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第四章 別離の足音~義兄の献身
5.侯爵家の工作
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その夜、外務大臣としての宮廷での職務を終えて帰宅したウィストリア侯爵とビルヘルムは、屋敷で予告なしに帰っていたギルバートの存在に驚き、喜んだ。
家族水入らずでの晩餐で、ギルバートが皇太子の許しもあり、クリスタを領地に連れて帰ると告げた。
ビルヘルムは当然に自分もついていくものと思っていた。
晩餐後、ギルバートがビルヘルムを私室に呼んだ。
酒を勧めてギルバートは皇太子に聞かされた噂について、ビルヘルムに告げた。
ビルヘルムは愕然と言葉を失った。
―自分の存在が、クリスタ様の評判を落としていたなんて…。
「ビルヘルム、私はお前たちの間にやましいことなどありえないことはわかっているよ。確かにお前は私たちに対して本当の家族とは異なり忠義を尽くす気持ちで侯爵邸にいてくれることはも分かっている。しかし、私も父上も、そして誰よりクリスタも、お前を本当の家族として思っている。母上も、信頼してお前をクリスタの側に置いている。ただ、皇太子妃の重責に耐えるクリスタの足を引っ張るくだらない噂は排除しなければならない。こういう工作は、うちの家門は苦手だがな。」
「子爵…義兄上…、申し訳ございません。私のせいで…。そしてそのように信頼をいただき…感謝いたします。」
「噂を止めるのは容易ではないが…今のところ、ふたつ、策がある。」
「策…。私にできることはなんでもいたします。」
「ひとつは、クリスタを皇都に戻すのと入れ違いに、お前が領地に来て、私の補佐を務めること。お前とクリスタが合う機会を減らすことだ。」
ビルヘルムは唇をかんだ。クリスタと離れることはつらい。しかし、クリスタのためであるならば…
「もう一つは、お前が結婚することだよビルヘルム。」
「え?」
「23になるお前が婚約もせず、宮廷内をクリスタをエスコートして歩いているから、こんな噂が立つのだろう。お前に相手がいれば、噂もおさまるだろう。実際、お前もとっくに子がいてもよい歳だぞ。」
ギルバートは少しからかうように言って、自分を責めるビルヘルムの気を和らげようとした。
「お前には、相当の縁談話が来ているのを知っているだろう。全く関心を寄せないと母上がいつも不満を言っている。商人の家が、跡継ぎに欲しがっているのも多いが、男子のいない貴族の家もある。すごいな、お前はずいぶんモテる。」
「侯爵家とのつながりを当てにしているのでしょう。しかし、義兄上の策を、クリスタ様が領地にいらっしゃるうちにいずれか実行できるよう、考えます。」
「うん…すまないね。ビルヘルム。」
家族水入らずでの晩餐で、ギルバートが皇太子の許しもあり、クリスタを領地に連れて帰ると告げた。
ビルヘルムは当然に自分もついていくものと思っていた。
晩餐後、ギルバートがビルヘルムを私室に呼んだ。
酒を勧めてギルバートは皇太子に聞かされた噂について、ビルヘルムに告げた。
ビルヘルムは愕然と言葉を失った。
―自分の存在が、クリスタ様の評判を落としていたなんて…。
「ビルヘルム、私はお前たちの間にやましいことなどありえないことはわかっているよ。確かにお前は私たちに対して本当の家族とは異なり忠義を尽くす気持ちで侯爵邸にいてくれることはも分かっている。しかし、私も父上も、そして誰よりクリスタも、お前を本当の家族として思っている。母上も、信頼してお前をクリスタの側に置いている。ただ、皇太子妃の重責に耐えるクリスタの足を引っ張るくだらない噂は排除しなければならない。こういう工作は、うちの家門は苦手だがな。」
「子爵…義兄上…、申し訳ございません。私のせいで…。そしてそのように信頼をいただき…感謝いたします。」
「噂を止めるのは容易ではないが…今のところ、ふたつ、策がある。」
「策…。私にできることはなんでもいたします。」
「ひとつは、クリスタを皇都に戻すのと入れ違いに、お前が領地に来て、私の補佐を務めること。お前とクリスタが合う機会を減らすことだ。」
ビルヘルムは唇をかんだ。クリスタと離れることはつらい。しかし、クリスタのためであるならば…
「もう一つは、お前が結婚することだよビルヘルム。」
「え?」
「23になるお前が婚約もせず、宮廷内をクリスタをエスコートして歩いているから、こんな噂が立つのだろう。お前に相手がいれば、噂もおさまるだろう。実際、お前もとっくに子がいてもよい歳だぞ。」
ギルバートは少しからかうように言って、自分を責めるビルヘルムの気を和らげようとした。
「お前には、相当の縁談話が来ているのを知っているだろう。全く関心を寄せないと母上がいつも不満を言っている。商人の家が、跡継ぎに欲しがっているのも多いが、男子のいない貴族の家もある。すごいな、お前はずいぶんモテる。」
「侯爵家とのつながりを当てにしているのでしょう。しかし、義兄上の策を、クリスタ様が領地にいらっしゃるうちにいずれか実行できるよう、考えます。」
「うん…すまないね。ビルヘルム。」
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