11 / 76
第一章 令嬢は皇太子に絡めとられる
11.無邪気な淑女
しおりを挟む
デビュタントの日から数日後、皇帝夫妻と皇太子、侯爵夫妻とクリスタが皇帝の私的な謁見室で顔を合わせた。
「呼び立ててすまない」
と皇帝が迎えた。
「皇太子とクリスタ嬢との婚約の件、受けれいてくれてありがたく思う。」
侯爵家には皇帝の名代が訪れ、婚約申し入れの文書が読み上げられ、侯爵一家はそれを受諾していた。
「本来はこちらから義父上にご挨拶に行くべきところ、警備の問題があり、ご足労いただくことになりました。」
皇太子は婚約者の父に敬意を払った。
クリスタはまだ戸惑っているが、このような気遣いをみせる皇太子に、侯爵は娘は大事にしてもらえるものと好ましく思った。
クリスタはきっちり襟の詰まったブラウスを着ていた。袖にはシルクが流れるようにあしらわれ、優雅なクリスタの動きを引き立てていた。広がりを抑えた紺スカートも、昼間に皇室を挨拶に訪ねるのに、仰々しくなく、清楚であり、好ましかった。
自分のものになるクリスタの体を、ほかの男たちの眼から守っているような装いにリオネルは満足した。昼のシンプルな装いにデビュタントで身に着けたエメラルドのイヤリングを唯一の装飾品としてつけているのも、自分のものという印をクリスタが受け入れたように思えた。
両家の親たちを残し、皇太子はクリスタを誘い外に出た。椅子から立ち上がるクリスタの手をとり、自分の腕にクリスタの手を乗せさせた。
ぎこちなく二人は皇帝一家の私的な庭を歩いた。少し離れて侍従が従いクリスタのために皇室の侍女の一人もついていた。庭のところどころに護衛もいた。高位貴族の家では使用人や護衛の眼が常にあるが、皇室ともなればなおのことであった。皇太子と二人きりではないことにクリスタはむしろほっとしていた。
その庭は春の花々が咲き、低木の茂る飾らない場所でクリスタは緊張を緩めた。
「良い香り。刈り込まずに草木を自然に育てる、こんな庭の方が私、好きですわ。」
クリスタの顔がほころんだ。
久しぶりに見た無邪気なクリスタの笑顔。
「あら?もしかして、子どものころ、こちらで遊ばせていただいたかしら?」
「思い出してくれましたか?まだあなたがこの低木に隠れてしまうくらいの頃ですよ。かくれんぼをしました。姉も一緒でしたね。」
「目線が変わったせいかすぐに気づけませんでした!ここでかくれんぼができたのね!」
成人しての再会でよそよそしかった二人が、幼馴染の気楽さに戻った。
「・・・クリスタ嬢、こちらへ」
リオネルのいく方へついていくとバラの蔦のからまるアーチがあった。
「まあ、ここでしたら、今でも隠れられますわ!」
バラのアーチは途中でカーブして続く、二人から距離をとって従う侍従と侍女や、庭に数人配された護衛たちの視界から逃れることができる。
天井も壁も蔦の緑とバラに囲まれた空間。クリスタはリオネルの腕から手を放し、くるりと回って見渡した。完璧なふるまいを見せていたクリスタの無邪気なふるまい。今、自分だけが、淑女であるクリスタの無邪気な笑顔を見ている。リオネルはクリスタをこのままここにとどめておきたくなった。
「呼び立ててすまない」
と皇帝が迎えた。
「皇太子とクリスタ嬢との婚約の件、受けれいてくれてありがたく思う。」
侯爵家には皇帝の名代が訪れ、婚約申し入れの文書が読み上げられ、侯爵一家はそれを受諾していた。
「本来はこちらから義父上にご挨拶に行くべきところ、警備の問題があり、ご足労いただくことになりました。」
皇太子は婚約者の父に敬意を払った。
クリスタはまだ戸惑っているが、このような気遣いをみせる皇太子に、侯爵は娘は大事にしてもらえるものと好ましく思った。
クリスタはきっちり襟の詰まったブラウスを着ていた。袖にはシルクが流れるようにあしらわれ、優雅なクリスタの動きを引き立てていた。広がりを抑えた紺スカートも、昼間に皇室を挨拶に訪ねるのに、仰々しくなく、清楚であり、好ましかった。
自分のものになるクリスタの体を、ほかの男たちの眼から守っているような装いにリオネルは満足した。昼のシンプルな装いにデビュタントで身に着けたエメラルドのイヤリングを唯一の装飾品としてつけているのも、自分のものという印をクリスタが受け入れたように思えた。
両家の親たちを残し、皇太子はクリスタを誘い外に出た。椅子から立ち上がるクリスタの手をとり、自分の腕にクリスタの手を乗せさせた。
ぎこちなく二人は皇帝一家の私的な庭を歩いた。少し離れて侍従が従いクリスタのために皇室の侍女の一人もついていた。庭のところどころに護衛もいた。高位貴族の家では使用人や護衛の眼が常にあるが、皇室ともなればなおのことであった。皇太子と二人きりではないことにクリスタはむしろほっとしていた。
その庭は春の花々が咲き、低木の茂る飾らない場所でクリスタは緊張を緩めた。
「良い香り。刈り込まずに草木を自然に育てる、こんな庭の方が私、好きですわ。」
クリスタの顔がほころんだ。
久しぶりに見た無邪気なクリスタの笑顔。
「あら?もしかして、子どものころ、こちらで遊ばせていただいたかしら?」
「思い出してくれましたか?まだあなたがこの低木に隠れてしまうくらいの頃ですよ。かくれんぼをしました。姉も一緒でしたね。」
「目線が変わったせいかすぐに気づけませんでした!ここでかくれんぼができたのね!」
成人しての再会でよそよそしかった二人が、幼馴染の気楽さに戻った。
「・・・クリスタ嬢、こちらへ」
リオネルのいく方へついていくとバラの蔦のからまるアーチがあった。
「まあ、ここでしたら、今でも隠れられますわ!」
バラのアーチは途中でカーブして続く、二人から距離をとって従う侍従と侍女や、庭に数人配された護衛たちの視界から逃れることができる。
天井も壁も蔦の緑とバラに囲まれた空間。クリスタはリオネルの腕から手を放し、くるりと回って見渡した。完璧なふるまいを見せていたクリスタの無邪気なふるまい。今、自分だけが、淑女であるクリスタの無邪気な笑顔を見ている。リオネルはクリスタをこのままここにとどめておきたくなった。
32
お気に入りに追加
301
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
義兄の執愛
真木
恋愛
陽花は姉の結婚と引き換えに、義兄に囲われることになる。
教え込むように執拗に抱き、甘く愛をささやく義兄に、陽花の心は砕けていき……。
悪の華のような義兄×中性的な義妹の歪んだ愛。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる