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第四章 別離の足音~義兄の献身
10.義兄の婚約者
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ビルへルムは先に連絡をしておいた縁談の相手の家に着いた。
両親は大げさに歓迎して見せ、ビルヘルムを居間に通した。
夫婦そろって派手に着飾り、夫人は不揃いな宝飾品をあちこちに着けていた。
貴族が婿入りに来るというので、金のかかったもので飾り立てたようだ。
居間の家具も派手で様々な色の様々な様式ものが入り混じって混とんとしていた。
ビルヘルムの実家の男爵家の方が、衣類にも家具にもお金をかけていなかったが、統一感のある調度で落ち着いて洗練されていたと、ビルヘルムは思い返した。
居間に通されて、父親と向かい合って茶を飲むが、苦いばかりで香りのないお茶で、正しく淹れられていないようだ。
父親の話は、先日いくらの商談をまとめただの、どこの貴族に商品を打っただの、金を稼いだ話を自慢げにするばかりだった。
そのうちに、自慢話が尽きたのか資金が足りずに諦めた事業の話をしだした。あと少しの資金さえあれば年間でいくら儲けたはずだ、才はあるのに環境に恵まれないと言い出し、侯爵家から援助が受けられれば、その事業を再会できると言い出した。
ビルヘルムは辟易しながら作った笑顔でうなづいて見せた。
そのうちに母親が娘を連れて居間に戻った。
ビルヘルムの婚約者となる娘の名をエリザベスという。
胸元を大きく開けたドレスで、コルセットを締め上げて豊かな胸を強調している。
「お会いできてうれしいけど、恥ずかしいわ」
などと言って母親の陰に隠れて見せたりする。
ビルヘルムはそんなドレスの着方をして、恥ずかしいもないだろうとあきれた。
「クリスタ様とも義姉妹になるのですもの、お会いできるかしら。」
と、ビルヘルムの隣に座って視線をビルヘルムに絡める。
ビルヘルムは無言でただ笑って見せた。
近い将来皇太子妃となる侯爵令嬢に会えるはずはない。
クリスタから、最も遠い存在のひとりと思われる自分の婚約者にビルヘルムは全く情がわかなかった。
それでも、この女との結婚により、自分もクリスタから遠い存在となり、皇太子を納得させられると思った。
このような女までも、皇太子に見初められたクリスタに憧れを抱く。
そのせいで、緊張を強いられ、重責に必死で耐えているクリスタの気持ちも知らずに。
その夜、一家と夕食を終え、近くの宿屋に引き上げようとするビルヘルムは引き止められ、客間に泊まることになった。
夜、ベッドで眠れずにいると、ドアが開いた。
驚いて身を起こすと、ナイトウェアのエリザベスが立っていた。
「エリザベス嬢、どうされました?」
このような姿で深夜に男の部屋を訪ねることなど、ビルヘルムのいる世界ではありえないことだった。
ナイトウェアに着替えた後のクリスタは決して自分の寝室を出ない。家族が部屋を訪ねた時は、侍女が一緒であり、クリスタはガウンを纏い、侍女以外に薄いナイトドレス一枚の姿を見せることはない。
「ビルヘルム様…ずっとお慕いしていたビルヘルム様にやっとお会いできて、婚約者にしていただけるなんて嬉しくて、胸が高鳴って眠れませんの。」
エリザベスはずかずかとベッドに近づいてくる。
ビルヘルムは恐怖を覚えた。
「しかし・・・、こんな時間に、男の部屋になど…」
「ビルヘルム様、貴族のご令嬢でしたら、婚儀まで、こんなことはいけないのでしょうけれど、わたくしども平民はそうではありません。」
エリザベスはそのまま、ビルヘルムの横たわるベッドに上ってくる。
「エリザベス嬢、いけません。」
ビルヘルムがベッドから降りようとするとエリザベスが腕をつかんだ。
「ビルヘルム様は、女を抱いたことが、ないのですか。」
未婚の女性が、そのようなことを口にすることがビルヘルムには信じられず、唖然とした。
「遠慮しないで、私はもう、経験してるんです。うちのお客の領主の次男が私のことを気に入って、望まれたんです。」
ここはとある男爵の領地だ。その次男と。
これから結婚しようとする相手の前で、貴族と体の関係を持ったことをまるで自慢話のように話している。
どこまでも、クリスタとは遠い存在だった。
エルザべスはビルヘルムの上にのしかかってきた。
「ビルヘルム様、明日、また帰ってしまわれるんでしょう?このまま、離れるのは、切ないわ。」
ビルヘルムにまたがり、ビルヘルムの胸の上に体を乗せ、首のまわりに腕を絡ませるようにして密着してくる。
「結婚するんですもの、いいじゃありませんか。貴族の令嬢のように我慢すること、ないんですよ。」
ビルヘルムには、エリザベスを抱きたいという気持ちは全く起こらない。
しかし、この結婚話を早く進めて、皇太子が満足し、甘い愛情だけをクリスタに向けるようにしたかった。
