【R-18有】皇太子の執着と義兄の献身

絵夢子

文字の大きさ
上 下
7 / 76
第一章 令嬢は皇太子に絡めとられる

7.皇太子とのダンス

しおりを挟む
「次のダンスは私とぜひ。」
 そばにいれば、二人の揃いのアクセサリーに気づかれてしまう。クリスタは言葉に詰まった。心のなかで「あなたは気づかれていいの?」とクリスタは皇太子に問いかけていた。

「令嬢?」
「あ!失礼しました。喜んで!」
 皇太子からのダンスの申し込みを断れるはずもない。差し出された手を取った。
 顔を合わせられず、背の高い皇太子を見上げず、視線を胸元に置く。皇太子の目線が近距離から注がれていることに戸惑う。
 
 皇太子の襟元のレースはクリスタのドレスに使ったのと同じものだった。ドレスの準備に手を貸した、公爵夫人の手配だろう。大人たちに、いつの間にか囲まれていたようだ。今回のたくらみは皇太子も同意しているのだろうか、皇太子も今日のクリスタの衣装を見て驚いているのかもしれない。
 皇后にちょうど良い立場の結婚相手として勧められたのだろうか?それとも殿下が望まれていたのだろうか?でも先日皇后のところで顔を合わせるまでしばらく会っていなかった。クリスタはぐるぐると考えを巡らせた。

「クリスタ」
 ほかには聞こえない声の大きさで、皇太子は親しみを込めた呼び方をする。
 あわててクリスタは顔を上げる。
「エメラルドがよく似合っているよ。」
 目の前の皇太子の瞳の色は身に着けたエメラルドと同じ。
「あ、ありがとうございます・・・、皇后さまの特別のご配慮で・・・」
 つい、また目を伏せる。ダンスのために取り合った両手をふと見ると皇太子の袖口に覗くカフスボタンもエメラルドとダイヤで、クリスタのイヤリングと同じモチーフになっていることに気づいた、
 華やかな装飾品も明るい金髪の皇太子によく似合っている。

 皇太子が身をかがめてクリスタの耳に口を近付ける。
「私が、母上に協力いただいた。私が、あなたに、このエメラルドを付けて欲しかったのです。」
 ささやかれてクリスタは思わず皇太子の顔を見上げた。
「殿下・・・あの・・・」
 確認したいことはあるが、なんと言っていいのかわからない。確認してよいのだろうか、確認して事実にすることが怖い・・・

 音楽が始まった。クリスタの得意ではないダンスを皇太子が上手くリードしてくれる。
「あなたの気持ちを確認してから手続きを進めて侯爵に挨拶したいと思っていますが、父、皇帝陛下も了承済なのです。」
 いつの間にか自分の結婚について皇室が動いている。
「クリスタ、受け入れてくれるね?」
 皇太子は幼馴染の親し気な口調で尋ねた。
「あの・・・私、とてもお役目をはたせるとは・・・、公爵家にも皇太子さまにふさわしい令嬢がいらっしゃるかと・・・」
「他を進めるなんてひどいな」
 リオネルは笑って見せたものの、作り慣れた表情の裏で衝撃を受けていた。
 皇太子からの求婚、皇太子妃、皇后という未来をその場で拒んで見せるその位に誰よりもふさわしい令嬢。

 父のウィストリア侯爵は優れた外交官であり、自分の職務に忠実で、何よりも国益を優先して自分の利益は二の次の無欲で謙虚な男で、皇太子は数少ない尊敬すべき人物だと思っている。
 似た父娘だ。クリスタの落ち着いたブルネットの髪も、知的なブラウンの瞳も父親から受け継いでいる。

「今日デビューの公爵家の一人は私のいとこで血統が近すぎるし、もう一人は今の宰相の娘で、妃に迎えるとあの家門に力が偏りすぎてしまう。君の父上、ウィストリア侯爵殿は人望が厚いしね、なにより、あなたが皇太子妃にふさわしいと思うのです。」
 皇太子に見つめられ、ダンスを踊りながら、如何にして皇太子である自分から逃げようかと必死で頭を巡らせている今日デビューしたばかりの令嬢。
 皇太子妃という権力の座を手に入れられると知っても飛びつかない思慮深さ、慎ましさ。今日、肯定の返事をクリスタから引き出すことは難しそうだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...