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第二章 皇太子の焦燥と義兄の寂寥
9.義兄の後押し
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帰りの馬車でクリスタは隣に座らせたビルヘルムの肩に寄りかかって甘えた。
「お嬢、どうしましたか?昨日の義父上の夜会のお話から、緊張されていたようでしたが、朝より元気がありませんね。疲れましたか?」
無言で首を横に振るクリスタの額に侍女、ジェンが手を当てる。
「熱はないようですね。」
「今度の夜会のことを考えているだけよ。皇太子殿下のエスコートで皇室ご一家と一緒に参加なんて…兄さまや家族と一緒に参加できるなら気が楽だけど、慣れない社交の場なのに…」
ビルヘルムもさっそくクリスタのエスコート役を皇太子に奪われるのかと寂しく思った。
本家の姫が、さらに皇族となり、自分の手の届かないところにどんどん引き離されていく。
ビルヘルムはクリスタに自由を奪われた肩と反対の手でクリスタの頭を優しくなでた。
「大丈夫、お嬢なら、立派にやってのけますよ。同じく社交界に不慣れな私のエスコートより、殿下の方が頼りになります。」
「でも、皇太子殿下の横にいたら、絶対注目を浴びてしまうわ」
「それは仕方ないですね…どのみち皇太子殿下と婚約されて初めての社交の場ですから、我々といたって注目されます。」
ビルヘルムの言う通りだとクリスタはしぶしぶ納得した。
皇太子の婚約を断り切れなかった以上、注目を浴びてしまうことも、家族と離れることもどのみち避けがたいことだ。
「私がこんな風だから、殿下もお怒りなのだわ。」
「え、お怒り?」
「ええ…。ダンスレッスンに付き合っているのは何の為だと思っているのかって。確かにそうよね…。」
ビルヘルムとジェンは顔を見合わせた。あの皇太子が?
ビルヘルムは気づかぬうちに下唇を噛み、こぶしを握っていた。
―皇太子妃として勝手にお嬢を望んでおいて、こうして宮殿に通って努力しているお嬢に怒るなんて。ダンスレッスンに付き合わされているなんて、むしろレッスンさせられているのはお嬢の方だ。
「うちのお嬢様が皇太子さまのために妃教育に通われているのに、怒るなんて!あの皇太子さま、世間でいうほどお優しくないのですわ!」
ジェンが腕を組んだ。
ビルヘルムは自分の思っていたことをジェンが口にしてくれたことで自身の怒りが少し納まるのを感じた。
ビルヘルムも皇太子に対してこれまで持ってきた印象を訂正せざるを得ないとは感じている。しかし、もはやクリスタと皇太子との婚約を破棄することは難しい。皇室にとっても侯爵家にとっても醜聞となるし、一度求婚を受け入れた侯爵家からこれを覆すことは不可能。何よりクリスタの評判が地に落ちる。ビルヘルムにできることはクリスタの不安を取り除き安心して婚儀を迎えさせてやることだ。それが自分がクリスタを失う過程であったとしても。
「皇太子殿下は公務にまじめな方ですから、お嬢を説得するためにおっしゃったのでしょう。期待されているってことですよ。お嬢、踊れるようになったとおっしゃっていたでしょう?」
「皇太子殿下のリードがお上手なのよ。他の方と踊ったら、恥をかいてしまうわ。」
ビルヘルムは皇太子を褒めて頼っているクリスタに感じた胸の痛みを隠した。
「お嬢、どうしましたか?昨日の義父上の夜会のお話から、緊張されていたようでしたが、朝より元気がありませんね。疲れましたか?」
無言で首を横に振るクリスタの額に侍女、ジェンが手を当てる。
「熱はないようですね。」
「今度の夜会のことを考えているだけよ。皇太子殿下のエスコートで皇室ご一家と一緒に参加なんて…兄さまや家族と一緒に参加できるなら気が楽だけど、慣れない社交の場なのに…」
ビルヘルムもさっそくクリスタのエスコート役を皇太子に奪われるのかと寂しく思った。
本家の姫が、さらに皇族となり、自分の手の届かないところにどんどん引き離されていく。
ビルヘルムはクリスタに自由を奪われた肩と反対の手でクリスタの頭を優しくなでた。
「大丈夫、お嬢なら、立派にやってのけますよ。同じく社交界に不慣れな私のエスコートより、殿下の方が頼りになります。」
「でも、皇太子殿下の横にいたら、絶対注目を浴びてしまうわ」
「それは仕方ないですね…どのみち皇太子殿下と婚約されて初めての社交の場ですから、我々といたって注目されます。」
ビルヘルムの言う通りだとクリスタはしぶしぶ納得した。
皇太子の婚約を断り切れなかった以上、注目を浴びてしまうことも、家族と離れることもどのみち避けがたいことだ。
「私がこんな風だから、殿下もお怒りなのだわ。」
「え、お怒り?」
「ええ…。ダンスレッスンに付き合っているのは何の為だと思っているのかって。確かにそうよね…。」
ビルヘルムとジェンは顔を見合わせた。あの皇太子が?
ビルヘルムは気づかぬうちに下唇を噛み、こぶしを握っていた。
―皇太子妃として勝手にお嬢を望んでおいて、こうして宮殿に通って努力しているお嬢に怒るなんて。ダンスレッスンに付き合わされているなんて、むしろレッスンさせられているのはお嬢の方だ。
「うちのお嬢様が皇太子さまのために妃教育に通われているのに、怒るなんて!あの皇太子さま、世間でいうほどお優しくないのですわ!」
ジェンが腕を組んだ。
ビルヘルムは自分の思っていたことをジェンが口にしてくれたことで自身の怒りが少し納まるのを感じた。
ビルヘルムも皇太子に対してこれまで持ってきた印象を訂正せざるを得ないとは感じている。しかし、もはやクリスタと皇太子との婚約を破棄することは難しい。皇室にとっても侯爵家にとっても醜聞となるし、一度求婚を受け入れた侯爵家からこれを覆すことは不可能。何よりクリスタの評判が地に落ちる。ビルヘルムにできることはクリスタの不安を取り除き安心して婚儀を迎えさせてやることだ。それが自分がクリスタを失う過程であったとしても。
「皇太子殿下は公務にまじめな方ですから、お嬢を説得するためにおっしゃったのでしょう。期待されているってことですよ。お嬢、踊れるようになったとおっしゃっていたでしょう?」
「皇太子殿下のリードがお上手なのよ。他の方と踊ったら、恥をかいてしまうわ。」
ビルヘルムは皇太子を褒めて頼っているクリスタに感じた胸の痛みを隠した。
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