【R-18】藤堂課長は溺愛したい。~地味女子は推しを拒みたい。

絵夢子

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@さくらside

8.4月1日21:38 涙@さくらside

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 え?
 藤堂さんが私の頭を撫でてくれている。
 向こうの肘をカウンターについて頭を支え、優しい表情の顔を私を覗き込むように傾けて。
 私はどうしたらいいのかわからないまま、視線を逸らせずこの顔をじっと見つめ返してしまう。
 こんな時にどうしたらいいか、正解なんてわかるはずない。

「えらいね。よくあんな部長の下で頑張って来たね。みんなが飲んで騒いでる横で、会場中駆け回って、申請書がめんどくさいっていう奴らにちゃんと説明して、残業してる俺に紅茶淹れてくれて…」

 私の目から、涙がぽろぽろこぼれてしまった。
 だって、そんなの、一番認めてほしいと思ってた憧れの人に、誰も見てないと思ってた自分の頑張りを、から回ってるだけかもって自分自身ですら思ってたのに、気づいてもらえれたなんて。

「あ…ごめんなさ…い」
 眼鏡をはずしてカバンの中のポケットに入れ、ハンカチを探る。
 恥ずかしい。泣くなんて。

 藤堂さんが私の頭をぐいっと自分の肩に寄せる。
「うん。泣いちゃえ。さくらは、頑張ったんだから。」
 ああ、もう駄目だ、涙止まらない。

 このままじゃ、藤堂さんのジャケットを汚してしまう。
 私は手で何とか自分の涙をぬぐう。

「いいよ、俺の肩濡らして。泣かしたの、俺なんだから。」
 止まらなくなって、しゃくりあげて子供みたいに泣いてしまう。
 こんな風に、泣かせてくれる場所が無かった。

「さくらは、いい子だよ。」
「そんなの言われたら」
「いいって」
 なんて大きな人なんだろう。「泣くな」じゃなくて、泣かしてくれる。
 憧れて、ずっと見ていた仕事ができて、面倒見のいい藤堂さん。さらにこんな心の広いところを知ってしまった。
 しかも、私に対して、こんな風に…。

 藤堂さんに包まれて私は居酒屋の周りの世界から遮断されて、心の中にあった黒いものを涙と一緒に排出した。

「さくら、出ようか」
 申し訳ないな、私が泣いたりしたから。
「すみません」
「ゆっくり出てきて?」

 藤堂さんが立ち上がって、私の頭をポンポンとして、伝票をもって先に出ていく。
 カバンからハンカチを出して涙を拭きながらついていく。
 他のお客さんが何事かとみていて、恥ずかしい。藤堂さんにも恥ずかしい思いをさせてしまった。

 店を出ると、藤堂さんは、財布を出そうとした私の手を制してつかんだまま、駅と反対の方へ引いていく。
 涙でぬれてて、申し訳ないな。でも、藤堂さんのぬくもりが、嬉しい。

 オフィスビルが並び、周りの飲食店は金曜の夜でににぎわっている。
 その隙間にある小さな公園に、私は藤堂さんと並んで座っていた。
 泣いてる私を人目のないところに連れて来てくれたんだ。

「ああ、あの、藤堂さん、落ち着いたら、私、帰りますから、藤堂さんはもう…」
 これ以上、迷惑かけたくない。困らせたくない。

「泣いている女の子、置いていけるわけ、ないでしょ。」
 落ち着くまで、付き合ってくれるつもりなの?
 藤堂さん、いいひとすぎるよ。責任感の強い管理職なのは知ってるけど、ただの他部署の後輩にここまでしてくれるなんて。
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