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第二章 皇太子の焦燥と義兄の寂寥

3.皇太子は初夜を思う

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 入浴、着替えの後、侍従が部屋を辞してやっとリオネルは一人になった。
 深いため息をつき、顔に貼り付いている人に好感を与える笑顔を脱いだ。

 次期皇帝の身の上である。自身の安全のため、そこら中に警備を配した宮廷内であっても専属の護衛騎士が複数付き、身の回りに不便の無い様侍従が従い、公務の間は補佐官が付き、行った先々で人々の注目を浴びる生活を当たり前に送っている。
 不便や不足を感じることの無い様常に生活が整えられ、誰もが皇太子に好意を示す。
 不満も不安も感じる必要のない日々だった。

 ベッドに身を横たえ、今日のクリスタの姿を思い返す。バラのアーチに囲まれ、誰の視線からも逃れてクリスタとふたりになった短い時を。
 クリスタの耳元へ顔を近付けたときの光景・・・。耳の周りをそっと指先でなぞりながら、額に口づけたかった。いっそ彼女の頭の後ろに手をまわして逃げられなくして、唇を重ねてしまいたかった。

 首筋に自分の指先が一瞬が触れ、思わず彼女から漏れた声。もっと触れたら、彼女はどんな声を漏らすのだろう。
 近い将来、それがかなう、彼女が自分のものになる。それができる皇太子という自分の立場が僥倖に思えた。

 初めて口づけて、お互いの柔らかい濡れた粘膜をからませあう時、彼女は戸惑い、身を固くするだろう。彼女には初めてのことに違いない。それでも皇太子の求めに応えようとするだろう。そして、初めての快感に不安に思いながら身をゆだねる。ゆっくりとした深い口づけに、そのうち息も乱れて、ほかのことは何も考えられなくなるだろう。クリスタの頭の中を自分だけで満たしたい。

 義兄であるビルヘルムには決して許されないクリスタとの口づけ。初夜さえ迎えれば、クリスタをビルヘルムから完全に奪い取れる。
 
 リオネルは自身の股間が熱くなるのを感じた。
 このままクリスタとの初夜を思って自らを慰めたかった。しかし、そんなことをしてはあの清らかなクリスタを汚してしまう。あの清らかな乙女を思って股間が反応していることに罪悪感を持った。

 それでも想像の中でのクリスタとの初夜の営みが止められない。
 クリスタの口の中で舌を絡めあいながら、強く抱きしめ、背骨に沿って指をはわせる。片腕でクリスタの体を包みながら、もう片方の手で胸のふくらみをゆっくり味わう。胸の先がとがって固くなるのを掌で転がす。
 絡ませた唇からお互いの息が漏れ、息すらもまじりあう。
 リオネルの愛撫に快感を感じ始めるクリスタをベッドに横たえ、首元にキスをし、そのまま胸元へ・・・

「はあ・・・クリスタ・・・」
 リオネルは自身のものを取り出してゆっくりと刺激を与え始めた。もう我慢ができなかった。
 想像の中のクリスタは恥じらい、戸惑いながら、漏れる声や吐息を抑えきれず眉間にしわを寄せ、目を細めている。自分だけが知ることのできるクリスタの姿…。

「早くあの令嬢が、クリスタが欲しい・・・」

 舌先で胸の先を味わいながら、指を足の間に滑らせる。茂みの奥のそこは濡れ、リオネルの指にまとわりつく。ぬるぬると指で敏感な尖りを転がし、クリスタをまだ知らない快感で乱す。

 今はまだダンスでもグローブ越しで手を取ることしなできない存在。公式に婚約者となってなお指先で触れることさえ許されない高嶺の花。その体の奥を暴く時を思って皇太子が自慰をしているなんでクリスタは想像もできまい。
 リオネルは皇太子である自分にこんなことをさせるクリスタを憎くすら思う。
 彼女は自分を思って淫らな想像などすることはないだろう。

「くうっ!」
 想像の中で彼女の貞操を手に入れるまで持てず、リオネルは達した。
 手や夜着が不快に汚れ、みじめな敗北感が残った。
 クリスタの横にあの義兄がいなければ、負けた気などもしなっただろう。
 リオネルは生まれて初めて強烈に何かを欲しがり、生まれて初めて誰かを疎ましく思う感情を知った。
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