【R-18有】皇太子の執着と義兄の献身

絵夢子

文字の大きさ
上 下
39 / 76
第三章 夜会にて

14.帰国

しおりを挟む
 クリスタはアラン皇太子夫妻歓迎の夜会後も、夫妻の滞在の間、何度かエスメル皇太子妃が開催した茶会に呼ばれ、友情を深めた。

 帰国の際には見送りに宮廷へ出向き、抱擁して別れを惜しんだ。エスメル妃にはまだ恋も知らぬまま、皇太子の婚約者となり、義務として婚姻を受け入れようとしているクリスタが不憫であった。その責務の重さを知ればこそ、なお気にかかる。

 アラン皇太子も気さくにリオネル皇太子と抱擁し、その背中を叩いた。クリスタには、
「次回こそダンスの相手を」
 とからかい、エスメル妃に叱られたが、次へ続く友情を信じればこその言葉だった。

 アラン皇太子夫妻の馬車にリオネル皇太子とクリスタが乗り、皇都の外まで同行する事となった。アラン皇太子が
「では、せっかくだから馬車の窓から市民にあいさつしながら行こう」
 と言い出し、近衛兵があわてて警備に付いた。
 期せずしてクリスタは、皇太子の婚約者として皇都の市民たちに顔を見せることとなった。

「さあ、クリスタ嬢も、手を振って」
 と、夜会の夜からわだかまりがあり、顔を合わせていなかったリオネルが、アラン皇太子夫妻の前で友好な関係を装うような笑顔で薦める。

 クリスタが遠慮勝ちに窓の外に顔を向けて手を顔の横でそっと振ると、市民達がわっと歓声をあげた。
 向かいの席のリオネルは同じ窓から姿を見せ、クリスタを自分の妃として歓迎する民の姿に満足した。
 アラン皇太子夫妻もまた、帝国の国民の熱狂に外交の成果を感じ、未来の帝国の皇帝夫妻との友情を示せていることに、終始笑顔であった。

 クリスタひとり、皇太子の婚約者として既成事実を積み上げられていくことに強張った笑顔で耐えた。

 皇都のはずれまで馬車が進み、リオネルとクリスタはアラン皇太子夫妻と別れて侍女と侍従を乗せて同行した馬車に乗り換えて引き返した。
 別れ際、エスメル妃は、国へ帰ったら、手紙を出すと約束した。クリスタがエスメル妃に見せた笑顔は、ビルヘルムに見せる笑顔に似て、無邪気な本心からの笑顔だった。リオネルはその笑顔の愛らしさに心躍らせながら、自分以外のものがクリスタにそのような顔をさせるのが妬ましくもあった。

 空気のように黙って車内にいる使用人と、気まずく向かい合うリオネルとの馬車の中で、クリスタは暗くなっていく窓の外を凝視するほかなかった。
 侍女は皇室がクリスタのために準備した侍女であり、ジェンはじめ侯爵家の使用人のように気安くはない。
 途中で一度、侍女が、
「ウィストリア侯爵令嬢、お寒くありませんか?」
 と尋ね。クリスタが
「大丈夫よ。」
 と答えただけだった。

 町中に戻ると、人目を避けるために窓のカーテンが閉じられ、
 クリスタは自分のドレスの膝を凝視した。さらに息詰まる時間となった。
 リオネルもこの気まずい時間を自ら打ち解けたものにしようという努力を放棄していた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...