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第一章 令嬢は皇太子に絡めとられる
7.皇太子とのダンス
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「次のダンスは私とぜひ。」
そばにいれば、二人の揃いのアクセサリーに気づかれてしまう。クリスタは言葉に詰まった。心のなかで「あなたは気づかれていいの?」とクリスタは皇太子に問いかけていた。
「令嬢?」
「あ!失礼しました。喜んで!」
皇太子からのダンスの申し込みを断れるはずもない。差し出された手を取った。
顔を合わせられず、背の高い皇太子を見上げず、視線を胸元に置く。皇太子の目線が近距離から注がれていることに戸惑う。
皇太子の襟元のレースはクリスタのドレスに使ったのと同じものだった。ドレスの準備に手を貸した、公爵夫人の手配だろう。大人たちに、いつの間にか囲まれていたようだ。今回のたくらみは皇太子も同意しているのだろうか、皇太子も今日のクリスタの衣装を見て驚いているのかもしれない。
皇后にちょうど良い立場の結婚相手として勧められたのだろうか?それとも殿下が望まれていたのだろうか?でも先日皇后のところで顔を合わせるまでしばらく会っていなかった。クリスタはぐるぐると考えを巡らせた。
「クリスタ」
ほかには聞こえない声の大きさで、皇太子は親しみを込めた呼び方をする。
あわててクリスタは顔を上げる。
「エメラルドがよく似合っているよ。」
目の前の皇太子の瞳の色は身に着けたエメラルドと同じ。
「あ、ありがとうございます・・・、皇后さまの特別のご配慮で・・・」
つい、また目を伏せる。ダンスのために取り合った両手をふと見ると皇太子の袖口に覗くカフスボタンもエメラルドとダイヤで、クリスタのイヤリングと同じモチーフになっていることに気づいた、
華やかな装飾品も明るい金髪の皇太子によく似合っている。
皇太子が身をかがめてクリスタの耳に口を近付ける。
「私が、母上に協力いただいた。私が、あなたに、このエメラルドを付けて欲しかったのです。」
ささやかれてクリスタは思わず皇太子の顔を見上げた。
「殿下・・・あの・・・」
確認したいことはあるが、なんと言っていいのかわからない。確認してよいのだろうか、確認して事実にすることが怖い・・・
音楽が始まった。クリスタの得意ではないダンスを皇太子が上手くリードしてくれる。
「あなたの気持ちを確認してから手続きを進めて侯爵に挨拶したいと思っていますが、父、皇帝陛下も了承済なのです。」
いつの間にか自分の結婚について皇室が動いている。
「クリスタ、受け入れてくれるね?」
皇太子は幼馴染の親し気な口調で尋ねた。
「あの・・・私、とてもお役目をはたせるとは・・・、公爵家にも皇太子さまにふさわしい令嬢がいらっしゃるかと・・・」
「他を進めるなんてひどいな」
リオネルは笑って見せたものの、作り慣れた表情の裏で衝撃を受けていた。
皇太子からの求婚、皇太子妃、皇后という未来をその場で拒んで見せるその位に誰よりもふさわしい令嬢。
父のウィストリア侯爵は優れた外交官であり、自分の職務に忠実で、何よりも国益を優先して自分の利益は二の次の無欲で謙虚な男で、皇太子は数少ない尊敬すべき人物だと思っている。
似た父娘だ。クリスタの落ち着いたブルネットの髪も、知的なブラウンの瞳も父親から受け継いでいる。
「今日デビューの公爵家の一人は私のいとこで血統が近すぎるし、もう一人は今の宰相の娘で、妃に迎えるとあの家門に力が偏りすぎてしまう。君の父上、ウィストリア侯爵殿は人望が厚いしね、なにより、あなたが皇太子妃にふさわしいと思うのです。」
皇太子に見つめられ、ダンスを踊りながら、如何にして皇太子である自分から逃げようかと必死で頭を巡らせている今日デビューしたばかりの令嬢。
