くにある彼のアパートの別々の部屋で朝を迎える、これまでその流れを何回繰り返しただろう。いつかその関係が崩れる予感があっただろうか。
もしくは願望が。
髪も乾かさず倒れ込むように寝ていた私が目を覚ましたのは、扉がキィと開く音だった。仰向けのままぼんやり目を開くと、うっすら彼のシルエットが見えた。
「何?」
「いや、随分飲んでいたから。寝る前に水、飲んどけよ」
声が掠れていたのは彼も飲み過ぎたからだろうか。
起き上がって差し出されたペットボトルを取ったが、ふらりと体勢が崩れる。やば、本当に飲みすぎた。
おい、と苦笑した彼が私を片手で支え、もう片手で私が握ったままのペットボトルの蓋を器用に開けて口に含ませてくれた。こく、こく、と二口ほど飲んで目を開けると彼と目が合った。
急に飲み屋で交わした会話が蘇った。
彼の新しい時計を見ようと伸ばした手を気安く触るな、と避けられ、おまえ男の手を触ったことあるのかよ、と鼻で笑われたのだ。どうせないよ、むくれたあと、触ろうとしたのは時計であってお前
じゃねえ!と蹴飛ばしたすねの感触を思い出して、ふふっと笑う。
その右手が今、私の手の上からペットボトルを握っている。酔いもあってけらけら笑い出した私とその視線の先を見て、彼もその会話を思い出したらしい。
よかったな、と呆れたようにペットボトル(と私の手)を下ろした彼だったが、そのまま私の手を離さない。
やや迷うその目と同じ圧力で手は重ねられたままだ。
この年まで男の手を触ったことがない、それは事実で、つまりそういうことだ。
それでも私はそれが何を意味するのか分かっていながら、自分の手を裏返し彼の手を握った。
2
お気に入りに追加
24
あなたにおすすめの小説
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。
鬼上官と、深夜のオフィス
99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」
間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。
けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……?
「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」
鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。
※性的な事柄をモチーフとしていますが
その描写は薄いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる