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第三章 夜会にて
14.帰国
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クリスタはアラン皇太子夫妻歓迎の夜会後も、夫妻の滞在の間、何度かエスメル皇太子妃が開催した茶会に呼ばれ、友情を深めた。
帰国の際には見送りに宮廷へ出向き、抱擁して別れを惜しんだ。エスメル妃にはまだ恋も知らぬまま、皇太子の婚約者となり、義務として婚姻を受け入れようとしているクリスタが不憫であった。その責務の重さを知ればこそ、なお気にかかる。
アラン皇太子も気さくにリオネル皇太子と抱擁し、その背中を叩いた。クリスタには、
「次回こそダンスの相手を」
とからかい、エスメル妃に叱られたが、次へ続く友情を信じればこその言葉だった。
アラン皇太子夫妻の馬車にリオネル皇太子とクリスタが乗り、皇都の外まで同行する事となった。アラン皇太子が
「では、せっかくだから馬車の窓から市民にあいさつしながら行こう」
と言い出し、近衛兵があわてて警備に付いた。
期せずしてクリスタは、皇太子の婚約者として皇都の市民たちに顔を見せることとなった。
「さあ、クリスタ嬢も、手を振って」
と、夜会の夜からわだかまりがあり、顔を合わせていなかったリオネルが、アラン皇太子夫妻の前で友好な関係を装うような笑顔で薦める。
クリスタが遠慮勝ちに窓の外に顔を向けて手を顔の横でそっと振ると、市民達がわっと歓声をあげた。
向かいの席のリオネルは同じ窓から姿を見せ、クリスタを自分の妃として歓迎する民の姿に満足した。
アラン皇太子夫妻もまた、帝国の国民の熱狂に外交の成果を感じ、未来の帝国の皇帝夫妻との友情を示せていることに、終始笑顔であった。
クリスタひとり、皇太子の婚約者として既成事実を積み上げられていくことに強張った笑顔で耐えた。
皇都のはずれまで馬車が進み、リオネルとクリスタはアラン皇太子夫妻と別れて侍女と侍従を乗せて同行した馬車に乗り換えて引き返した。
別れ際、エスメル妃は、国へ帰ったら、手紙を出すと約束した。クリスタがエスメル妃に見せた笑顔は、ビルヘルムに見せる笑顔に似て、無邪気な本心からの笑顔だった。リオネルはその笑顔の愛らしさに心躍らせながら、自分以外のものがクリスタにそのような顔をさせるのが妬ましくもあった。
空気のように黙って車内にいる使用人と、気まずく向かい合うリオネルとの馬車の中で、クリスタは暗くなっていく窓の外を凝視するほかなかった。
侍女は皇室がクリスタのために準備した侍女であり、ジェンはじめ侯爵家の使用人のように気安くはない。
途中で一度、侍女が、
「ウィストリア侯爵令嬢、お寒くありませんか?」
と尋ね。クリスタが
「大丈夫よ。」
と答えただけだった。
町中に戻ると、人目を避けるために窓のカーテンが閉じられ、
クリスタは自分のドレスの膝を凝視した。さらに息詰まる時間となった。
リオネルもこの気まずい時間を自ら打ち解けたものにしようという努力を放棄していた。
帰国の際には見送りに宮廷へ出向き、抱擁して別れを惜しんだ。エスメル妃にはまだ恋も知らぬまま、皇太子の婚約者となり、義務として婚姻を受け入れようとしているクリスタが不憫であった。その責務の重さを知ればこそ、なお気にかかる。
アラン皇太子も気さくにリオネル皇太子と抱擁し、その背中を叩いた。クリスタには、
「次回こそダンスの相手を」
とからかい、エスメル妃に叱られたが、次へ続く友情を信じればこその言葉だった。
アラン皇太子夫妻の馬車にリオネル皇太子とクリスタが乗り、皇都の外まで同行する事となった。アラン皇太子が
「では、せっかくだから馬車の窓から市民にあいさつしながら行こう」
と言い出し、近衛兵があわてて警備に付いた。
期せずしてクリスタは、皇太子の婚約者として皇都の市民たちに顔を見せることとなった。
「さあ、クリスタ嬢も、手を振って」
と、夜会の夜からわだかまりがあり、顔を合わせていなかったリオネルが、アラン皇太子夫妻の前で友好な関係を装うような笑顔で薦める。
クリスタが遠慮勝ちに窓の外に顔を向けて手を顔の横でそっと振ると、市民達がわっと歓声をあげた。
向かいの席のリオネルは同じ窓から姿を見せ、クリスタを自分の妃として歓迎する民の姿に満足した。
アラン皇太子夫妻もまた、帝国の国民の熱狂に外交の成果を感じ、未来の帝国の皇帝夫妻との友情を示せていることに、終始笑顔であった。
クリスタひとり、皇太子の婚約者として既成事実を積み上げられていくことに強張った笑顔で耐えた。
皇都のはずれまで馬車が進み、リオネルとクリスタはアラン皇太子夫妻と別れて侍女と侍従を乗せて同行した馬車に乗り換えて引き返した。
別れ際、エスメル妃は、国へ帰ったら、手紙を出すと約束した。クリスタがエスメル妃に見せた笑顔は、ビルヘルムに見せる笑顔に似て、無邪気な本心からの笑顔だった。リオネルはその笑顔の愛らしさに心躍らせながら、自分以外のものがクリスタにそのような顔をさせるのが妬ましくもあった。
空気のように黙って車内にいる使用人と、気まずく向かい合うリオネルとの馬車の中で、クリスタは暗くなっていく窓の外を凝視するほかなかった。
侍女は皇室がクリスタのために準備した侍女であり、ジェンはじめ侯爵家の使用人のように気安くはない。
途中で一度、侍女が、
「ウィストリア侯爵令嬢、お寒くありませんか?」
と尋ね。クリスタが
「大丈夫よ。」
と答えただけだった。
町中に戻ると、人目を避けるために窓のカーテンが閉じられ、
クリスタは自分のドレスの膝を凝視した。さらに息詰まる時間となった。
リオネルもこの気まずい時間を自ら打ち解けたものにしようという努力を放棄していた。
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