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第四章 別離の足音~義兄の献身
2.皇太子の長兄への呼び出し
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アラン皇太子の滞在後、一度領地へ戻っていたウィストリア侯爵嫡男、ギルバートは皇太子からの呼び出しに応じて馬車に乗り、皇都を目指していた。
内密にという命であり、領地から直接宮廷の皇太子を訪ねる。
宮廷には大臣として父のウィストリア侯爵がいるというのにわざわざ内密に自分を呼び出すとは。
ギルバートは不安であった。
皇帝よりも宮廷を離れて動きやすい皇太子は、諸国を歴訪し、国賓の帝国内での視察に同行するなど、外交において役割が大きい。その分外務大臣のウィストリア侯爵とのつながりが強く、父の補佐としてギルバートも皇太子とは度々顔を合わせる。
思えば、外務大臣と皇后と懇意である侯爵夫人の娘、クリスタを皇太子妃に望まれるのも当然のことであった。
子どもの結婚で権力をつかもうという考えのない侯爵の影響か、ギルバートも皇太子からの申し入れのあるまで、その可能性に思い至らなかったのだから不思議である。
ギルバートも、妹と皇太子の結婚は望ましいと考えていた。まだ恋愛には疎い妹に想い人ができるのを待っていたら妹は婚期を逃してしまう。多少猶予のある令息と違い、令嬢の結婚はデビューの年が勝負である。
妹に、少しでも良い条件で、大事にしてくれる人のところへ嫁がせたいと思えばこそ、急かさざるを得ない。
皇太子が強くクリスタを望んでいるのだし、皇后もクリスタをかわいがってくれている。
侯爵家の領地から離れた場所に嫁いでしまい、妹と会えなくなるよりは宮廷にいてくれる方が侯爵家の家族も会う機会を作りやすい。
今回の呼び出しは、妹のことのように思われる。
外交のことであれば、外務大臣の父を差し置いて、わざわざ領地から自分を呼ぶことはすまい。
妹は、皇太子と婚約しながら、優しく容姿にも恵まれた皇太子のとのロマンスや、未来の皇太子妃の座に浮かれることもなく、幼いころはともに無邪気に遊んだ皇太子から距離を取りたがっているように見え、兄としては婚約に前向きではないのかと心配している。
しかしアラン皇太子夫妻の滞在時は、夜会に皇太子の婚約者として出席するのは荷が重いと言いながら、イリア王国について父から学び、夫妻と帝国皇室の関係を深めるのにクリスタは多大な貢献をした。
夜会では、皇太子とであれば苦手なダンスも克服していたことにギルバートは驚かされた。
そういえば、妹がデビューしてから一度もダンスの相手をしていないな、次の機会にはぜひ踊っておこうとギルバートは思った。
ギルバートの馬車は宮廷に着き、皇太子の執務室に通された。
謁見用の間ではなく、執務室に呼ばれたということは、内容が機密事項であり、かつ、リオネル個人としてでなく皇太子としてギルバートを呼んだということを意味する。
度々皇室の面々と席を同じにしているギルバートも、緊張せざるを得なかった。
内密にという命であり、領地から直接宮廷の皇太子を訪ねる。
宮廷には大臣として父のウィストリア侯爵がいるというのにわざわざ内密に自分を呼び出すとは。
ギルバートは不安であった。
皇帝よりも宮廷を離れて動きやすい皇太子は、諸国を歴訪し、国賓の帝国内での視察に同行するなど、外交において役割が大きい。その分外務大臣のウィストリア侯爵とのつながりが強く、父の補佐としてギルバートも皇太子とは度々顔を合わせる。
思えば、外務大臣と皇后と懇意である侯爵夫人の娘、クリスタを皇太子妃に望まれるのも当然のことであった。
子どもの結婚で権力をつかもうという考えのない侯爵の影響か、ギルバートも皇太子からの申し入れのあるまで、その可能性に思い至らなかったのだから不思議である。
ギルバートも、妹と皇太子の結婚は望ましいと考えていた。まだ恋愛には疎い妹に想い人ができるのを待っていたら妹は婚期を逃してしまう。多少猶予のある令息と違い、令嬢の結婚はデビューの年が勝負である。
妹に、少しでも良い条件で、大事にしてくれる人のところへ嫁がせたいと思えばこそ、急かさざるを得ない。
皇太子が強くクリスタを望んでいるのだし、皇后もクリスタをかわいがってくれている。
侯爵家の領地から離れた場所に嫁いでしまい、妹と会えなくなるよりは宮廷にいてくれる方が侯爵家の家族も会う機会を作りやすい。
今回の呼び出しは、妹のことのように思われる。
外交のことであれば、外務大臣の父を差し置いて、わざわざ領地から自分を呼ぶことはすまい。
妹は、皇太子と婚約しながら、優しく容姿にも恵まれた皇太子のとのロマンスや、未来の皇太子妃の座に浮かれることもなく、幼いころはともに無邪気に遊んだ皇太子から距離を取りたがっているように見え、兄としては婚約に前向きではないのかと心配している。
しかしアラン皇太子夫妻の滞在時は、夜会に皇太子の婚約者として出席するのは荷が重いと言いながら、イリア王国について父から学び、夫妻と帝国皇室の関係を深めるのにクリスタは多大な貢献をした。
夜会では、皇太子とであれば苦手なダンスも克服していたことにギルバートは驚かされた。
そういえば、妹がデビューしてから一度もダンスの相手をしていないな、次の機会にはぜひ踊っておこうとギルバートは思った。
ギルバートの馬車は宮廷に着き、皇太子の執務室に通された。
謁見用の間ではなく、執務室に呼ばれたということは、内容が機密事項であり、かつ、リオネル個人としてでなく皇太子としてギルバートを呼んだということを意味する。
度々皇室の面々と席を同じにしているギルバートも、緊張せざるを得なかった。
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