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第一章 令嬢は皇太子に絡めとられる
5.彼女の横に
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1時間ほどの茶会の後、侯爵家の母子は皇后と皇太子の元を辞した。
「クリスタ嬢は急に大人びたわね。もともときれいな子だったけど、完璧な身のこなしを身に着けて、両親に似て聡明で、謙虚で、清楚で。」
「はい、まるで別の令嬢のように感じます。少し、寂しいですね。」
息子の反応に皇后は扇で口元を隠して笑った。
「それは、女性として意識しだしたってことではなくて?」
「母上!」
誤魔化しながら、リオネルはクリスタにすぐにでもまた会いたいという気持ちがあるのを自覚していた。
「妃として、申し分ないでしょう?昨年デビューした子たちとは、ちっともその気にならなかったし、あなたの意思だって尊重したいのですよ。」
昨年デビューした中に皇太子妃候補となり得る家柄の令嬢がふたりいた。皇后に言われるがまま、デビュタントの後の舞踏会でダンスを申し込んだが、一人は異常に高慢な態度の公爵家令嬢で、もう一人の公爵家令嬢は胸元の大きくあいたドレスを好み、皇太子の言葉に大げさに反応して見せ、ダンス中はやたら体を擦り付けて媚びてきた。自分を気に入っているのかと思ったが次の曲では公爵家嫡子にも同様に体をすりつけ、耳元に口を近付けて話していた。それでいて下位貴族、男爵、子爵家の令息にはそっけない態度をとっているのが明らかであった。いずれも皇太子妃として、自分の側に置きたいとは思えなかった。
今日のクリスタはまとめた髪が大人びていて、首元までレースで覆われた禁欲的な衣装を着ていながら、女らしく華やいでいた。前回会った時は無邪気なかわいらしい妹のような少女だった。今日の美しい彼女になるまでの2年を見逃したことが悔やまれた。
皇后や自分の話を、時に質問もしながら熱心に聞き、時に見せる笑顔には、幼い時の面影があり愛らしかった。1時間ほどの応接室での時間は、皇太子にとって居心地の良いものであった。
「すぐに求婚者の対応で、侯爵家が忙しくなるわ」
母の言葉にリオネルの心がざわついた。
自分が彼女を皇太子妃としなければ、彼女は別の誰かの夫人となる。公爵家、侯爵家の未婚の嫡男たちの何人かの顔をリオネルは思い出した。彼らにエスコートされる彼女を見るのは嫌だと思った。
2年前と変わらず、義兄のビルヘルムが当たり前のように従っていた。茶会後、立ち上がるときは自然とビルヘルムが出した手をクリスタがつかんで立ち上がり、そのままビルヘルムの腕に手を置いて歩いて行った。すべてがあまりにも自然で当然のことというように。
小さな子供の頃のクリスタもよくビルヘルムと手をつないでいた。「兄さま、兄さま」と本当によくなついていたのを思い出した。今は、見事に洗練されたエスコートになっていた。
貴族の家庭事情はおおよそ把握している皇太子である。クリスタとビルヘルムが実の兄妹ではないことをリオネルは知っている。本当の妹ではないクリスタのために、自身の結婚を避け、侯爵家に残っているビルヘルムの気持ちは本当に兄としてのものなのだろうか。
自分に向けた淑女の顔から、砕けた笑顔でビルヘルムを見たクリスタを思い出した。
彼女をエスコートするのは自分でありたい。婚儀のあと、宮殿のバルコニーに二人で立ち、国民の祝福に応える自分たちの姿を思い浮かべた。彼女は控えめに、恥ずかしそうに笑うだろう。夫となった自分にあんなうちとけた笑顔を向けてくれたら・・・・
「クリスタ嬢は急に大人びたわね。もともときれいな子だったけど、完璧な身のこなしを身に着けて、両親に似て聡明で、謙虚で、清楚で。」
「はい、まるで別の令嬢のように感じます。少し、寂しいですね。」
息子の反応に皇后は扇で口元を隠して笑った。
「それは、女性として意識しだしたってことではなくて?」
「母上!」
誤魔化しながら、リオネルはクリスタにすぐにでもまた会いたいという気持ちがあるのを自覚していた。
「妃として、申し分ないでしょう?昨年デビューした子たちとは、ちっともその気にならなかったし、あなたの意思だって尊重したいのですよ。」
昨年デビューした中に皇太子妃候補となり得る家柄の令嬢がふたりいた。皇后に言われるがまま、デビュタントの後の舞踏会でダンスを申し込んだが、一人は異常に高慢な態度の公爵家令嬢で、もう一人の公爵家令嬢は胸元の大きくあいたドレスを好み、皇太子の言葉に大げさに反応して見せ、ダンス中はやたら体を擦り付けて媚びてきた。自分を気に入っているのかと思ったが次の曲では公爵家嫡子にも同様に体をすりつけ、耳元に口を近付けて話していた。それでいて下位貴族、男爵、子爵家の令息にはそっけない態度をとっているのが明らかであった。いずれも皇太子妃として、自分の側に置きたいとは思えなかった。
今日のクリスタはまとめた髪が大人びていて、首元までレースで覆われた禁欲的な衣装を着ていながら、女らしく華やいでいた。前回会った時は無邪気なかわいらしい妹のような少女だった。今日の美しい彼女になるまでの2年を見逃したことが悔やまれた。
皇后や自分の話を、時に質問もしながら熱心に聞き、時に見せる笑顔には、幼い時の面影があり愛らしかった。1時間ほどの応接室での時間は、皇太子にとって居心地の良いものであった。
「すぐに求婚者の対応で、侯爵家が忙しくなるわ」
母の言葉にリオネルの心がざわついた。
自分が彼女を皇太子妃としなければ、彼女は別の誰かの夫人となる。公爵家、侯爵家の未婚の嫡男たちの何人かの顔をリオネルは思い出した。彼らにエスコートされる彼女を見るのは嫌だと思った。
2年前と変わらず、義兄のビルヘルムが当たり前のように従っていた。茶会後、立ち上がるときは自然とビルヘルムが出した手をクリスタがつかんで立ち上がり、そのままビルヘルムの腕に手を置いて歩いて行った。すべてがあまりにも自然で当然のことというように。
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