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第二章 皇太子の焦燥と義兄の寂寥
4.妃教育
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クリスタは皇太子の婚約者として妃教育や皇帝一家との私的な茶会のために度々宮廷へ呼ばれるようになった。
高位貴族としてのマナーや教養は十分に身についているクリスタだが、皇室特有の立ち振る舞いや、儀礼の手順、皇室一家の詳細な歴史など、皇族となるために覚えることは山のようにあった。
宮廷内の一室で、一流の学者や官僚、催事の責任者などから次々講義を受けるのは心苦しく、プレッシャーとなった。その講義の間に、公務で忙しい皇太子が度々顔を出すのも申し訳なく恐縮した。
クリスタと同様に皇室の外から嫁いだ皇后は茶会に呼んで気遣ってくれる。クリスタにとって皇后の気遣いは素直に嬉しいものだった。
皇太子は早く打ち解けてほしいと思って会いに行くのだが、クリスタが皇太子への礼節を崩すことはなかった。その姿は若い皇太子にでも忠義を尽くし、親しくも臣下としての態度を崩さない父侯爵の姿に重なった。
侯爵のその姿は称賛すべきものだと思っているだけに、その教えを忠実に守る婚約者の態度にリオネルは皮肉なものを感じざるを得なかった。
もどかしい思いは渇望となって、リオネルの気持ちはますますクリスタに向かった。
贈り物に宝飾品を用意しても、目を輝かせて飛びつくことはない。父譲りの堅実さである。遠慮して辞退しようとするのを、あなたと一緒に皇室に戻ってくる宝飾品だからと言って半ば強引に押し付ける。
何を贈れば笑顔を返してくれるのか、またあのバラのアーチの影での出来事のように、ほんの指先でも触れるチャンスがないか。リオネルは冷静を装う笑顔の下でクリスタを追った。
ビルヘルムはクリスタが宮廷に出るときは、護衛としてクリスタと馬車で共に宮廷へ向かい、父侯爵の執務室で補佐を務めながら待った。
「最近はビルヘルムが来てくれるから助かる。」
と、侯爵は喜んだ。ビルヘルムにはクリスタの護衛が優先なのは侯爵も承知である。
クリスタは、宮廷での用が済むと、宮廷内でクリスタ付きとなった侍女に、父、外務大臣の部屋に連絡させ、ビルヘルムを迎えに来させて共に帰る。
自分が父の部屋に行ってビルヘルムと合流すればよいのだが、義兄が自分のわがままを聞き入れて、呼び出しに応じてわざわざ足を運んでくれることが嬉しいのだ。ビルヘルムが誰よりも自分を甘やかしてくれる。
クリスタの講義の終わる時間にあわせてリオネルがお茶を用意させて部屋を訪ねても、
「お嬢、お待たせしました。」
と、ビルヘルムが迎えに来ると
「皇太子殿下、お付き合いいただきありがとうございました。」
と、席を立ってしまう。皇太子と同席する緊張から解き放されてほっとしているのをリオネルは見逃さない。
頻繁に顔を見る機会ができても、クリスタとの距離は一向に縮まらず、クリスタをエスコートする役割すら回って来なかった。
高位貴族としてのマナーや教養は十分に身についているクリスタだが、皇室特有の立ち振る舞いや、儀礼の手順、皇室一家の詳細な歴史など、皇族となるために覚えることは山のようにあった。
宮廷内の一室で、一流の学者や官僚、催事の責任者などから次々講義を受けるのは心苦しく、プレッシャーとなった。その講義の間に、公務で忙しい皇太子が度々顔を出すのも申し訳なく恐縮した。
クリスタと同様に皇室の外から嫁いだ皇后は茶会に呼んで気遣ってくれる。クリスタにとって皇后の気遣いは素直に嬉しいものだった。
皇太子は早く打ち解けてほしいと思って会いに行くのだが、クリスタが皇太子への礼節を崩すことはなかった。その姿は若い皇太子にでも忠義を尽くし、親しくも臣下としての態度を崩さない父侯爵の姿に重なった。
侯爵のその姿は称賛すべきものだと思っているだけに、その教えを忠実に守る婚約者の態度にリオネルは皮肉なものを感じざるを得なかった。
もどかしい思いは渇望となって、リオネルの気持ちはますますクリスタに向かった。
贈り物に宝飾品を用意しても、目を輝かせて飛びつくことはない。父譲りの堅実さである。遠慮して辞退しようとするのを、あなたと一緒に皇室に戻ってくる宝飾品だからと言って半ば強引に押し付ける。
何を贈れば笑顔を返してくれるのか、またあのバラのアーチの影での出来事のように、ほんの指先でも触れるチャンスがないか。リオネルは冷静を装う笑顔の下でクリスタを追った。
ビルヘルムはクリスタが宮廷に出るときは、護衛としてクリスタと馬車で共に宮廷へ向かい、父侯爵の執務室で補佐を務めながら待った。
「最近はビルヘルムが来てくれるから助かる。」
と、侯爵は喜んだ。ビルヘルムにはクリスタの護衛が優先なのは侯爵も承知である。
クリスタは、宮廷での用が済むと、宮廷内でクリスタ付きとなった侍女に、父、外務大臣の部屋に連絡させ、ビルヘルムを迎えに来させて共に帰る。
自分が父の部屋に行ってビルヘルムと合流すればよいのだが、義兄が自分のわがままを聞き入れて、呼び出しに応じてわざわざ足を運んでくれることが嬉しいのだ。ビルヘルムが誰よりも自分を甘やかしてくれる。
クリスタの講義の終わる時間にあわせてリオネルがお茶を用意させて部屋を訪ねても、
「お嬢、お待たせしました。」
と、ビルヘルムが迎えに来ると
「皇太子殿下、お付き合いいただきありがとうございました。」
と、席を立ってしまう。皇太子と同席する緊張から解き放されてほっとしているのをリオネルは見逃さない。
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