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第三章 夜会にて
7.皇太子の叱責
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会場に、エスメル皇太子妃が侍女に連れられて戻ったが、一緒にいたクリスタが戻らないのを見て、リオネルは控室へ向かった。
皇太子の婚約者として、見事に振舞い、自分とのダンスは成功させて見せた今宵のクリスタと、もっとこの夜会を味わいたかった。
早く戻らないかと気にしていたとことに、エスメル妃だけが戻ったのを見て、いてもたってもいられなかったのだ。
会場を出た回廊の向こうから、女性の笑い声が聞こえてきた。
この会場にはいないはずの子供が紛れたかのような気取りのない、本当に楽しそうな笑い声。
リオネルは不思議に思い先を急いだ。
柱の陰から白く輝くドレスが翻るのが見えた。
「お嬢、危ないですよ、無茶をされると。」
「ビル兄様が私を転ばせるはずないもの、しっかり支えていらして。」
「また、そんなことを言って」
リオネルは足を止めた。
あんなクリスタの笑い声は、記憶の消えかかった小さな子供のころ以来、聞いたことがない。
自分には、微笑みかけるのが精いっぱいだった。
クリスタはあんな風に笑うのか、そして、一緒に望む公務より、義兄とじゃれ合うことを優先させたのか!
熱心に公務に取り組むクリスタに感謝し、自分の婚約者としての役割を果たそうとする姿に満足していただけにまたしても義兄に奪われたクリスタにリオネルはどうしようもないいら立ちを覚えた。
リオネルは二人に近づかずに横へ移動し、柱の陰の二人の姿の見える位置に立った。
義兄妹は会場から漏れ聞こえる音楽に合わせてダンスを踊っているようだったが、ふたりともほとんど踊れておらず、手を取り合い、ビルヘルムが他方の腕でクリスタの腰をホールドし、クリスタはビルヘルムの肩へもう片方を置いてお互いの体を支え合いながらじゃれている。
およそダンスとは呼べないものでありながら、ふたりは楽しそうに笑っている。
クリスタに唯一ダンスを踊らせることができるパートナーはリオネルであった。それが先ほど多くの貴族たちの前で示された。
しかし、あのように笑うのは義兄の前だけだった。
手に入れたと思うたび、遠のいていくクリスタ、いつになってもビルヘルムに勝てない自分。
リオネルは楽し気な二人を引きはがしたかった。
それはみじめな感情だった。
まっすぐ二人に向かって歩き出した。
リオネルの靴のかかとのカツカツという音に、クリスタとビルヘルムが振り返った。
ビルヘルムはクリスタから手を放し、頭を下げた。
「クリスタ嬢、国賓を放って、こんなところで子供のように振舞っていたのでは困ります。皇太子のパートナーとして出席しているのですよ。」
リオネルの冷たい表情に、クリスタの顔がこわばり、一瞬前の笑顔を捨て、体を下げた。
「申し訳ございません、皇太子殿下。すぐに参ります」
―私にはこの顔か。
リオネルはさらに冷たく言い放つ。
「アラン皇太子殿下もおられるのだから、名前で呼ぶよう申し上げたはずです。」
「重ね重ね申し訳ございません。リオネル皇太子殿下。」
ビルヘルムはクリスタを見つめた。
夜会へ皇太子のエスコートで出席するのを拒もうとした際、『殿下もお怒り』であったとクリスタが話していた。
こんな風に冷たく叱責されていたのか。
おどおどと謝罪するクリスタの姿にショックを受けた。
「行きましょう。」
リオネルが腕を出し、クリスタがそれに手を置いて、去っていった。
ビルヘルムには遠ざかる二人の後ろ姿を見つめるしかなかった。
皇太子の婚約者として、見事に振舞い、自分とのダンスは成功させて見せた今宵のクリスタと、もっとこの夜会を味わいたかった。
早く戻らないかと気にしていたとことに、エスメル妃だけが戻ったのを見て、いてもたってもいられなかったのだ。
会場を出た回廊の向こうから、女性の笑い声が聞こえてきた。
この会場にはいないはずの子供が紛れたかのような気取りのない、本当に楽しそうな笑い声。
リオネルは不思議に思い先を急いだ。
柱の陰から白く輝くドレスが翻るのが見えた。
「お嬢、危ないですよ、無茶をされると。」
「ビル兄様が私を転ばせるはずないもの、しっかり支えていらして。」
「また、そんなことを言って」
リオネルは足を止めた。
あんなクリスタの笑い声は、記憶の消えかかった小さな子供のころ以来、聞いたことがない。
自分には、微笑みかけるのが精いっぱいだった。
クリスタはあんな風に笑うのか、そして、一緒に望む公務より、義兄とじゃれ合うことを優先させたのか!
熱心に公務に取り組むクリスタに感謝し、自分の婚約者としての役割を果たそうとする姿に満足していただけにまたしても義兄に奪われたクリスタにリオネルはどうしようもないいら立ちを覚えた。
リオネルは二人に近づかずに横へ移動し、柱の陰の二人の姿の見える位置に立った。
義兄妹は会場から漏れ聞こえる音楽に合わせてダンスを踊っているようだったが、ふたりともほとんど踊れておらず、手を取り合い、ビルヘルムが他方の腕でクリスタの腰をホールドし、クリスタはビルヘルムの肩へもう片方を置いてお互いの体を支え合いながらじゃれている。
およそダンスとは呼べないものでありながら、ふたりは楽しそうに笑っている。
クリスタに唯一ダンスを踊らせることができるパートナーはリオネルであった。それが先ほど多くの貴族たちの前で示された。
しかし、あのように笑うのは義兄の前だけだった。
手に入れたと思うたび、遠のいていくクリスタ、いつになってもビルヘルムに勝てない自分。
リオネルは楽し気な二人を引きはがしたかった。
それはみじめな感情だった。
まっすぐ二人に向かって歩き出した。
リオネルの靴のかかとのカツカツという音に、クリスタとビルヘルムが振り返った。
ビルヘルムはクリスタから手を放し、頭を下げた。
「クリスタ嬢、国賓を放って、こんなところで子供のように振舞っていたのでは困ります。皇太子のパートナーとして出席しているのですよ。」
リオネルの冷たい表情に、クリスタの顔がこわばり、一瞬前の笑顔を捨て、体を下げた。
「申し訳ございません、皇太子殿下。すぐに参ります」
―私にはこの顔か。
リオネルはさらに冷たく言い放つ。
「アラン皇太子殿下もおられるのだから、名前で呼ぶよう申し上げたはずです。」
「重ね重ね申し訳ございません。リオネル皇太子殿下。」
ビルヘルムはクリスタを見つめた。
夜会へ皇太子のエスコートで出席するのを拒もうとした際、『殿下もお怒り』であったとクリスタが話していた。
こんな風に冷たく叱責されていたのか。
おどおどと謝罪するクリスタの姿にショックを受けた。
「行きましょう。」
リオネルが腕を出し、クリスタがそれに手を置いて、去っていった。
ビルヘルムには遠ざかる二人の後ろ姿を見つめるしかなかった。
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