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第二章 皇太子の焦燥と義兄の寂寥
13.ドレス
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クリスタは皇后に呼ばれ、イリア王国の皇太子夫妻の歓迎のための夜会用のドレスを試着してた。
すでに採寸は侯爵家に送られた針子たちにより行われており、今日は仮縫いの終わったドレスを合わせるために呼ばれていた。
衝立の陰で皇后の侍女と、すでに嫁ぐ前から準備されたクリスタ専用の侍女たちの手を借りて着替え、軽く髪型を整えられた。
衝立が除かれ、皇室によって準備された国賓を迎えるためのドレスを着たクリスタが皇后の前に立った。
「ま…あ!」
皇后は期待以上のクリスタの美しさに驚嘆の声を漏らした。
「ねえ、あなた、リオネルを連れてきてちょうだい。」
侍女の一人が部屋を飛び出した。
クリスタは気恥ずかしくなる。
「こんなに素晴らしいドレス、よろしいのでしょうか。」
「何を言っているの!国賓を迎える衣裳よ。それに、あなた以上にこのドレスを着こなせる人なんていないわよ!」
クリスタの前に鏡が置かれた。その中の自分の姿にクリスタは驚いた。
最上級の白のシルクに贅沢に金糸の刺繍が施され、腰の後ろでつまんだ豊富なシルクは後ろにボリュームのあるトレーンを作っている。
技巧を凝らした刺繍がここまで贅沢にあしらわれたドレスを名門侯爵家の令嬢であるクリスタも見たことがなかった。
金糸の輝きはクリスタのブルネットによく似合っており、鎖骨を見せる襟ぐりはクリスタの首元を美しく見せている。
母の侍女に呼ばれて駆け付けたリオネルもその姿に息を飲んだ。
「クリスタ嬢…、よく似合っています。国賓を迎える場で何より華やぐでしょう。」
「褒めすぎですわ。」
恥ずかしそうに笑うクリスタに、夜会の出席に躊躇したクリスタを叱責したリオネルとのわだかまりはなかった。
「クリスタ嬢、このドレスで自信をもって私の横にいてください。あのエメラルドが似合いそうです。」
「殿下、先日は、子供じみたことを言って申し訳ございませんでした。このような衣装をご用意いただきましたし、しっかり役目を果たします。」
美しい衣装を来て真面目な顔をしているクリスタにリオネルは顔をほころばせた。
「そんなことを言わずに、夜会を楽しみましょう。本当によく似合っている。」
「本当に美しいドレスですわ…。こんな華やかなドレスは髪の色も瞳の色も茶色くて地味な私には似合わないと思っていましたのに…。」
リオネルと皇后は顔を見合わせた。
この令嬢は自身の華やかな容姿にちっとも気づいていないのだ。
皇太子からの様々な贈り物にもあまり興味を示さなかったクリスタであったが職人の技巧を尽くしたこのドレスには魅入られている。そしてそのドレスに引き出された自分の華やかな美しさをも知った。
リオネルは満足していた。
ドレスの趣向はリオネルによるものだった。リオネルも同じ金糸の刺繍を施した礼服を用意している。
―これからも私が用意した衣装を身に着け、自分の価値を知るといい…。
「ああ、こんな素敵なドレスを着て、ダンスを失敗したらどうしましょう!」
婚約者と義母となる皇后の前で打ち解けた表情をみせるクリスタに、リオネルは近い将来の宮廷内での和やかな結婚生活を思った。
「クリスタ嬢、当日まで、練習しましょう。またお付き合いしますよ。」
「はい、殿下。」
まだクリスタからの甘い気持ちは見えないながら、近しく接し、リオネルを頼るクリスタの姿に皇后も安堵した。
すでに採寸は侯爵家に送られた針子たちにより行われており、今日は仮縫いの終わったドレスを合わせるために呼ばれていた。
衝立の陰で皇后の侍女と、すでに嫁ぐ前から準備されたクリスタ専用の侍女たちの手を借りて着替え、軽く髪型を整えられた。
衝立が除かれ、皇室によって準備された国賓を迎えるためのドレスを着たクリスタが皇后の前に立った。
「ま…あ!」
皇后は期待以上のクリスタの美しさに驚嘆の声を漏らした。
「ねえ、あなた、リオネルを連れてきてちょうだい。」
侍女の一人が部屋を飛び出した。
クリスタは気恥ずかしくなる。
「こんなに素晴らしいドレス、よろしいのでしょうか。」
「何を言っているの!国賓を迎える衣裳よ。それに、あなた以上にこのドレスを着こなせる人なんていないわよ!」
クリスタの前に鏡が置かれた。その中の自分の姿にクリスタは驚いた。
最上級の白のシルクに贅沢に金糸の刺繍が施され、腰の後ろでつまんだ豊富なシルクは後ろにボリュームのあるトレーンを作っている。
技巧を凝らした刺繍がここまで贅沢にあしらわれたドレスを名門侯爵家の令嬢であるクリスタも見たことがなかった。
金糸の輝きはクリスタのブルネットによく似合っており、鎖骨を見せる襟ぐりはクリスタの首元を美しく見せている。
母の侍女に呼ばれて駆け付けたリオネルもその姿に息を飲んだ。
「クリスタ嬢…、よく似合っています。国賓を迎える場で何より華やぐでしょう。」
「褒めすぎですわ。」
恥ずかしそうに笑うクリスタに、夜会の出席に躊躇したクリスタを叱責したリオネルとのわだかまりはなかった。
「クリスタ嬢、このドレスで自信をもって私の横にいてください。あのエメラルドが似合いそうです。」
「殿下、先日は、子供じみたことを言って申し訳ございませんでした。このような衣装をご用意いただきましたし、しっかり役目を果たします。」
美しい衣装を来て真面目な顔をしているクリスタにリオネルは顔をほころばせた。
「そんなことを言わずに、夜会を楽しみましょう。本当によく似合っている。」
「本当に美しいドレスですわ…。こんな華やかなドレスは髪の色も瞳の色も茶色くて地味な私には似合わないと思っていましたのに…。」
リオネルと皇后は顔を見合わせた。
この令嬢は自身の華やかな容姿にちっとも気づいていないのだ。
皇太子からの様々な贈り物にもあまり興味を示さなかったクリスタであったが職人の技巧を尽くしたこのドレスには魅入られている。そしてそのドレスに引き出された自分の華やかな美しさをも知った。
リオネルは満足していた。
ドレスの趣向はリオネルによるものだった。リオネルも同じ金糸の刺繍を施した礼服を用意している。
―これからも私が用意した衣装を身に着け、自分の価値を知るといい…。
「ああ、こんな素敵なドレスを着て、ダンスを失敗したらどうしましょう!」
婚約者と義母となる皇后の前で打ち解けた表情をみせるクリスタに、リオネルは近い将来の宮廷内での和やかな結婚生活を思った。
「クリスタ嬢、当日まで、練習しましょう。またお付き合いしますよ。」
「はい、殿下。」
まだクリスタからの甘い気持ちは見えないながら、近しく接し、リオネルを頼るクリスタの姿に皇后も安堵した。
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