【R-18有】皇太子の執着と義兄の献身

絵夢子

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第一章 令嬢は皇太子に絡めとられる

11.無邪気な淑女

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 デビュタントの日から数日後、皇帝夫妻と皇太子、侯爵夫妻とクリスタが皇帝の私的な謁見室で顔を合わせた。

「呼び立ててすまない」
と皇帝が迎えた。
「皇太子とクリスタ嬢との婚約の件、受けれいてくれてありがたく思う。」
 侯爵家には皇帝の名代が訪れ、婚約申し入れの文書が読み上げられ、侯爵一家はそれを受諾していた。
「本来はこちらから義父上ちちうえにご挨拶に行くべきところ、警備の問題があり、ご足労いただくことになりました。」
 皇太子は婚約者の父に敬意を払った。
 クリスタはまだ戸惑っているが、このような気遣いをみせる皇太子に、侯爵は娘は大事にしてもらえるものと好ましく思った。

 クリスタはきっちり襟の詰まったブラウスを着ていた。袖にはシルクが流れるようにあしらわれ、優雅なクリスタの動きを引き立てていた。広がりを抑えた紺スカートも、昼間に皇室を挨拶に訪ねるのに、仰々しくなく、清楚であり、好ましかった。

 自分のものになるクリスタの体を、ほかの男たちの眼から守っているような装いにリオネルは満足した。昼のシンプルな装いにデビュタントで身に着けたエメラルドのイヤリングを唯一の装飾品としてつけているのも、自分のものという印をクリスタが受け入れたように思えた。

 両家の親たちを残し、皇太子はクリスタを誘い外に出た。椅子から立ち上がるクリスタの手をとり、自分の腕にクリスタの手を乗せさせた。
 ぎこちなく二人は皇帝一家の私的な庭を歩いた。少し離れて侍従が従いクリスタのために皇室の侍女の一人もついていた。庭のところどころに護衛もいた。高位貴族の家では使用人や護衛の眼が常にあるが、皇室ともなればなおのことであった。皇太子と二人きりではないことにクリスタはむしろほっとしていた。

 その庭は春の花々が咲き、低木の茂る飾らない場所でクリスタは緊張を緩めた。
「良い香り。刈り込まずに草木を自然に育てる、こんな庭の方が私、好きですわ。」
 クリスタの顔がほころんだ。

 久しぶりに見た無邪気なクリスタの笑顔。

「あら?もしかして、子どものころ、こちらで遊ばせていただいたかしら?」
「思い出してくれましたか?まだあなたがこの低木に隠れてしまうくらいの頃ですよ。かくれんぼをしました。姉も一緒でしたね。」
「目線が変わったせいかすぐに気づけませんでした!ここでかくれんぼができたのね!」
 成人しての再会でよそよそしかった二人が、幼馴染の気楽さに戻った。

「・・・クリスタ嬢、こちらへ」
 リオネルのいく方へついていくとバラの蔦のからまるアーチがあった。
「まあ、ここでしたら、今でも隠れられますわ!」
 バラのアーチは途中でカーブして続く、二人から距離をとって従う侍従と侍女や、庭に数人配された護衛たちの視界から逃れることができる。

 天井も壁も蔦の緑とバラに囲まれた空間。クリスタはリオネルの腕から手を放し、くるりと回って見渡した。完璧なふるまいを見せていたクリスタの無邪気なふるまい。今、自分だけが、淑女であるクリスタの無邪気な笑顔を見ている。リオネルはクリスタをこのままここにとどめておきたくなった。
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