【R-18有】皇太子の執着と義兄の献身

絵夢子

文字の大きさ
上 下
41 / 76
第四章 別離の足音~義兄の献身

2.皇太子の長兄への呼び出し

しおりを挟む
 アラン皇太子の滞在後、一度領地へ戻っていたウィストリア侯爵嫡男、ギルバートは皇太子からの呼び出しに応じて馬車に乗り、皇都を目指していた。
 内密にという命であり、領地から直接宮廷の皇太子を訪ねる。

 宮廷には大臣として父のウィストリア侯爵がいるというのにわざわざ内密に自分を呼び出すとは。
 ギルバートは不安であった。

 皇帝よりも宮廷を離れて動きやすい皇太子は、諸国を歴訪し、国賓の帝国内での視察に同行するなど、外交において役割が大きい。その分外務大臣のウィストリア侯爵とのつながりが強く、父の補佐としてギルバートも皇太子とは度々顔を合わせる。
 思えば、外務大臣と皇后と懇意である侯爵夫人の娘、クリスタを皇太子妃に望まれるのも当然のことであった。

 子どもの結婚で権力をつかもうという考えのない侯爵の影響か、ギルバートも皇太子からの申し入れのあるまで、その可能性に思い至らなかったのだから不思議である。

 ギルバートも、妹と皇太子の結婚は望ましいと考えていた。まだ恋愛には疎い妹に想い人ができるのを待っていたら妹は婚期を逃してしまう。多少猶予のある令息と違い、令嬢の結婚はデビューの年が勝負である。
 妹に、少しでも良い条件で、大事にしてくれる人のところへ嫁がせたいと思えばこそ、かさざるを得ない。
 皇太子が強くクリスタを望んでいるのだし、皇后もクリスタをかわいがってくれている。
 侯爵家の領地から離れた場所に嫁いでしまい、妹と会えなくなるよりは宮廷にいてくれる方が侯爵家の家族も会う機会を作りやすい。

 今回の呼び出しは、妹のことのように思われる。
 外交のことであれば、外務大臣の父を差し置いて、わざわざ領地から自分を呼ぶことはすまい。

 妹は、皇太子と婚約しながら、優しく容姿にも恵まれた皇太子のとのロマンスや、未来の皇太子妃の座に浮かれることもなく、幼いころはともに無邪気に遊んだ皇太子から距離を取りたがっているように見え、兄としては婚約に前向きではないのかと心配している。

 しかしアラン皇太子夫妻の滞在時は、夜会に皇太子の婚約者として出席するのは荷が重いと言いながら、イリア王国について父から学び、夫妻と帝国皇室の関係を深めるのにクリスタは多大な貢献をした。

 夜会では、皇太子とであれば苦手なダンスも克服していたことにギルバートは驚かされた。
 そういえば、妹がデビューしてから一度もダンスの相手をしていないな、次の機会にはぜひ踊っておこうとギルバートは思った。

 ギルバートの馬車は宮廷に着き、皇太子の執務室に通された。
 謁見用の間ではなく、執務室に呼ばれたということは、内容が機密事項であり、かつ、リオネル個人としてでなく皇太子としてギルバートを呼んだということを意味する。

 度々皇室の面々と席を同じにしているギルバートも、緊張せざるを得なかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...