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第二章 皇太子の焦燥と義兄の寂寥

1.皇太子の思惑

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侍従が皇太子に声をかけた。
「皇太子殿下、お時間です。侯爵ご夫妻はこのまま玄関へ移動されますので、令嬢をご案内いたします。」
「ああ、もうそんな時間か。あなたといると時間を忘れます。私がこのままお見送りしましょう。」
侍従は頭を下げ、そのまま二人から距離をとった。

 リオネルはそのままクリスタをエスコートしながら庭を建物沿いに回り玄関ホールに入った。そこには案内されてきた侯爵夫妻と侯爵家の侍女と一緒に待機していたビルヘルムがいた。
 リオネルはビルヘルムの姿に心を乱された。クリスタに必ず付き従う義兄・・・。

 家族の姿を見つけたクリスタはリオネルの腕から手を放し、リオネルの方を向いて体を低くし頭を下げて挨拶すると、ビルヘルムに早足で近づいた。ビルヘルムが腕を出すと、クリスタが手を置いた。あまりにも自然なしぐさだった。
「兄さま、お待たせしました。」
 親しみのこもったクリスタの甘えるような声。皇太子の婚約者としての役目から解放され、兄の横で緊張を解いた笑顔だった。

 クリスタの来た方を見たビルヘルムが皇太子に気づいて頭を下げた。
 リオネルはビルヘルムに挨拶を返すことができなかった。クリスタの本来の居場所はビルヘルムの横であって、自分はビルヘルムからクリスタを一時的に預かったに過ぎないのだと思い知らされた。

 リオネルはなんとか笑顔で侯爵一家に近づき、義両親となる侯爵夫妻に挨拶をして見送った。
「義父上、義母上、ありがとうございました。」
「まあ、殿下、自ら娘を送っていただいたのですね。」
「娘が失礼をいたしませんでしたか?」
「義父上、クリスタ嬢は完璧なレディですよ。」

 背を向け馬車の方へ去っていく侯爵一家。
 リオネルはビルヘルムのエスコートで去っていくクリスタの背中をにらみつけるように凝視した。時にビルヘルムを見上げ、満面の笑顔で楽しそうに話し、ビルヘルムがクリスタに貸しているのと反対の手でクリスタの頭をポンポンと撫でた。
「ビル兄さま、帰りは隣に座って頂戴?お願いよ」
「お嬢のお願いは断れませんね。」

 自分にエスコートされるときには手を預けながらも遠慮がちに距離をとっていたクリスタが、ビルヘルムにピッタリとくっついている。甘えるように。
 その光景をリオネルは苦々しく見つめた。二人を引きはがし、このままクリスタを宮殿に止めおきたかった。

 侯爵一家が社交シーズン後、領地に帰るのであれば、お妃教育を名目にクリスタを皇后のもとに預けさせることもできたかもしれないが、皇都で勤めを果たす侯爵であるので、親元から引きはがす大義名分がない。せめて早々に宮廷に通ってこさせて、公務の合間に会う時間を作れるように図ろうと考えを巡らせた。

 婚儀は来年の社交シーズンだろうか。待ち遠しい。早くクリスタをビルヘルムから引きはがし、自分のものにしたかった。どんなにビルへルムに懐こうと、兄妹の仲だ。夫となる自分はクリスタの純潔を手に入れることができる。初夜を迎えればビルヘルムから、完全にクリスタを奪うことができる。
 やがて来る自身の勝利にリオネルはすがる思いであった。
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