瞑る

瞑る

　ニキビができた。場所は私の鼻の先っちょ。黄色い黄身が中心にある半径一ミリの忌々しい異物。朝起きて鏡を見るとポツンとできていた。今日という日が憂鬱になる。家を出るまであと30分。なんでよりにもよって今日なの。私は肩を落とし考える。学校を休んでもいいぐらいだ。そんくらい憂鬱。理由は今日発表会があるからだ。題材は貧しい国の子供たち。そんなことより発表会でマスクはアリなのか？もし無理だったらマジしんどい。発表会を休むのも気が引けるしこの顔で臨むのも心苦しい。そもそも発表会自体がダルイ。ああ～どうしようどうしよう。トン。そんなことをぐるぐる考えていると私の前に朝ごはんが置かれた。スクランブルエッグにウィンナー、スライスしたトマトにフルーツと、まさにザ・朝ごはんだった。私は朝ごはんには手をつけず、スマホの内カメラで私を写す。
———よし潰そう。私は意を決して異物を荒療治で除去することにした。私は母の裁縫セットから細い針を手に取り再び鏡の前に立った。鼻先を鏡に近づける。そしてゆっくり、ゆっくりと針先を患部に近づける。細く尖った針先が黄身に触れると、本当に卵の黄身が割れたように中から汁が出てきた。黄色い黄身は穴の空いた風船のように萎む。
———ふぅ。私は作業の集中で止めていた息を吹き返す。あとはママのコンシーラーをこそっと使ってと———。私はママのバックに入っている化粧用品をスリでもするかのように取り出す。容器に力を入れて人差し指に1センチ程度のクリームをのせる。ニキビ潰すのは跡になるからって、ママいちいちウルサイからな～。すぐさま容器をバックに戻し、私は潜入スパイのように洗面所へ戻る。指先のクリームを患部に慎重にあてる。
———よしよし上手くいった。私は上手く誤魔化せたことを確認すると、鏡の私に対してニッコリする。朝ごはんは？ママがローファーを履く私に後ろから声をかける。いらなーい。
　私は棒読みで応えるとスマホで患部をじっくり観察しながら玄関の扉を開けた。