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第一章
暗闇に彼がいた
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仕事が忙しくて、その男友達と会うのはひと月ぶりだった。
いつもの店で飲んで、うっかり終電を逃して、近くにある彼のアパートの別々の部屋で朝を迎える、これまでその流れを何回繰り返しただろう。いつかその関係が崩れる予感があっただろうか。
もしくは願望が。
髪も乾かさず倒れ込むように寝ていた私が目を覚ましたのは、扉がキィと開く音だった。仰向けのままぼんやり目を開くと、うっすら彼のシルエットが見えた。
「何?」
「いや、随分飲んでいたから。寝る前に水、飲んどけよ」
声が掠れていたのは彼も飲み過ぎたからだろうか。
起き上がって差し出されたペットボトルを取ったが、ふらりと体勢が崩れる。やば、本当に飲みすぎた。
おい、と苦笑した彼が私を片手で支え、もう片手で私が握ったままのペットボトルの蓋を器用に開けて口に含ませてくれた。こく、こく、と二口ほど飲んで目を開けると彼と目が合った。
急に飲み屋で交わした会話が蘇った。
彼の新しい時計を見ようと伸ばした手を気安く触るな、と避けられ、おまえ男の手を触ったことあるのかよ、と鼻で笑われたのだ。どうせないよ、むくれたあと、触ろうとしたのは時計であってお前
じゃねえ!と蹴飛ばしたすねの感触を思い出して、ふふっと笑う。
その右手が今、私の手の上からペットボトルを握っている。酔いもあってけらけら笑い出した私とその視線の先を見て、彼もその会話を思い出したらしい。
よかったな、と呆れたようにペットボトル(と私の手)を下ろした彼だったが、そのまま私の手を離さない。
やや迷うその目と同じ圧力で手は重ねられたままだ。
この年まで男の手を触ったことがない、それは事実で、つまりそういうことだ。
それでも私はそれが何を意味するのか分かっていながら、自分の手を裏返し彼の手を握った。
いつもの店で飲んで、うっかり終電を逃して、近くにある彼のアパートの別々の部屋で朝を迎える、これまでその流れを何回繰り返しただろう。いつかその関係が崩れる予感があっただろうか。
もしくは願望が。
髪も乾かさず倒れ込むように寝ていた私が目を覚ましたのは、扉がキィと開く音だった。仰向けのままぼんやり目を開くと、うっすら彼のシルエットが見えた。
「何?」
「いや、随分飲んでいたから。寝る前に水、飲んどけよ」
声が掠れていたのは彼も飲み過ぎたからだろうか。
起き上がって差し出されたペットボトルを取ったが、ふらりと体勢が崩れる。やば、本当に飲みすぎた。
おい、と苦笑した彼が私を片手で支え、もう片手で私が握ったままのペットボトルの蓋を器用に開けて口に含ませてくれた。こく、こく、と二口ほど飲んで目を開けると彼と目が合った。
急に飲み屋で交わした会話が蘇った。
彼の新しい時計を見ようと伸ばした手を気安く触るな、と避けられ、おまえ男の手を触ったことあるのかよ、と鼻で笑われたのだ。どうせないよ、むくれたあと、触ろうとしたのは時計であってお前
じゃねえ!と蹴飛ばしたすねの感触を思い出して、ふふっと笑う。
その右手が今、私の手の上からペットボトルを握っている。酔いもあってけらけら笑い出した私とその視線の先を見て、彼もその会話を思い出したらしい。
よかったな、と呆れたようにペットボトル(と私の手)を下ろした彼だったが、そのまま私の手を離さない。
やや迷うその目と同じ圧力で手は重ねられたままだ。
この年まで男の手を触ったことがない、それは事実で、つまりそういうことだ。
それでも私はそれが何を意味するのか分かっていながら、自分の手を裏返し彼の手を握った。
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