皇太子妃という権力の座を手に入れられると知っても飛びつかない思慮深さ、慎ましさ。今日、肯定の返事をクリスタから引き出すことは難しそうだ。
そばにいれば、二人の揃いのアクセサリーに気づかれてしまう。クリスタは言葉に詰まった。心のなかで「あなたは気づかれていいの?」とクリスタは皇太子に問いかけていた。
「令嬢?」
「あ!失礼しました。喜んで!」
皇太子からのダンスの申し込みを断れるはずもない。差し出された手を取った。
顔を合わせられず、背の高い皇太子を見上げず、視線を胸元に置く。皇太子の目線が近距離から注がれていることに戸惑う。
皇太子の襟元のレースはクリスタのドレスに使ったのと同じものだった。ドレスの準備に手を貸した、公爵夫人の手配だろう。大人たちに、いつの間にか囲まれていたようだ。今回のたくらみは皇太子も同意しているのだろうか、皇太子も今日のクリスタの衣装を見て驚いているのかもしれない。
皇后にちょうど良い立場の結婚相手として勧められたのだろうか?それとも殿下が望まれていたのだろうか?でも先日皇后のところで顔を合わせるまでしばらく会っていなかった。クリスタはぐるぐると考えを巡らせた。
「クリスタ」
ほかには聞こえない声の大きさで、皇太子は親しみを込めた呼び方をする。
あわててクリスタは顔を上げる。
「エメラルドがよく似合っているよ。」
目の前の皇太子の瞳の色は身に着けたエメラルドと同じ。
「あ、ありがとうございます・・・、皇后さまの特別のご配慮で・・・」
つい、また目を伏せる。ダンスのために取り合った両手をふと見ると皇太子の袖口に覗くカフスボタンもエメラルドとダイヤで、クリスタのイヤリングと同じモチーフになっていることに気づいた、
華やかな装飾品も明るい金髪の皇太子によく似合っている。
皇太子が身をかがめてクリスタの耳に口を近付ける。
「私が、母上に協力いただいた。私が、あなたに、このエメラルドを付けて欲しかったのです。」
ささやかれてクリスタは思わず皇太子の顔を見上げた。
「殿下・・・あの・・・」
確認したいことはあるが、なんと言っていいのかわからない。確認してよいのだろうか、確認して事実にすることが怖い・・・
音楽が始まった。クリスタの得意ではないダンスを皇太子が上手くリードしてくれる。
「あなたの気持ちを確認してから手続きを進めて侯爵に挨拶したいと思っていますが、父、皇帝陛下も了承済なのです。」
いつの間にか自分の結婚について皇室が動いている。
「クリスタ、受け入れてくれるね?」
皇太子は幼馴染の親し気な口調で尋ねた。
「あの・・・私、とてもお役目をはたせるとは・・・、公爵家にも皇太子さまにふさわしい令嬢がいらっしゃるかと・・・」
「他を進めるなんてひどいな」
リオネルは笑って見せたものの、作り慣れた表情の裏で衝撃を受けていた。
皇太子からの求婚、皇太子妃、皇后という未来をその場で拒んで見せるその位に誰よりもふさわしい令嬢。
父のウィストリア侯爵は優れた外交官であり、自分の職務に忠実で、何よりも国益を優先して自分の利益は二の次の無欲で謙虚な男で、皇太子は数少ない尊敬すべき人物だと思っている。
似た父娘だ。クリスタの落ち着いたブルネットの髪も、知的なブラウンの瞳も父親から受け継いでいる。
「今日デビューの公爵家の一人は私のいとこで血統が近すぎるし、もう一人は今の宰相の娘で、妃に迎えるとあの家門に力が偏りすぎてしまう。君の父上、ウィストリア侯爵殿は人望が厚いしね、なにより、あなたが皇太子妃にふさわしいと思うのです。」
皇太子に見つめられ、ダンスを踊りながら、如何にして皇太子である自分から逃げようかと必死で頭を巡らせている今日デビューしたばかりの令嬢。
皇太子妃という権力の座を手に入れられると知っても飛びつかない思慮深さ、慎ましさ。今日、肯定の返事をクリスタから引き出すことは難しそうだ。
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