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第三章 夜会にて
13.皇太子の怒り
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リオネルは、早足に宮殿内へ戻るクリスタに少し遅れて、同じく宮殿へ戻った。
クリスタが向かったのは、母親達がいると思われる、夜会会場であったホールのある方向ではなく、大臣達の執務室の並ぶエリアに近い出入口であった。
父、ウィストリア侯爵の外務大臣としての執務室がある。クリスタが向かうとすればそちらだ。
ウィストリア侯爵と、おそらく補佐官であるビルヘルムがいるであろう。同じく補佐役のギルバートはアラン皇太子夫妻を離宮へ送っている。
リオネルは苦々しい思いであったが、侯爵もいるのであればと冷静に受け止めた。
性急に関係を恋人同士のように進めようとしてしまった。自分がこのように焦り、感情を抑制できなることは、クリスタを妃に望むまでなかったことだ。
クリスタは、今夜は自分と過ごそうとはすまい。母親達のところへエスコートしようと申し出たところで、避けられるであろう。
それでもクリスタの行動が気になり後を追ってしまう。
外務大臣室のすぐ近くの階段を上ったところでドアの開かれる音と「兄さま」というクリスタの声が聞こえた。
リオネルはクリスタの目の前にいるビルヘルムを苦々しく想像した。
部屋の前まで進むと、ビルヘルムにしがみつき、胸に顔を埋めるクリスタの姿が見えた。
ドアの影に身を隠し、リオネルは顔や耳に血が上り、熱く赤くなるのを感じた。
ビルヘルムが優しい顔でクリスタを見下ろし、髪に触れていた。
その表情から、それが、義兄妹の間では特別な事ではなく、日常の距離感なのだとリオネルは理解した。
「皇太子とは何もない」というクリスタの強い否定は、先ほどのリオネルの行為への嫌悪感を示しているようで、リオネルは奥歯をかみしめた。
「兄さまも、ぎゅっとして?」
クリスタの言葉にリオネルは呆然とした。あれほど自分が触れることに嫌悪感を示したクリスタが・・・。
ビルヘルムがクリスタに頬ずりし、額に口づける。クリスタは拒まない。
早く帰ってきて欲しいと義兄に甘えるクリスタの声に、リオネルはふらふらとその場を離れた。
男爵家から養子に入った長兄のスペアであるビルヘルムにクリスタはあのように甘え、触れ、触れさせる。
一方で皇太子で婚約者である自分には常に警戒し、かたくなに接触を拒む。
貞淑な妃となる潔癖な淑女だと思った。しかし、義兄に…いや、ビルヘルムの方はクリスタを妹とは思っていない。皇太子のものである彼女があのように男の腕の中に甘えるとは。リオネルの中で、もどかしさが怒りとなり、沸き立った。
「私はいつも、お嬢のためにいる」と言ったビルヘルム。クリスタの側にいつもいる男。
クリスタから奪い消してしまいたかった。自分はそれができる地位にいるのだと、自身を受け入れないクリスタに示したかった。
クリスタが向かったのは、母親達がいると思われる、夜会会場であったホールのある方向ではなく、大臣達の執務室の並ぶエリアに近い出入口であった。
父、ウィストリア侯爵の外務大臣としての執務室がある。クリスタが向かうとすればそちらだ。
ウィストリア侯爵と、おそらく補佐官であるビルヘルムがいるであろう。同じく補佐役のギルバートはアラン皇太子夫妻を離宮へ送っている。
リオネルは苦々しい思いであったが、侯爵もいるのであればと冷静に受け止めた。
性急に関係を恋人同士のように進めようとしてしまった。自分がこのように焦り、感情を抑制できなることは、クリスタを妃に望むまでなかったことだ。
クリスタは、今夜は自分と過ごそうとはすまい。母親達のところへエスコートしようと申し出たところで、避けられるであろう。
それでもクリスタの行動が気になり後を追ってしまう。
外務大臣室のすぐ近くの階段を上ったところでドアの開かれる音と「兄さま」というクリスタの声が聞こえた。
リオネルはクリスタの目の前にいるビルヘルムを苦々しく想像した。
部屋の前まで進むと、ビルヘルムにしがみつき、胸に顔を埋めるクリスタの姿が見えた。
ドアの影に身を隠し、リオネルは顔や耳に血が上り、熱く赤くなるのを感じた。
ビルヘルムが優しい顔でクリスタを見下ろし、髪に触れていた。
その表情から、それが、義兄妹の間では特別な事ではなく、日常の距離感なのだとリオネルは理解した。
「皇太子とは何もない」というクリスタの強い否定は、先ほどのリオネルの行為への嫌悪感を示しているようで、リオネルは奥歯をかみしめた。
「兄さまも、ぎゅっとして?」
クリスタの言葉にリオネルは呆然とした。あれほど自分が触れることに嫌悪感を示したクリスタが・・・。
ビルヘルムがクリスタに頬ずりし、額に口づける。クリスタは拒まない。
早く帰ってきて欲しいと義兄に甘えるクリスタの声に、リオネルはふらふらとその場を離れた。
男爵家から養子に入った長兄のスペアであるビルヘルムにクリスタはあのように甘え、触れ、触れさせる。
一方で皇太子で婚約者である自分には常に警戒し、かたくなに接触を拒む。
貞淑な妃となる潔癖な淑女だと思った。しかし、義兄に…いや、ビルヘルムの方はクリスタを妹とは思っていない。皇太子のものである彼女があのように男の腕の中に甘えるとは。リオネルの中で、もどかしさが怒りとなり、沸き立った。
「私はいつも、お嬢のためにいる」と言ったビルヘルム。クリスタの側にいつもいる男。
クリスタから奪い消してしまいたかった。自分はそれができる地位にいるのだと、自身を受け入れないクリスタに示したかった。
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