【R-18有】皇太子の執着と義兄の献身

絵夢子

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第五章 破綻

9.皇太子と某伯爵令嬢2

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リオネルは令嬢の手を取り、立たせると、長椅子に導き並んで座らせた。
皇太子が、自分の境遇に気遣いをみせ、優しく触れてくれたことで、
令嬢の緊張の表情に安堵が混じった。

貴族令嬢として育ち、近い血縁以外の異性とこのように二人で部屋にいることも
並んで座ることも初めてだった。
幽閉された部屋は、寝室でもある。
このような私室に皇太子といることに改めて自身の境遇の異常さを感じるとともに
皇太子が訊ねてきた意図に、どこか期待する気持ちがあった。

並んで座っても、令嬢の手を握る皇太子の手の感触に
その期待はあながち可能性の低いものではないと思えた。

リオネルは令嬢がじっと自身の顔を見つめながら、
期待に満ちた媚びをその目線に混ぜたことを見逃さなかった。
それを合図に肩の位置に持ち上げて支えていた令嬢の手の甲を親指で撫でた。

令嬢の唇が薄く開き、そっと息が漏れた。
視線を合わせたまま、リオネルは頭を下げ自分の手の上にある令嬢の手にそっと唇で触れた。

「殿下…」

令嬢は皇太子のクリスタという婚約者のことは当然に知っていた。
しかし、それは立場として選んだ妃で会って
皇太子が情けをかけて想っているのは自分なのだと都合よく思いを巡らせた。
罪人となった親と一緒に罰するつもりならば、
このようには自分を扱うはずはない。

尊敬される侯爵を父に持ち
デビュタントでは誰よりも美しく、そして皇太子とダンスを踊ったクリスタ。

そのクリスタを欺こうとも
このような境遇に突然落とされた令嬢が
皇太子の情にすがろうとするのを誰が責められるであろう。

令嬢の瞳が潤み、うっとりしているのをリオネルは確認し
もう一度令嬢の手に唇を当てた。
先ほどの、乾いた唇の先でそっと触れるのとは違い
強く唇を押し当て、唇のぬめりが令嬢に触れる
吸い付くような口づけだった。

「あっ…!」
令嬢が思わず声を上げた。

リオネルは顔を上げると令嬢の耳元へ唇を近付けた。
令嬢は激しく打つ心臓の音が皇太子に聞こえるのではないかと再び緊張した。

「触れるのを許してくださいますか?」
その言葉の意味を十分に理解しないまま令嬢はうなづいた。

リオネルは令嬢の手に触れているのとは逆の手をゆっくり自身の口元に持っていき
手袋の中指の先を咥えて自身の手からはがした。
手袋を長椅子の上に置くとその手で令嬢の頬を撫でた。

皇太子の長い指が耳朶を、頬をすべり、
耳の裏にも届いた。

ぞわぞわとする初めての感覚に令嬢は吐息を漏らした。

婚姻前にこのように触れることをクリスタは決して許さない。
初夜の床で、皇太子に触れることを許してもかたくなな態度を崩さないであろう。

皇太子に触れられ、初々しくもその感覚に身を任せる令嬢は
クリスタとは程遠い。
しかし淫らにあえいで見せる娼婦よりは
クリスタの代替えとしてその姿を重ねることが容易い。

初夜はかたくなに自分を拒みながら
皇太子妃の義務として皇太子である自分が触れることを許すであろうクリスタ。
毎夜毎夜、クリスタの体を愛撫し、口づけるうちに
きっと思わず吐息を漏らし、乱れた姿を見せるはずだ。

皇太子は令嬢と唇を重ねた。
一度そっと重ね、令嬢が恥ずかしそうに目を伏せるのを確認した。

再び唇を合わせ、令嬢の唇の間から舌を差し入れた。
令嬢の体がびくっと反応した。
「んっ!」

リオネルは令嬢の肘の上を強くつかみ激しく唇を犯した。
自身の欲望を抑えられないというように。
皇太子が自分を激しく求めていると示すことで令嬢の喜びを引き出した。

初夜で、このようにクリスタを激しく貪っても
クリスタは拒まず、「職務」に従順であろうとするであろう。
自分を憎みながら、あの清い体を皇太子に蹂躙させるしかない
か弱いクリスタを思いながらリオネルは目の前の令嬢の唇を激しく吸い
片腕で体を抱き、もう片方で令嬢の胸をドレスの上から撫でた。

令嬢は、拒まず、自身の腕で皇太子に抱き着いた。
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