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第一章 令嬢は皇太子に絡めとられる
4.皇太子リオネルとの再会
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宮廷の女官に案内された皇后の私的な応接室は、落ち着いた雰囲気だ。クリスタはここで今は近隣の国に嫁いだ4つ年上の皇女や皇子たちによく遊んでもらったものだ。
「いらっしゃい。ウィストリア侯爵夫人。」
皇后に続き、皇太子リオネルが現れた。
「ちょうど都合が合わせられまして、お邪魔させてください。」
「皇后さま、お招きありがとうございます。皇太子殿下、お久しぶりです。」
侯爵夫人に合わせ、クリスタはひざを折って身を低くしてあいさつした。
シンプルなドレスの質の良いシルクがゆったりと動く。
「まあ、クリスタ!すっかり素敵なレディになって!
今年のデビュタントでは一番の注目を浴びるわね。」
「皇后陛下には娘のデビュタントに特別にご配慮いただきありがとうございます。」
「身に余る光栄です。」
「ここではそんなに畏まらないで。あら、リオネルも見とれているの?子供のころから知っているクリスタじゃない」
「母上!やめてください。話しにくくなるじゃないですか!」
ふたりの母親が声をあけて笑った。
2年前に成人した皇太子は両親である皇帝夫妻の名代として各地を訪れ、書類仕事をこなし、社交の場に顔を出し、忙しい。デビュー前であるクリスタと顔を合わせることはなくなっていた。
会わない間に皇太子は背が伸び、少年から精悍な青年の顔付きになり、剣術のけいこで肩や胸回りは筋肉でたくましくなっていた。クリスタも大人の淑女としての優雅な動きを身に着けていた。
二年ぶりの再会は二人の関係を幼馴染の気楽なものからどこかよそよそしいものに変えてしまった。
「皇太子殿下、ご無沙汰しております。」
「今年のデビュー、楽しみにしています。今後は社交界で会う機会ができますね。ビルヘルム卿もお久しぶりです。」
ビルヘルムは静かに胸に手を当て頭を下げた。
クリスタ同様、皇后を訪ねる侯爵夫人とともに宮廷を訪れていたビルヘルムであるが、自分はあくまでも男爵家三男であり、クリスタの護衛として付き従っているつもりであった。皇女や皇太子とクリスタが遊んでいるときも、クリスタが求めれば相手を務めるものの、少し離れて見守っていたのがビルヘルムだった。この日も、皇太子と幼馴染としての打ち解けた挨拶をすることはなかった。
「そういえば、上のご子息、ギルバート卿はお子さんもいて、侯爵から子爵位はすでに継がれたのだったわね。ビルヘルム卿は?ご結婚は未だ?」
ビルヘルムは皇后が自身を話題にしたことに驚ろき言葉に詰まった。
ビルヘルムは自身は成人しながら、クリスタがデビューしていない社交界にはほとんど顔を出さないが、侯爵の補佐で宮廷内に出入りし、商談の場には顔を出すことも多い。継げる爵位がないが、養子とはいえ有力侯爵家の次男との縁を望む家は少なくなかった。裕福な商家や跡継ぎのない貴族の家から婿養子に望む声があった。
「いろいろお話はいただくのですが、本人がちっともその気にならなくて。まあ、クリスタの嫁ぎ先が決まれば安心して自分の相手を探してくれると思うのですよ。妹に過保護で」
侯爵夫人が替わって答え、クリスタは未だ兄に甘えている自分を暴かれたようで恥ずかしかった。ビルヘルムも居心地が悪い。
「まあ、妹思いなのですね。昔からいつも一緒でしたものね。」
皇后は微笑んだ。
クリスタがウフフと嬉しそうにビルヘルムを見た。一瞬、宮廷を訪ねる余所行きの顔から、無邪気に家族に見せる笑顔になった。兄が可愛がってくれるのがうれしくて仕方ないというように。
「いらっしゃい。ウィストリア侯爵夫人。」
皇后に続き、皇太子リオネルが現れた。
「ちょうど都合が合わせられまして、お邪魔させてください。」
「皇后さま、お招きありがとうございます。皇太子殿下、お久しぶりです。」
侯爵夫人に合わせ、クリスタはひざを折って身を低くしてあいさつした。
シンプルなドレスの質の良いシルクがゆったりと動く。
「まあ、クリスタ!すっかり素敵なレディになって!
今年のデビュタントでは一番の注目を浴びるわね。」
「皇后陛下には娘のデビュタントに特別にご配慮いただきありがとうございます。」
「身に余る光栄です。」
「ここではそんなに畏まらないで。あら、リオネルも見とれているの?子供のころから知っているクリスタじゃない」
「母上!やめてください。話しにくくなるじゃないですか!」
ふたりの母親が声をあけて笑った。
2年前に成人した皇太子は両親である皇帝夫妻の名代として各地を訪れ、書類仕事をこなし、社交の場に顔を出し、忙しい。デビュー前であるクリスタと顔を合わせることはなくなっていた。
会わない間に皇太子は背が伸び、少年から精悍な青年の顔付きになり、剣術のけいこで肩や胸回りは筋肉でたくましくなっていた。クリスタも大人の淑女としての優雅な動きを身に着けていた。
二年ぶりの再会は二人の関係を幼馴染の気楽なものからどこかよそよそしいものに変えてしまった。
「皇太子殿下、ご無沙汰しております。」
「今年のデビュー、楽しみにしています。今後は社交界で会う機会ができますね。ビルヘルム卿もお久しぶりです。」
ビルヘルムは静かに胸に手を当て頭を下げた。
クリスタ同様、皇后を訪ねる侯爵夫人とともに宮廷を訪れていたビルヘルムであるが、自分はあくまでも男爵家三男であり、クリスタの護衛として付き従っているつもりであった。皇女や皇太子とクリスタが遊んでいるときも、クリスタが求めれば相手を務めるものの、少し離れて見守っていたのがビルヘルムだった。この日も、皇太子と幼馴染としての打ち解けた挨拶をすることはなかった。
「そういえば、上のご子息、ギルバート卿はお子さんもいて、侯爵から子爵位はすでに継がれたのだったわね。ビルヘルム卿は?ご結婚は未だ?」
ビルヘルムは皇后が自身を話題にしたことに驚ろき言葉に詰まった。
ビルヘルムは自身は成人しながら、クリスタがデビューしていない社交界にはほとんど顔を出さないが、侯爵の補佐で宮廷内に出入りし、商談の場には顔を出すことも多い。継げる爵位がないが、養子とはいえ有力侯爵家の次男との縁を望む家は少なくなかった。裕福な商家や跡継ぎのない貴族の家から婿養子に望む声があった。
「いろいろお話はいただくのですが、本人がちっともその気にならなくて。まあ、クリスタの嫁ぎ先が決まれば安心して自分の相手を探してくれると思うのですよ。妹に過保護で」
侯爵夫人が替わって答え、クリスタは未だ兄に甘えている自分を暴かれたようで恥ずかしかった。ビルヘルムも居心地が悪い。
「まあ、妹思いなのですね。昔からいつも一緒でしたものね。」
皇后は微笑んだ。
クリスタがウフフと嬉しそうにビルヘルムを見た。一瞬、宮廷を訪ねる余所行きの顔から、無邪気に家族に見せる笑顔になった。兄が可愛がってくれるのがうれしくて仕方ないというように。
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