【R-18】藤堂課長は溺愛したい。~地味女子は推しを拒みたい。

絵夢子

文字の大きさ
上 下
37 / 48
@さくらside

17.お久しぶりです@さくらside

しおりを挟む
 
 神殺しのテュルファング。
 手にした者にチカラと引き換えに絶望の呪いを与える漆黒の剣。
 これを腰に差して、わたしはギャバナのライト王子のもとへと向かう。
 お願いして呪染対策チームを派遣してもらった手前、最低限の説明責任は果たしておこうと考えての行動。あとお世話になった以上は、きちんとお礼を言っておかなければね。
 わたしは基本的にちゃんとしたえらい人には媚びへつらこともじさない女。
 だから菓子折りを持っての表敬訪問。

「……話はだいたいわかった。そいつの所有権も認めよう。というかそんな物騒な品を置いて行かれてもこちらとしては迷惑だしな」ライト王子は言った。「それにしても健康スキルに思わぬ使い道が発覚したな。呪いの影響をまるで受けないのだから、そっち系統のアイテムを使い放題じゃないか」

 呪いの武器、呪いの鎧、呪いの仮面、呪いの指輪、呪いのネックレスなどなど、各種呪いのアイテム。
 この手の品々は高性能な反面、使用者に多大なリスクを負わせる。
 だいたい調子がいいのは初めだけ。最終的には、とーっても悲惨な結末が待っているのがお約束。
 しかしわたしであればリスクを負うことなく、全身を呪いグッズでコーディネートしたところで、心おきなく使用できるというわけさ。
 はははは、ちっともうれしくないや。わたしはもっと普通のおしゃれの方がいい。

「とはいえ剣なんて扱えるのか? 撃つ殴る蹴る漁るが専門のおまえに」

 せっかくの名刀も素人が握れば、その辺の木の枝とかわらない。
 だからこそのライト王子のこの言葉。
 そしてわたしの場合、剣は完全に門外漢。それは自分自身が重々承知をしている。

「そのへんのことも踏まえて、ちゃんと戦い方は考えてあるよ」

 敵とテュルファングを手にして対峙。
 カンカンカンとしばらく打ち合えば、相手も「あれ? 剣はやたらと立派だけど、こいつ、へっぽこ剣士だぞ」と気がつく。
 頃合いを見計らってうっかり剣を手放すわたし。あわてて拾おうとするも自分のつま先にてこつんとカーリング。大事な相棒が敵の方へと向かい「あぁ、しまった!」
 足下に転がってきた得物を見た敵。

「へっへっへっ、とんだマヌケめ」

 これ幸いと武器を奪おうとする。
 だがそれこそが恐ろしいトラップ。
 なにせ神殺しの剣には手にした途端に発動する呪いがあるのだから。
 うっかり手をのばしたが最後、すかさず人生坂をごろごろと転げ落ちていく。バッドエンドに向かって一直線。
 ……といったような使い道を得得と説明したら、ライト王子は「なんてイヤらしい戦法なんだ」「戦うことになる相手が気の毒すぎる」と顔をしかめる。

「でもそれだけ悲惨な目にあったら、逆に自棄になって暴れたりしないか」

 辛すぎて人生に悲観。絶望のあまりキレて凶行に走ることを懸念するライト王子。
 その心配はごもっともながら、やはり問題なし。
 なぜなら暴れたくとも腰がぎっくり状態にて、まともに動けやしないからだ。うっかり剣を手にリキもうならば、とたんにお尻の爆弾が破裂する。
 なによりウツウツした気分のせいでやる気が出ない。「もう、なんか、どうでもいいや」と投げやりになり無気力にて万年床でグッタリ。そして枕元の抜け毛の多さに恐れおののく。
 うん。改めて口に出して説明してみると、じつにヒドイ話だな。なんという負のスパイラル。
 神殺しの呪い、おそるべし。

「もういい、わかった。だからとりあえずソイツをこっちに近づけんな」
「心配しなくてもだいじょうぶだよ。テュルファングにはわたしの許可ナシには呪いを発動しないようにと、よーく言い含めてあるから」

 呪いの使用制限。
 それこそわたしが神殺しのテュルファングに課した降伏の条件。
 ちなみにルーシーが課した条件は研究協力。
 なにせいろいろと問題がある剣ではあるものの、激レア素材の神鋼造りであることにはちがいない。青い目のお人形さんは貴重なサンプルとしておおいに役立てるつもりのようだ。「べつにきさまが生きてようが死んでようがワタシはどちらでもかまわない」とルーシーに言われて、テュルファングが「ひぃぃ」と悲鳴をあげる。これにより序列が完全に確定した。
 彼の加入によって飛躍する魔導科学。
 リンネ組はますますの発展を遂げることであろう。
 そんなことをぽわぽわ妄想していたら、ライト王子がある提案を口にする。