全く情のわかないこの家族に加わることを決断するために、自分の逃げ道をふさぐ必要があった。
ビルヘルムはエリザベスの体に腕を回した。
両親は大げさに歓迎して見せ、ビルヘルムを居間に通した。
夫婦そろって派手に着飾り、夫人は不揃いな宝飾品をあちこちに着けていた。
貴族が婿入りに来るというので、金のかかったもので飾り立てたようだ。
居間の家具も派手で様々な色の様々な様式ものが入り混じって混とんとしていた。
ビルヘルムの実家の男爵家の方が、衣類にも家具にもお金をかけていなかったが、統一感のある調度で落ち着いて洗練されていたと、ビルヘルムは思い返した。
居間に通されて、父親と向かい合って茶を飲むが、苦いばかりで香りのないお茶で、正しく淹れられていないようだ。
父親の話は、先日いくらの商談をまとめただの、どこの貴族に商品を打っただの、金を稼いだ話を自慢げにするばかりだった。
そのうちに、自慢話が尽きたのか資金が足りずに諦めた事業の話をしだした。あと少しの資金さえあれば年間でいくら儲けたはずだ、才はあるのに環境に恵まれないと言い出し、侯爵家から援助が受けられれば、その事業を再会できると言い出した。
ビルヘルムは辟易しながら作った笑顔でうなづいて見せた。
そのうちに母親が娘を連れて居間に戻った。
ビルヘルムの婚約者となる娘の名をエリザベスという。
胸元を大きく開けたドレスで、コルセットを締め上げて豊かな胸を強調している。
「お会いできてうれしいけど、恥ずかしいわ」
などと言って母親の陰に隠れて見せたりする。
ビルヘルムはそんなドレスの着方をして、恥ずかしいもないだろうとあきれた。
「クリスタ様とも義姉妹になるのですもの、お会いできるかしら。」
と、ビルヘルムの隣に座って視線をビルヘルムに絡める。
ビルヘルムは無言でただ笑って見せた。
近い将来皇太子妃となる侯爵令嬢に会えるはずはない。
クリスタから、最も遠い存在のひとりと思われる自分の婚約者にビルヘルムは全く情がわかなかった。
それでも、この女との結婚により、自分もクリスタから遠い存在となり、皇太子を納得させられると思った。
このような女までも、皇太子に見初められたクリスタに憧れを抱く。
そのせいで、緊張を強いられ、重責に必死で耐えているクリスタの気持ちも知らずに。
その夜、一家と夕食を終え、近くの宿屋に引き上げようとするビルヘルムは引き止められ、客間に泊まることになった。
夜、ベッドで眠れずにいると、ドアが開いた。
驚いて身を起こすと、ナイトウェアのエリザベスが立っていた。
「エリザベス嬢、どうされました?」
このような姿で深夜に男の部屋を訪ねることなど、ビルヘルムのいる世界ではありえないことだった。
ナイトウェアに着替えた後のクリスタは決して自分の寝室を出ない。家族が部屋を訪ねた時は、侍女が一緒であり、クリスタはガウンを纏い、侍女以外に薄いナイトドレス一枚の姿を見せることはない。
「ビルヘルム様…ずっとお慕いしていたビルヘルム様にやっとお会いできて、婚約者にしていただけるなんて嬉しくて、胸が高鳴って眠れませんの。」
エリザベスはずかずかとベッドに近づいてくる。
ビルヘルムは恐怖を覚えた。
「しかし・・・、こんな時間に、男の部屋になど…」
「ビルヘルム様、貴族のご令嬢でしたら、婚儀まで、こんなことはいけないのでしょうけれど、わたくしども平民はそうではありません。」
エリザベスはそのまま、ビルヘルムの横たわるベッドに上ってくる。
「エリザベス嬢、いけません。」
ビルヘルムがベッドから降りようとするとエリザベスが腕をつかんだ。
「ビルヘルム様は、女を抱いたことが、ないのですか。」
未婚の女性が、そのようなことを口にすることがビルヘルムには信じられず、唖然とした。
「遠慮しないで、私はもう、経験してるんです。うちのお客の領主の次男が私のことを気に入って、望まれたんです。」
ここはとある男爵の領地だ。その次男と。
これから結婚しようとする相手の前で、貴族と体の関係を持ったことをまるで自慢話のように話している。
どこまでも、クリスタとは遠い存在だった。
エルザべスはビルヘルムの上にのしかかってきた。
「ビルヘルム様、明日、また帰ってしまわれるんでしょう?このまま、離れるのは、切ないわ。」
ビルヘルムにまたがり、ビルヘルムの胸の上に体を乗せ、首のまわりに腕を絡ませるようにして密着してくる。
「結婚するんですもの、いいじゃありませんか。貴族の令嬢のように我慢すること、ないんですよ。」
ビルヘルムには、エリザベスを抱きたいという気持ちは全く起こらない。
しかし、この結婚話を早く進めて、皇太子が満足し、甘い愛情だけをクリスタに向けるようにしたかった。
全く情のわかないこの家族に加わることを決断するために、自分の逃げ道をふさぐ必要があった。
ビルヘルムはエリザベスの体に腕を回した。
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