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第三章 夜会にて
2.皇太子のエスコート
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イリア王国のアラン皇太子夫妻、皇帝一家と皇太子の婚約者であるウィストリア侯爵令嬢クリスタの入場が宣言された。
並みいる貴族たちが頭を下げる中、さっそうと入場する皇族と一緒に皇太子の腕に手を置いて入場するのがクリスタには畏れ多く思え、緊張していた。
皇帝が一同に顔を上げるように言い、貴族たちが一斉に姿勢を正す。まるで波のようだった。
ビルヘルムも顔を上げ、皇太子の横に揃いの衣装を着たクリスタを見た。
シルクの光沢、金糸の刺繍の豪華な技巧。神々しいほどに美しいクリスタが、皇太子の横にいる。
―お嬢はもう、本当に手の届かない高みにいらっしゃる。
口々にクリスタの美しさをたたえ、皇太子と似合いだとささやき合う貴族たちの中でビルヘルムはクリスタが誇らしく、そして自身から離れていく現実を突きつけられ寂しく思った。
侯爵夫妻も、実兄のギルバートも、愛するクリスタの輝かしい幸せを確信していた。
リオネルは人混みにビルヘルムを見つけた。クリスタだけを見つめている複雑な光を宿した目を忌々しく思った。そして美しいクリスタをこのような栄光の場に引き出せる自身を誇った。本来男爵家三男であるビルヘルムにはクリスタをふさわしい場に引き出すことなどできない。
緊張して目を泳がしているクリスタの、自分の腕に置かれた手の上に、自身の手を重ねた。
クリスタはびっくりしてその手が少し動いたが、人々の目の前でエスコートする皇太子の腕から手を離すわけにもいかない。
「大丈夫です。私が一緒なのですから。」
クリスタの耳元に口を近付けて励ます。
ビルヘルムの視線を感じながら。
「はい、皇太子殿下。」
「名前で、といったでしょう?」
「あ、リオネル殿下…。」
微笑みながら婚約者にささやき続ける皇太子の姿は二人を仲睦まじく、甘い関係に見せた。
出席した貴族誰もが皇室一家の曇りなき繁栄と約束された未来を思った。
ビルヘルムはクリスタはクリスタに最も似合う場所におり、クリスタ以上にあの輝かしい役を演じられる令嬢はいないと確信しつつも、唇をかみ手を強く握って、来る別離の気配に耐えた。
クリスタは高座に設けられた皇族用の椅子に座った。皇太子の席の右肩のすぐ後ろにクリスタ、その横にエスメル皇太子妃、その右前にアラン皇太子。皇太子同士が親しく会話しながら、後ろのクリスタやエスメル妃とも会話できる配置であった。
エスメル皇太子妃はクリスタに話しかけ、妃同士の絆を深めようと努めた。クリスタもイリア王国独特の言葉を織り交ぜ答えた。見事な外交デビューであった。
並みいる貴族たちが頭を下げる中、さっそうと入場する皇族と一緒に皇太子の腕に手を置いて入場するのがクリスタには畏れ多く思え、緊張していた。
皇帝が一同に顔を上げるように言い、貴族たちが一斉に姿勢を正す。まるで波のようだった。
ビルヘルムも顔を上げ、皇太子の横に揃いの衣装を着たクリスタを見た。
シルクの光沢、金糸の刺繍の豪華な技巧。神々しいほどに美しいクリスタが、皇太子の横にいる。
―お嬢はもう、本当に手の届かない高みにいらっしゃる。
口々にクリスタの美しさをたたえ、皇太子と似合いだとささやき合う貴族たちの中でビルヘルムはクリスタが誇らしく、そして自身から離れていく現実を突きつけられ寂しく思った。
侯爵夫妻も、実兄のギルバートも、愛するクリスタの輝かしい幸せを確信していた。
リオネルは人混みにビルヘルムを見つけた。クリスタだけを見つめている複雑な光を宿した目を忌々しく思った。そして美しいクリスタをこのような栄光の場に引き出せる自身を誇った。本来男爵家三男であるビルヘルムにはクリスタをふさわしい場に引き出すことなどできない。
緊張して目を泳がしているクリスタの、自分の腕に置かれた手の上に、自身の手を重ねた。
クリスタはびっくりしてその手が少し動いたが、人々の目の前でエスコートする皇太子の腕から手を離すわけにもいかない。
「大丈夫です。私が一緒なのですから。」
クリスタの耳元に口を近付けて励ます。
ビルヘルムの視線を感じながら。
「はい、皇太子殿下。」
「名前で、といったでしょう?」
「あ、リオネル殿下…。」
微笑みながら婚約者にささやき続ける皇太子の姿は二人を仲睦まじく、甘い関係に見せた。
出席した貴族誰もが皇室一家の曇りなき繁栄と約束された未来を思った。
ビルヘルムはクリスタはクリスタに最も似合う場所におり、クリスタ以上にあの輝かしい役を演じられる令嬢はいないと確信しつつも、唇をかみ手を強く握って、来る別離の気配に耐えた。
クリスタは高座に設けられた皇族用の椅子に座った。皇太子の席の右肩のすぐ後ろにクリスタ、その横にエスメル皇太子妃、その右前にアラン皇太子。皇太子同士が親しく会話しながら、後ろのクリスタやエスメル妃とも会話できる配置であった。
エスメル皇太子妃はクリスタに話しかけ、妃同士の絆を深めようと努めた。クリスタもイリア王国独特の言葉を織り交ぜ答えた。見事な外交デビューであった。
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