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@藤堂side

8.4月1日21:38 涙@藤堂side

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 俺、気づいたらさくらの頭撫でてた。
 自分を認めてくれない部長の下で、みんなの役に立とうとして、一生懸命仕事して、
 たまたま相談した別の部の課長のアドバイスに喜んで。けなげで、かわいい。

 さくらはびっくりして、固まってる。
 職場の、別の部署の後輩。こんなことして変なことになったらまずいって分かってる。
 でも、もう、ほんと、愛しい子。

 さくらは固まったまま、俺を見てる。
「えらいね。よくあんな部長の下で頑張って来たね。
 みんなが飲んで騒いでる横で、会場中駆け回って、
 申請書がめんどくさいっていう奴らにちゃんと説明して、残業してる俺に紅茶淹れてくれて…」
 さくらの目から、ぽろぽろ涙がこぼれた。

「あ…ごめんなさ…い」
 さくらが眼鏡をはずして自分のカバンを探る。
 俺は思わず、さくらの頭を自分の肩に引き寄せた。
「泣かないで」
って言いかけたけど、違う。今、さくらはずっとため込んでいた気持ちをやっと外に出せている。
 俺の前で、そんな風に泣いてくれている。
「うん。泣いちゃえ。さくらは、頑張ったんだから。」
 あ、さくらって呼んじゃった。もういいや…酔っぱらいだって許してくれ…。

 さくらは自分の手を俺との間に差し込んで、一生懸命涙をぬぐっている。
「いいよ、俺の肩濡らして。泣かしたの、俺なんだから。」
 さくらは、しゃくりあげて泣いた。
 ほかの客や店員が気にしてちらちら見るので、
 俺は両手でさくらを抱え込んで、周りの視線からさくらの泣き顔を隠した。
「さくらは、いい子だよ。」
「そんなの言われたら」
「いいって」
 思う存分、泣いちまえ。

 俺の顎をさくらの髪がくすぐる。
 泣かしといて、俺の前でさくらが、しっかりもののさくらが、泣いてくれるのが嬉しい。
 思う存分、甘やかして、辛いの吐き出させたい。

「さくら、出ようか」
 もっと、さくらの心の中にたまっているものを吐き出させてあげたかった。
「すみません」
「ゆっくり出てきて?」

 俺はレジで会計を済ませた。ハンカチで顔を拭きながらついてきたさくらが、
 泣き顔をふせたまま、バッグがら財布を出そうとする手を握った。
「いいって」
「じゃあ…、ごちそうさまです」
 涙混じりの声でさくらが律儀に言う。

 俺はその手を放さず、店の外を歩いた。
 さくらの手を握って歩いている。涙でしっとりして、小さくてかわいい手。
 離れないように、痛くないように、力の加減をする。

 俺がどこに行こうとしてるのがわからないまま、さくらは何も言わず手を引かれてついてくる。
 俺への信頼なのか、役職者に抗えないと思っているのか。
 行先もどうするつもりかも聞かずについてくるけなげなさくら。

 この一帯は会社が入るビルの間に、働く人たちが通う飲食店が並んでいる。
 その隙間に、小さな公園がある。
 遊具のない、小さな空きスペースにベンチと植木だけのある公園で、
 昼時にはそこで食事をとる人を見かけるが今は誰もいない。

 俺はさくらの手を引いてベンチに座った。さくらも倣って横に並ぶ。。
「ああ、あの、藤堂さん、落ち着いたら、私、帰りますから、藤堂さんはもう…」
 俺に迷惑をかけていると思ったんだろう、さくらが気を遣っている。
 落ち着いて、泣き止んではいるけれど、街頭や看板の明かりでさくらの潤んだ瞳が光る。

「泣いている女の子、置いていけるわけ、ないでしょ。」
 あ、「女の子」なんて言っちゃって、セクハラ案件かなあ。
 でも、一生懸命頑張って、報われなかった思いを吐き出して泣いている25歳のさくらは、かわいい女の子だった。

 ここで、とことん、甘やかして、心のなかのつらい気持ちを全部涙で流させてあげたい。
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