「それはともかくとして、なんならウチが所蔵している呪いの品を見てみるか? 気に入ったのがあったら適当に持っていってかまわんぞ。保管していても百害あって邪魔なだけだし。有効利用できる者がいるのならば、そいつが活かすべきであろう」

 タダでいいぞとか、めずらしく太っ腹なこと仰る王子さま。
 これさいわいと面倒なお荷物をわたしに押しつける気だ。
 だがみんなにとっては邪魔な品でもわたしにとってはそうではないので、ここはお言葉に甘えてみることにした。



 ギャバナの王城敷地内、隔離された区画にある半地下の倉っぽい建物。
 ここがいわくつきの呪いの品を集めた専用の倉庫。
 ライト王子の好意? によってここに足を運んだわたしとルーシー。
 陽炎のごとくゆらめく妖気。建物全体に何重にも呪染対策がみっちり施されているという話だが、わたしの目にはむしろ建物自体が収蔵品の影響を受けて、呪われてしまっているかのように映る。

「ある意味、そういうことなのでしょう」
「?」
「呪いを弾き返す呪い。呪いを封じる呪い。方向性がちがうだけで、中味は同じようなものですから」

 ルーシーの説明に「うーん」と首をかしげつつも、わたしは建物の扉の取っ手を掴む。
 横にスライドする大扉。けっこうな重さにて、おもわず「うんとこどっこいしょ」と言ってしまった。
 建物内部には薄っすらと表面にホコリが積もったショーケースが整然と並んでおり、中には短剣、長剣、指輪に冠、ネックレスや髪飾りなどのアクセサリー類に、宝石がごてごて付いたベルトやら小物入れなどがずらり。
 壁沿いのケースには鎧や鎖帷子、ドレスに調度品などの比較的大きな品が陳列されてある。
 どいつもこいつもいわくありげのドヤ顔にて、じつに堂々たる呪われっぷり。
 すべての品にはご丁寧にも説明書きが添えられてある。これはありがたい。

「はてさて、なにか使えそうな品はあるかなぁ。えーと、この短剣はモテるけどどこまでいってもいいひと止まりか。こっちの髪飾りはダイエット効果が期待できるけれども背中に毛がわさわさにて耳毛も生えてくると、なんか処理がたいへんそう」
「絶交のイヤリングなんてものもありますよ、リンネさま。なんでも異性にモテモテだけれども同性から蛇蝎のごとく嫌われるみたいです。女同士の友情か男との愛情か、これはとてもデリケートなところをついてきますね」

 主従にて目を皿のようにして品物を物色すること三時間。
 ろくでもないエピソード満載なグッズの数々。その中から最終的にわたしが選んだのは、細いチェーンにてネックレスのように首から下げられる指輪。
 なんら装飾が施されていないシンプルな造りの銀製品。
 これは、身につけていると金運がちょっぴりアップするかわりに、恋愛運がダダ下がりするというシロモノ。大人しそうな見た目に反して、愛と金の二択を迫るとか地味にえぐい。
 何かを得るためには何かを犠牲にしなければならない。
 いささか交換レートに首を傾げるものの、対価を支払うという観点は至極真っ当なような気もする呪法の世界。
 とはいえ、やたらと恋愛運を犠牲にする品が多いような気がするのだけれども……。

「いつの世も色恋絡みの悩みは尽きないということなのでしょう。もっとも身近にて強烈な呪力が発生しやすい案件ですので」とルーシーさん。

 青い目のお人形さんから、ためになるようなならないような、そんなお話を拝聴しつつ倉庫漁りは終了。
 最後にライト王子に挨拶してから引き上げるかと、城内の廊下をトテトテ歩いていたら、前方の床にて何やらキラリと光るものを発見!
 すかさず近寄ってみたらコインが落ちてたよ。さっそく呪いのアイテムの効果発動。なんてこったい、すごい効き目じゃないか。これさえあれば一生、小銭に不自由しないですむぞ。
 拾ったコインを手に、「うひょー」と浮かれるわたしを尻目にルーシーがぷつぷつつぶやく。

「コイン一枚拾得するのに支払う対価。推定にておおよそ恋愛運十。ちなみに最大値百ですので交換レートとしては、かなりのぼったくり」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

鬼上官と、深夜のオフィス

99
恋愛
「このままでは女としての潤いがないまま、生涯を終えてしまうのではないか。」 間もなく30歳となる私は、そんな焦燥感に駆られて婚活アプリを使ってデートの約束を取り付けた。 けれどある日の残業中、アプリを操作しているところを会社の同僚の「鬼上官」こと佐久間君に見られてしまい……? 「婚活アプリで相手を探すくらいだったら、俺を相手にすりゃいい話じゃないですか。」 鬼上官な同僚に翻弄される、深夜のオフィスでの出来事。 ※性的な事柄をモチーフとしていますが その描写は薄いです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

処理中です...