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第三章 夜会にて

9.皇帝一家と

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 公表は未だされていないものの身重のエスメル皇太子妃を気遣うアラン皇太子の意向もあり、宴は少し早い刻にて閉じられた。

 アラン皇太子から、歓迎と帝国皇室との友情を改めて感謝する挨拶があり、国賓と皇室一家、皇太子の婚約者であるクリスタが高座から退場した。

 会場の外に出ると、ギルバートが控えてた。
「アラン皇太子夫妻、ご滞在の離宮まで、ご一緒いたします。」
 外務大臣の補佐官、かつ嫡男であるギルバートとアラン皇太子夫妻は夫妻が宮殿に到着してから何度か顔を合わせている。

「リオネル皇太子殿下、本日は、妹をありがとうございました。」
「いえ、私の婚約者ですから。よく努めてくれました。」
 クリスタはリオネルの言葉にほっとした。途中で叱りを受けたが、自分のふるまいにおおむね納得してくれたということだろうと。

「クリスタ、母上たちと、帰るのだろう?」
 ギルバートがクリスタの頭にポンと手を置いた。
 侯爵家嫡男として、常に自分を律して立ち振る舞っているギルバートだったが、9歳年下の妹の前では、つい甘い兄の顔をみせてしまう。
「お兄様!」
 クリスタは皇族の面々の前での長兄の子ども扱いに、とっさにその手をつかんだ。
「ああ!失礼いたしました。」
 ギルバートも国賓と皇室一家の前で不適切な行為をしていたことに気づき頭を下げた。

「クリスタさんは、お兄様たちに本当にかわいがられていらっしゃるのね。」
 エスメル妃が朗らかに笑いギルバートを責める気のないことを示した。
義弟おとうとにもお会いでしたか。あれが特に妹には甘いのですが、私にもいつまでたっても小さな妹でして…お恥ずかしいところをお見せいたしました。」
「ウィストリア侯爵一家は職務には厳しく取り組んでくれるが、家庭は人間的な温かみがあるようだ。ギルバート卿、引き続き頼む。」
 皇帝もギルバートの行為を許し、アラン皇太子夫妻に離宮でゆっくり休まれるようにと声を掛けて見送った。

 ギルバートとアラン皇太子夫妻を見送ると、未来の家族である4人がその場に残った。
「クリスタ嬢、今日は立派に務めてくれたね。エスメル皇太子妃も喜んでおられた。ありがとう。」
「皇帝陛下。勿体ないお言葉でございます。」
「そうよ、クリスタさん、まだデビューして間もないのに。そのお花のことも、ありがとう。
 それに、」

 皇后がクリスタの手を取った。
「近い将来、私たちの娘として迎えられるのを、本当に嬉しく思っているわ。そんなに畏まらならいで頂戴。
 王女を嫁がせてからは、リオネルだけで、ちょっとつまらなかったのよ。また娘が持てて、嬉しいわ。」
 クリスタは発するべき言葉が見つからず、ただ将来の義母のあたたかな笑顔を見つめた。

「母上、つまらないとは何事です。」
「あら、本人の前だったわ。娘としかできないことがあるのよ!」
 皇帝も目の横にしわを寄せて嬉しそうに妻を見ていた。

 この皇帝夫妻のように、アラン皇太子とエスメル妃のように、あるいは自分の父母のように、自分とリオネル皇太子殿下の間にも、このようなあたたかな夫婦の絆ができるだろうか。兄たちと過ごすように皇太子と打ち解けて暮らすことがきるだろうか。
 それはまだ遠い先のことのようにクリスタには思えた。
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