【R-18有】皇太子の執着と義兄の献身

絵夢子

文字の大きさ
上 下
30 / 76
第三章 夜会にて

5.エスメル皇太子妃との語らい

しおりを挟む
 2曲を踊り終わると、アラン皇太子の申し出により、エスメル妃を別室で休息させることになった。
 クリスタも侍女を伴い、一緒に控室へ下がり、茶を用意させた。
 ふたりの休む間に、皇太子ふたりが場に残って貴族たちと社交した。

 エスメル皇太子妃は付き添うクリスタの耳元で
「赤ちゃんがいるのよ」
 とささやいた。
 妊婦の妃をいたわってアラン皇太子は妃を別室で休息させたのだ。

「まあ!おめでとうございます。では、こちらへのご移動は大変でしたね。」
 エスメル皇太子のドレスは、体全体をゆったり覆うものになっている。
 イリア王国で流行のデザインなのだと思っていたが、おなかを隠すためだったらしい。
「結婚して12年になりますの、もうだめかと思っていたので、嬉しいわ。」
 人目のない部屋で、エスメルは少し居住まいを崩し、愛おしそうに自身の腹部を見下ろして撫でている。

「世継ぎをと、長く責められて、まあ、この子が王女であれば、その責めはまだ続くけれど、私はこの子が元気ならもういいわ。アラン皇太子には弟君もいらっしゃるし、そちらに男の子がいるの。血統が途絶えることはないわ。」
 世継ぎの王子を産めば、エステルの立場は強くなるが、それより、子が授かったことが嬉しいようだ。

「クリスタさんは、どう?お子さんは楽しみ?」
 楽しみかといわれるとどうだろうか?デビューして、嫁げば当然に家門の跡継ぎを産むことを求められる。夫人の義務として。
 皇太子妃となればなおさら。
 リオネルには男の兄弟はいない。自分が生まなければ、今は公爵となっている現在の皇帝陛下の弟君の子孫に王位継承権を持たせることになるだろうか。いずれにしても大事になるのは間違いない。
 リオネルとの子供、近い将来に自分がリオネルと子を成すことが想像できなかった。

「務めは果たさなければと思っております。」
 エスメル妃は寂し気にクリスタをみた。
「努め?まあ…」
 皇太子の婚約者として、立派に国賓をもてなしながら、どこか不安そうなクリスタを少し理解できる気がした。
「ダンスでは、リオネル皇太子殿下と良いパートナーでしたけど…そうなのね」
 エスメル妃は手に持ったカップに目を落とした。

「クリスタさん、他に、想っていらっしゃる方がいて?」
 クリスタは思ってもいなかった問いに驚いた。
「いえ!まさか!」
「まさかということはないでしょう?恋をされたことはない?」
「デビュタントを今年迎えて、デビューの場以来、今回が初めての社交の場ですの。父や兄たちしか、側にいなかったですし…恋など、私には、不要でしたもの。」
 クリスタは目線を落とした。

「あんまり大事に守られているのも、考えものね」
 エスメル妃は愛娘を見守るウィストリア侯爵の顔を思い出した。
「リオネル皇太子殿下は、クリスタさんを随分想っていらっしゃるようだけど、可哀想に、片想いでいらっしゃる」
「可哀想だなんて!」
 クリスタは、リオネルを子供のように語るエスメル妃に驚いた。

 エスメル妃は笑った。
「リオネル殿下がクリスタさんを思っているのは、お分かりでしょう?」
 リオネルが自分を囲い込み、他の子息から離そうとしているのは、デビュタントの時から感じていた。
 それは、皇太子として、自身の妃を確保するための行動ではなかったのか。

 男性にそのような対象として見られ、色恋沙汰に巻き込まれるのはどこか恐ろしかった。

「エスメル妃殿下、あの…、妃殿下は、アラン皇太子殿下をお慕いして、妃になられたのですか?」
 エスメルであれば、このような質問も受け入れてくれるように思えた。
「アラン殿下が私を好いて、大切にしてくださるから、私もだんだん…」
 クリスタはエスメルの幸せそうな笑顔に見とれた。

「別に憧れていた方がいたの」
 エスメルが人差し指を口の前に立てた。
「その方は、私にちっとも興味がなくて、ダンスにお誘いくださることもなくて、遠くから見ていただけだったわ。毎日悔しくて、情けなくて、そんな時にアラン殿下に想いを寄せられて、なんだか救われて。」

 クリスタには、そんなエスメルの恋物語を理解する事が困難だった。
 自分もそのように、リオネルを思うことがあるだろうか。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

義兄の執愛

真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。 教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。 悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...