【R-18】藤堂課長は溺愛したい。~地味女子は推しを拒みたい。

絵夢子

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19.勘弁してくれ@藤堂side

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 6月の30周年パーティ当日。
 早目に通常業務を切り上げ、会場のホテルへ移動する。

 俺たち営業は受付前で招待客を待ち、接待することになっている。
 先月は招待状を手に方々の顧客へあいさつ回り。俺は自分の担当顧客に、部下の付き添いに、ほとんど社内にいなかった。

 受付で、幸和製菓の広沢さんと会う。
「藤堂君、ほかに大きな顧客がいるだろうに、うちなんか相手にしてていいの?」
「俺には、広沢さんが一番大事なお客様です。」

 本心だった。

「最初の案件で先輩について広沢さんにお会いして、打ちのめされてなったら、俺、いまだに生意気な馬鹿なガキのままで、課長になんか、なれてなかったですよ。」
 広沢さんは、寂しそうな、嬉しそうな顔をする。
「あの藤堂君が、今や俺と同じ、課長だもんなあ!」

 もうすぐ、広沢さんとの最後の仕事が終わる。来月広沢さんは幸和を離れて実家のある長野へ移る。

「藤堂君、今度継ぐ、俺の実家のスーパー、田舎だからね、ちょっと遠くからも車でお客さんが来て、結構広いの。大手のショッピングモールには負けちゃうけど、また違う面白みがあると思うんだよね。」
 広沢さんは楽しそうに話す。

「幸和の広告担当としての経験、マーケティングのスキルもさ、行かせると思うんだよ。まあ、ちょっと寂しいけど、継ぐからにはね、もっと大きくしてやろうと思ってる。今はとても無理だけど、藤堂君に広告頼めるくらいにさ。」
 俺は涙をこらえた。
 正直、田舎に引っ込むって思ってた。そうじゃない、広沢さんは新天地で、新しいチャレンジをしようとしている。

「広沢さん、それまでに、もっといい広告企画できるように、俺も頑張ります。また、一緒に、仕事できる時まで。」
 どちらからともなく、握手を交わした。

 ビュッフェでつまみを調達しながら、俺と広沢さんは飲み交わした。思い出話は尽きない。
 1時間以上、ふたりで話し込んだ。会社の30周年も何も関係なかった。

「ああ、藤堂君、独り占めして悪かったね。ずいぶん話し込んでしまった。私の知った顔がちらほらいるから、挨拶してくるよ。」
 長く製菓会社の広告を担当していた広沢さんだ。今日の招待客には広告業界の面々も多い。幸和製菓を離れる前に挨拶したいのだろう。

「また、改めて。ああ、長野にも遊びに来てよ。」
「はい。連絡します。」
 広沢さんは片手を挙げて、人込みに消えた。

 広沢さんはプライベートな連絡先を知っている少ない仕事関係者だ。
 仕事上の関係から、次の新しい関係に移行できるだろう。

 俺は会場を廻りながら部下が接待している顧客に挨拶したり、紹介を受けて名刺交換したりして過ごした。

「なあ、あの子、最近雰囲気変わったよな。今日めちゃくちゃいいな。」
「ああ、総務のな。あれなら、アリだよな。」

 下世話な社員同士の会話に周りを見渡す。
 さくらがいた。

 ノースリーブで体に沿うシンプルなシャンパンゴールドのワンピース。
 ひざ下までの長さがあり、ほかの露出が控えられている分、肩の露出が際立っている。
 大きく巻いた髪を片方に流している。片側だけ見える耳の後ろの首のラインがなまめかしく見えた。
 腕章をたたんで安全ピンで腰に付けているのがさくらっぽいが他はこれまでのパーティ会場でのさくらとは別人だ。

 眼鏡も外して、唇はヌーディな色なのに濡れて光っている。

 西島の仕業か。あいつは美容師かスタイリストにでも転職した方がいい。

 さくらは、男に何か耳元で言われ、そのまま一緒に会場出口に向かう。俺は慌ててついていく。
 さくらが先導して会場を離れ、細い廊下へ入って行く。
 いや、そんな格好で男と一緒に人気の無いところへ…
 俺はふたりを追ってその細い通路へ飛び込んだ。

「きゃっ!」
「あ、すみません!さくら!」

 ひとり引き返してきたさくらとぶつかり、とっさにさくらの肩を両手で支える。
「藤堂課長、すみません。大丈夫です。」
 さくらがちらりと肩に直接触れているおれの手を見る。

「ああ、ごめん。とっさに」
 慌てて手を離す。
「いえ。ありがとうございます。どうされました?タバコ、吸われないですよね?」
「タバコ…?ああ」

 通路の先は喫煙所だった。聞かれて案内してたのか。

「あの…、失礼します。」
 正面に立ち塞がる俺の横を通って戻っていく。
 後ろから見ても、横に流した髪から覗く首、歩くのに合わせて揺れるワンピースに強調された腰、無防備にさらされた肩が目を引いてしまう。

「待って!」
 俺は自分のジャケットを脱いでさくらの肩にかけた。
 さくらが驚いて顔をこっちに向ける。

 俺はさくらには大きすぎるジャケットごとさくらを両腕で包む。
「もう、勘弁してくれ…」
「えっ?」
 さくらの息が、首にかかる。
「…ジャケット、持って来てる?」
「え?ああ、はい。クロークに…」
「中に戻る前に、出してきて。」
 さくらが動揺してるのが伝わる。

 さくらが俺の胸を手で押して離す。
「取り敢えず、人目がありますから」
「ああ…ごめん」
 流石に、会社の人間が集まってる場所で、まずい。
 さくらが返してきたジャケットを受けとる。

「あの、私、なんか変ですか?」
「え?」
「何でジャケット…」
 ああ、急にクロークからジャケット出して着ろなんて、おかしなこと言ってるよな。

「男どもが、やらしい目でさくらさん見てるから」
 早くさくらに体を隠して欲しくてクロークへ向かいながら話す。
「え?まさか」
「まさかじゃないよ。ノースリーブで、襟足見せて、身体の線でてるから…」
「すみません。見苦しくて。」
「えっ?いや、そうじゃなくて!」
「だって、勘弁してって…」
「さくらさんが、やらしい目で見られるの、俺が嫌なんだって。」
 多分、俺が一番やらしい目でさくらを見てる。

 さくらがクロークでジャケットを受け取って、袖を通した。
 少しほっとする。
「似合ってるし、きれい…だよ、きれいすぎて、目立ってるんだよ。」
 きれいって言うの、照れるな。

「部長が、顧客も参加するパーティなんだから、少しは色っぽい格好でもしろって言うので、西島さんに相談したんです。」
「そんなの、セクハラじゃないか。コンパニオンじゃないんだからさ。」
 あんの親父。さくらに何させてやがる。
「急に、スカートとか履いて会社来るようになったと思ったら、こんなきれいになって男たちに注目されて…、ヒヤヒヤするから、ほんと勘弁して…」

 抱き寄せたくなるのをぐっと我慢する。
 今日のさくらが、俺のためにこんな装いをしてきたなら、どんなに嬉しかっただろう。

「今日、終わったら、飲みにでも行かない?」
「え?」
「あの日、楽しかったの、俺だけじゃないよな。焼酎、また一緒に飲もう。」

「あの、今日は、約束があって…」
「あ…そっか…。」
 まさか…
「スギシタって人?」
「…ええ。」
 その姿で、そいつに会いに行くのか。
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