【R-18有】皇太子の執着と義兄の献身

絵夢子

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第一章 令嬢は皇太子に絡めとられる

12.指先

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「クリスタ嬢。待って、髪を直そう。」
 ほんの少し、耳の周りのおくれ毛がクリスタの動きで乱れただけだった。しかしリオネルにはそれをクリスタに近づく言い訳にしたかった。リオネルは右手のグローブを外しながら近づいた。
「え?」
 クリスタは伸びてくるリオネルの手に戸惑った。リオネルが耳の後ろの髪に触れ、そこを覗き込むように顔を近付けた。

 クリスタはどうしたらいいのか分からず、ただ、じっとしていた。
ー皇太子殿下に髪を直していただいてしまってよいのかしら?こんなにお顔が近い…

 髪の流れに沿ってそっと動いていたリオネルの指先が、ふと首筋に触れた。思わぬところに直接触れた感覚にクリスタが思わず身をすくめた。

「あっ」
 吐息のような声がクリスタの唇が零れ落ちた。
「失敬」
 リオネルは手を引いた。
「いえ、びっくりしてしまって。」
 クリスタがうつむいた。

 たまたま手が当たっただけなのに、触ったことを責めたと思われていないかしら。クリスタは緊張して両手を胸の前で握ってうつむいた。どうしてあんな声が出たのかしら。殿下の指がちょっと触れただけなのにぞわぞわして…。
「本当に潔癖な方ですね。あなたを妃に望んだのは正しかったようです。」
 リオネルは笑った。

 リオネルはこのまま薔薇のアーチにクリスタと閉じこもっていたかったが、護衛や侍従達から死角となる場所にいつまでも立ち止まっていることはできなかった。
 腕に置かれたレースのグローブに包まれたクリスタの手の感触に意識を向けながら、再びゆっくりと庭をエスコートして歩いた。

「自分が贈ったものを、身に着けてもらえるのは、存外にうれしいものですね。あのネックスレスは普段使うのには大げさなようだ。普段身に着けていただけるものをお贈りしましょう。」
「いえ!十分ですわ!」
「あなたには、パールや、透明なダイヤモンドなんかが似合いそうですね。」
「殿下、勿体ないですわ」
 クリスタの遠慮深さを好ましく思いながら、彼女を自分の贈ったもので囲みたいと願っていた。
 彼女の首に、耳に、嫌全身に今は触れられない自分の代わりに、自分の送ったものを身に付けさせたいと思った。リオネルは初めての思いに戸惑っていた。

 指先がほんの少し触れた彼女の髪、首筋。今はこんな接触すら事故でなければ望めない。自分の腕に乗る手の重さ。レースのグローブと自分の袖越しに伝わる体温だけが、今許される接触。
 婚儀まで強いられる我慢にリオネルはいらだった。
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