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第三章 夜会にて
1.国花
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イリア王国のアラン皇太子は無事に到着し、宮廷の離宮に滞在した。
到着のその日は皇室一家との私的な晩餐会のみで休養に当て、歓迎の宴は翌日である。
ウィストリア侯爵は外務大臣として、数日前から宮廷に滞在して執務に当たり、長兄ギルバードと共にビルヘルムも補佐として侯爵に付き従った。
クリスタは母、兄嫁と共に馬車で宮廷に入った。母と兄嫁は侯爵たちと合流するため外務大臣の執務室へ、クリスタは皇太子と合流するため皇室一家の控える部屋へ案内された。
皇太子はクリスタに用意したドレスと対になる礼服を着用していた。白いシルクと金の刺繍の二人は華やかで美しく、将来の皇太子と妃、皇帝と皇后として誰にも納得のいく姿に見えた。
初めてクリスタのこのドレス姿を見た皇帝は大いに喜び、リオネルも揃いの衣装を着て並んだのを見た皇后もふたりを褒めたたえた。
しかし、リオネルはドレスに似合うと薦めたエメラルドではなく、ブルーサファイヤの首飾りを付けたクリスタに不満であった。髪にも合わせて青い花を指している。
リオネルはデビュタントの時と同様エメラルドのブローチとカフスをしており、アクセサリーもクリスタと合わせるつもりでいた。
国賓、イリア王国の皇太子夫妻もこの部屋に合流した。皇帝が息子の婚約者としてクリスタを紹介する。
クリスタの美しい礼のあと、夫妻はその美しさを褒め、リオネル皇太子と似合いだとたたえた。
イリアの皇太子妃エスメルがクリスタの手を取った
「クリスタ嬢、私たちの国花を髪に飾ってくださったのね。嬉しいわ。」
と、クリスタを抱きしめるようにしてその花の香りをかいだ。
薔薇の一種であるがイリアの限られた地域でしか自生しない植物だとアラン皇太子が説明した。
「もともとはこの青い花が国家なのですが、青い花は土壌の変化で減ってしまっていて。国民は白い花を代用として飾ります。クリスタ嬢、よくご存じでいらっしゃいましたね。」
「はい、父の外務大臣、ウィストリア侯爵が、イリア国王陛下より13年ほど前に送られた苗木を、母が温室で育てております。」
アラン皇太子夫妻は顔を見合わせて微笑んだ。
皇帝と皇后も感心してクリスタを見つめていた。
リオネルはエメラルドではなく、青い花、色を合わせたサファイヤを身に着けたクリスタが誇らしく、自身の勉強不足を恥じた。
侍従に、自身の保有するサファイヤのカフスを持ってくるよう言いつけた。
「クリスタ嬢、やはり、あなたは立派に公務を務められるではないですか。さすがはあのウィストリア侯爵の令嬢だ。」
「皇太子殿下、お褒めをいただきありがとうございます。」
クリスタがリオネルの耳に顔を近付けた。リオネルの心臓が音を立てた。
「問題はダンスですわ。」
ふたりは顔を見合わせて和やかに笑った。
リオネルのサファイヤが届き、リオネルはカフスを替えた。
自身の婚約者として、国賓をもてなすために心を砕いたクリスタがリオネルには誇らしく、また、クリスタが自分の妃となる未来をしっかりと受け止めているのだと思うと嬉しかった。
会場まで、リオネルの腕に手を預けるクリスタとの距離は、以前庭を案内したときより近い。ダンスのレッスンで皇太子のエスコートに慣れたようだ。リオネルは言う。
「クリスタ嬢、今、ここには皇太子がふたりいますから、私のことは名前で呼ばなくてはいけませんよ。」
「あ…。では…リオネル殿下とお呼びしてよろしいでしょうか。」
「もちろんです。」
到着のその日は皇室一家との私的な晩餐会のみで休養に当て、歓迎の宴は翌日である。
ウィストリア侯爵は外務大臣として、数日前から宮廷に滞在して執務に当たり、長兄ギルバードと共にビルヘルムも補佐として侯爵に付き従った。
クリスタは母、兄嫁と共に馬車で宮廷に入った。母と兄嫁は侯爵たちと合流するため外務大臣の執務室へ、クリスタは皇太子と合流するため皇室一家の控える部屋へ案内された。
皇太子はクリスタに用意したドレスと対になる礼服を着用していた。白いシルクと金の刺繍の二人は華やかで美しく、将来の皇太子と妃、皇帝と皇后として誰にも納得のいく姿に見えた。
初めてクリスタのこのドレス姿を見た皇帝は大いに喜び、リオネルも揃いの衣装を着て並んだのを見た皇后もふたりを褒めたたえた。
しかし、リオネルはドレスに似合うと薦めたエメラルドではなく、ブルーサファイヤの首飾りを付けたクリスタに不満であった。髪にも合わせて青い花を指している。
リオネルはデビュタントの時と同様エメラルドのブローチとカフスをしており、アクセサリーもクリスタと合わせるつもりでいた。
国賓、イリア王国の皇太子夫妻もこの部屋に合流した。皇帝が息子の婚約者としてクリスタを紹介する。
クリスタの美しい礼のあと、夫妻はその美しさを褒め、リオネル皇太子と似合いだとたたえた。
イリアの皇太子妃エスメルがクリスタの手を取った
「クリスタ嬢、私たちの国花を髪に飾ってくださったのね。嬉しいわ。」
と、クリスタを抱きしめるようにしてその花の香りをかいだ。
薔薇の一種であるがイリアの限られた地域でしか自生しない植物だとアラン皇太子が説明した。
「もともとはこの青い花が国家なのですが、青い花は土壌の変化で減ってしまっていて。国民は白い花を代用として飾ります。クリスタ嬢、よくご存じでいらっしゃいましたね。」
「はい、父の外務大臣、ウィストリア侯爵が、イリア国王陛下より13年ほど前に送られた苗木を、母が温室で育てております。」
アラン皇太子夫妻は顔を見合わせて微笑んだ。
皇帝と皇后も感心してクリスタを見つめていた。
リオネルはエメラルドではなく、青い花、色を合わせたサファイヤを身に着けたクリスタが誇らしく、自身の勉強不足を恥じた。
侍従に、自身の保有するサファイヤのカフスを持ってくるよう言いつけた。
「クリスタ嬢、やはり、あなたは立派に公務を務められるではないですか。さすがはあのウィストリア侯爵の令嬢だ。」
「皇太子殿下、お褒めをいただきありがとうございます。」
クリスタがリオネルの耳に顔を近付けた。リオネルの心臓が音を立てた。
「問題はダンスですわ。」
ふたりは顔を見合わせて和やかに笑った。
リオネルのサファイヤが届き、リオネルはカフスを替えた。
自身の婚約者として、国賓をもてなすために心を砕いたクリスタがリオネルには誇らしく、また、クリスタが自分の妃となる未来をしっかりと受け止めているのだと思うと嬉しかった。
会場まで、リオネルの腕に手を預けるクリスタとの距離は、以前庭を案内したときより近い。ダンスのレッスンで皇太子のエスコートに慣れたようだ。リオネルは言う。
「クリスタ嬢、今、ここには皇太子がふたりいますから、私のことは名前で呼ばなくてはいけませんよ。」
「あ…。では…リオネル殿下とお呼びしてよろしいでしょうか。」
「もちろんです。」
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