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第一章 令嬢は皇太子に絡めとられる
8.皇太子の想い人
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「しかし、あなたはダンスがあまり好きではないようですね。幼い時はよく庭を駆け回って、体を動かすのは好きそうだったけれど。」
「申し訳ございません!まさか殿下と踊らせていただくことになるなんで・・・」
皇太子と踊る羽目になるなんてとでも言いたいのが本心だろうか。
デビュー前の令嬢たちは華やかな社交界に憧れて準備するものだとリオネルは心得ていた。知識を学ぶより、ダンスや楽器の演奏などに多くの時間を費やすものだと。皇太子である自分とダンスする機会を得られれば令嬢たちも夫人たちもみな顔を輝かせて応じる。
ことごとく、普通の令嬢とは異なるクリスタにリオネルはますます興味を引かれる。
話題がそれてクリスタは少しほっとしていた。
皇太子として、隙のないふるまいを身に着けたリオネルはダンスの名手であった。いかなる相手にも合わせてフォローできる。
音楽に合わせて必死で体を揺らすクリスタに合わせ、控えめにステップを踏む。
「無理にとは言わないが、今夜の私たちを見て、誰もがわたしの想い人があなただと知るでしょう。君に求婚しようという令息たちの勇気を折ることはできたかな。」
皇太子は自身がこんな風に女性を追い込むことになろうとは思っていなかった。クリスタに話している自分を自分ではないように感じていた。
茶会での2年ぶりの再会から、彼女のことが頭を離れなくなった。すぐにでも会いたいという気持ちが芽吹いていた。母の指摘に彼女を特別に思っているのをはっきり自覚した。
やっと今日を迎え、多くのデビュタントの中から、エメラルドを付けた彼女を見つけ、落ち着かない気持ちになった。一曲目を慣例の通り、今日デビューの公爵子息と手を取って踊っているのを見ている間、初めての嫉妬に支配され、割って入りたいのを抑えた。
目の前の彼女は混乱して、不安げに目を泳がせている。先日の茶会で完璧な淑女の姿を見せたクリスタが自分の言動に心を乱されている。今、彼女の頭の中はリオネルのことでいっぱいであろう。
自身の求婚をすぐに受け入れてもらえないもどかしさ、それでいて皇太子妃という座に飛びつかない慎み深さを好ましく思い、まだ公式に婚約者とはできないのに、ほかの男とダンスするのも許しがたい。クリスタの気持ちを尊重するといいながら、揃いの衣装で囲い込んだ。クリスタがこの婚姻を拒んでほかの男のところに嫁ぐことはどうしても耐えられそうにない。
ふたりの揃いのアクセサリーに気づいた周りがざわざわし、二人に注目しだした。
明日には皇都の貴族はみな、クリスタが皇太子妃に内定したと知るだろう。クリスタの気持ちにかかわらず。誰が皇太子の望む相手に近付けよう。リオネルは自身の皇太子という地位に感謝した。
曲が終わった。パートナー同士、頭を下げて挨拶を交わす。
リオネルがクリスタの手を取りそっと引き寄せクリスタの耳元に唇を近付けた。
「拒まないでほしい。私は拒まれることに慣れていないのだから。
しかし、だからこそ、私を拒むあなたにますます惹かれている。」
クリスタがびっくりしてリオネルの顔を見た。
リオネルは身をかがめてグローブ越しにクリスタの手に口付けた。射抜くような目線を上目遣いに送りながら。
「申し訳ございません!まさか殿下と踊らせていただくことになるなんで・・・」
皇太子と踊る羽目になるなんてとでも言いたいのが本心だろうか。
デビュー前の令嬢たちは華やかな社交界に憧れて準備するものだとリオネルは心得ていた。知識を学ぶより、ダンスや楽器の演奏などに多くの時間を費やすものだと。皇太子である自分とダンスする機会を得られれば令嬢たちも夫人たちもみな顔を輝かせて応じる。
ことごとく、普通の令嬢とは異なるクリスタにリオネルはますます興味を引かれる。
話題がそれてクリスタは少しほっとしていた。
皇太子として、隙のないふるまいを身に着けたリオネルはダンスの名手であった。いかなる相手にも合わせてフォローできる。
音楽に合わせて必死で体を揺らすクリスタに合わせ、控えめにステップを踏む。
「無理にとは言わないが、今夜の私たちを見て、誰もがわたしの想い人があなただと知るでしょう。君に求婚しようという令息たちの勇気を折ることはできたかな。」
皇太子は自身がこんな風に女性を追い込むことになろうとは思っていなかった。クリスタに話している自分を自分ではないように感じていた。
茶会での2年ぶりの再会から、彼女のことが頭を離れなくなった。すぐにでも会いたいという気持ちが芽吹いていた。母の指摘に彼女を特別に思っているのをはっきり自覚した。
やっと今日を迎え、多くのデビュタントの中から、エメラルドを付けた彼女を見つけ、落ち着かない気持ちになった。一曲目を慣例の通り、今日デビューの公爵子息と手を取って踊っているのを見ている間、初めての嫉妬に支配され、割って入りたいのを抑えた。
目の前の彼女は混乱して、不安げに目を泳がせている。先日の茶会で完璧な淑女の姿を見せたクリスタが自分の言動に心を乱されている。今、彼女の頭の中はリオネルのことでいっぱいであろう。
自身の求婚をすぐに受け入れてもらえないもどかしさ、それでいて皇太子妃という座に飛びつかない慎み深さを好ましく思い、まだ公式に婚約者とはできないのに、ほかの男とダンスするのも許しがたい。クリスタの気持ちを尊重するといいながら、揃いの衣装で囲い込んだ。クリスタがこの婚姻を拒んでほかの男のところに嫁ぐことはどうしても耐えられそうにない。
ふたりの揃いのアクセサリーに気づいた周りがざわざわし、二人に注目しだした。
明日には皇都の貴族はみな、クリスタが皇太子妃に内定したと知るだろう。クリスタの気持ちにかかわらず。誰が皇太子の望む相手に近付けよう。リオネルは自身の皇太子という地位に感謝した。
曲が終わった。パートナー同士、頭を下げて挨拶を交わす。
リオネルがクリスタの手を取りそっと引き寄せクリスタの耳元に唇を近付けた。
「拒まないでほしい。私は拒まれることに慣れていないのだから。
しかし、だからこそ、私を拒むあなたにますます惹かれている。」
クリスタがびっくりしてリオネルの顔を見た。
リオネルは身をかがめてグローブ越しにクリスタの手に口付けた。射抜くような目線を上目遣いに送りながら。
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