【R-18有】皇太子の執着と義兄の献身

絵夢子

文字の大きさ
上 下
25 / 82
第二章 皇太子の焦燥と義兄の寂寥

13.ドレス

しおりを挟む
 クリスタは皇后に呼ばれ、イリア王国の皇太子夫妻の歓迎のための夜会用のドレスを試着してた。
 すでに採寸は侯爵家に送られた針子たちにより行われており、今日は仮縫いの終わったドレスを合わせるために呼ばれていた。

 衝立の陰で皇后の侍女と、すでに嫁ぐ前から準備されたクリスタ専用の侍女たちの手を借りて着替え、軽く髪型を整えられた。
 衝立が除かれ、皇室によって準備された国賓を迎えるためのドレスを着たクリスタが皇后の前に立った。

「ま…あ!」
 皇后は期待以上のクリスタの美しさに驚嘆の声を漏らした。
「ねえ、あなた、リオネルを連れてきてちょうだい。」
 侍女の一人が部屋を飛び出した。

 クリスタは気恥ずかしくなる。
「こんなに素晴らしいドレス、よろしいのでしょうか。」
「何を言っているの!国賓を迎える衣裳よ。それに、あなた以上にこのドレスを着こなせる人なんていないわよ!」

 クリスタの前に鏡が置かれた。その中の自分の姿にクリスタは驚いた。
 最上級の白のシルクに贅沢に金糸の刺繍が施され、腰の後ろでつまんだ豊富なシルクは後ろにボリュームのあるトレーンを作っている。
 技巧を凝らした刺繍がここまで贅沢にあしらわれたドレスを名門侯爵家の令嬢であるクリスタも見たことがなかった。
 金糸の輝きはクリスタのブルネットによく似合っており、鎖骨を見せる襟ぐりはクリスタの首元を美しく見せている。

 母の侍女に呼ばれて駆け付けたリオネルもその姿に息を飲んだ。
「クリスタ嬢…、よく似合っています。国賓を迎える場で何より華やぐでしょう。」
「褒めすぎですわ。」
 恥ずかしそうに笑うクリスタに、夜会の出席に躊躇したクリスタを叱責したリオネルとのわだかまりはなかった。
「クリスタ嬢、このドレスで自信をもって私の横にいてください。あのエメラルドが似合いそうです。」

「殿下、先日は、子供じみたことを言って申し訳ございませんでした。このような衣装をご用意いただきましたし、しっかり役目を果たします。」
 美しい衣装を来て真面目な顔をしているクリスタにリオネルは顔をほころばせた。
「そんなことを言わずに、夜会を楽しみましょう。本当によく似合っている。」
「本当に美しいドレスですわ…。こんな華やかなドレスは髪の色も瞳の色も茶色くて地味な私には似合わないと思っていましたのに…。」

 リオネルと皇后は顔を見合わせた。
 この令嬢は自身の華やかな容姿にちっとも気づいていないのだ。

 皇太子からの様々な贈り物にもあまり興味を示さなかったクリスタであったが職人の技巧を尽くしたこのドレスには魅入られている。そしてそのドレスに引き出された自分の華やかな美しさをも知った。
 リオネルは満足していた。
 ドレスの趣向はリオネルによるものだった。リオネルも同じ金糸の刺繍を施した礼服を用意している。
 ―これからも私が用意した衣装を身に着け、自分の価値を知るといい…。

「ああ、こんな素敵なドレスを着て、ダンスを失敗したらどうしましょう!」
 婚約者と義母となる皇后の前で打ち解けた表情をみせるクリスタに、リオネルは近い将来の宮廷内での和やかな結婚生活を思った。
「クリスタ嬢、当日まで、練習しましょう。またお付き合いしますよ。」
「はい、殿下。」

 まだクリスタからの甘い気持ちは見えないながら、近しく接し、リオネルを頼るクリスタの姿に皇后も安堵した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...