【R-18有】皇太子の執着と義兄の献身

絵夢子

文字の大きさ
上 下
16 / 76
第二章 皇太子の焦燥と義兄の寂寥

4.妃教育

しおりを挟む
 クリスタは皇太子の婚約者として妃教育や皇帝一家との私的な茶会のために度々宮廷へ呼ばれるようになった。

 高位貴族としてのマナーや教養は十分に身についているクリスタだが、皇室特有の立ち振る舞いや、儀礼の手順、皇室一家の詳細な歴史など、皇族となるために覚えることは山のようにあった。
 宮廷内の一室で、一流の学者や官僚、催事の責任者などから次々講義を受けるのは心苦しく、プレッシャーとなった。その講義の間に、公務で忙しい皇太子が度々顔を出すのも申し訳なく恐縮した。

 クリスタと同様に皇室の外から嫁いだ皇后は茶会に呼んで気遣ってくれる。クリスタにとって皇后の気遣いは素直に嬉しいものだった。

 皇太子は早く打ち解けてほしいと思って会いに行くのだが、クリスタが皇太子への礼節を崩すことはなかった。その姿は若い皇太子にでも忠義を尽くし、親しくも臣下としての態度を崩さない父侯爵の姿に重なった。
 侯爵のその姿は称賛すべきものだと思っているだけに、その教えを忠実に守る婚約者の態度にリオネルは皮肉なものを感じざるを得なかった。

 もどかしい思いは渇望となって、リオネルの気持ちはますますクリスタに向かった。

 贈り物に宝飾品を用意しても、目を輝かせて飛びつくことはない。父譲りの堅実さである。遠慮して辞退しようとするのを、あなたと一緒に皇室に戻ってくる宝飾品だからと言って半ば強引に押し付ける。
 何を贈れば笑顔を返してくれるのか、またあのバラのアーチの影での出来事のように、ほんの指先でも触れるチャンスがないか。リオネルは冷静を装う笑顔の下でクリスタを追った。

 ビルヘルムはクリスタが宮廷に出るときは、護衛としてクリスタと馬車で共に宮廷へ向かい、父侯爵の執務室で補佐を務めながら待った。
「最近はビルヘルムが来てくれるから助かる。」
と、侯爵は喜んだ。ビルヘルムにはクリスタの護衛が優先なのは侯爵も承知である。

 クリスタは、宮廷での用が済むと、宮廷内でクリスタ付きとなった侍女に、父、外務大臣の部屋に連絡させ、ビルヘルムを迎えに来させて共に帰る。
 自分が父の部屋に行ってビルヘルムと合流すればよいのだが、義兄が自分のわがままを聞き入れて、呼び出しに応じてわざわざ足を運んでくれることが嬉しいのだ。ビルヘルムが誰よりも自分を甘やかしてくれる。

 クリスタの講義の終わる時間にあわせてリオネルがお茶を用意させて部屋を訪ねても、
「お嬢、お待たせしました。」
と、ビルヘルムが迎えに来ると
「皇太子殿下、お付き合いいただきありがとうございました。」
 と、席を立ってしまう。皇太子と同席する緊張から解き放されてほっとしているのをリオネルは見逃さない。

 頻繁に顔を見る機会ができても、クリスタとの距離は一向に縮まらず、クリスタをエスコートする役割すら回って来なかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

義兄の執愛

真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。 教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。 悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

処理中です...