【R-18有】皇太子の執着と義兄の献身

絵夢子

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第一章 令嬢は皇太子に絡めとられる

1.社交シーズンの始まり

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 春の皇都は、各領地から集まった貴族たちで賑わっていた。

 毎年の社交シーズン初めの光景であるが、領地では手に入らない流行のアクセサリーや衣類を求め、高級店の集まるストリートはいつもよりも多くの馬車が行き交い、春の花の飾られる中を色とりどりの衣装が躍っている。商人たちは高位貴族の邸宅から邸宅へ高級品を抱えて渡り歩く。

 こと、このシーズンに社交界デビューを迎える令嬢をもつ家族の準備は念入りである。結婚市場に娘を売り出す一族にとっては重大なイベントであり、令嬢たちはそのデビューと共に他家の子息たちに値踏みされ、引き取り先を決めて行く。
 良い縁は一族の利益となり、自身で財産を継ぐことも稼ぐこともできない令嬢たちにとっては、父親に代わる庇護者となる夫を得て、その家に跡継ぎをもたらすことが安定した生活を保障されるためにどうしても必要であった。
 娘をもつ家は、礼法、ダンス、教養を娘たちに叩き込ませ、幼いころからほっそりとした体形を保たせるために食事を制限し、美しい肌を保つために陽を避け、令息たちに望まれる可憐な令嬢を育て上げる。
 
 ウィストリア侯爵家でも令嬢、クリスタの社交界デビューに向けて誰もがそわそわしていた。
 侯爵は外務大臣を務めており、領地は嫡男のギルバードに任せ、夫人とクリスタはともに普段から皇都で暮らしている。
 冬のうちから、ドレスメイカーを邸宅に呼び、何着ものドレスを作り、代々伝わる宝飾品を手入れに出し、訪問者のために新しい茶器や異国から取り寄せた茶葉、銀食器を用意した。

 侯爵夫人は侯爵との結婚前、現皇后、当時の皇太子妃の侍女として宮廷に上がっていた。
 公爵家から未来の皇后として宮廷に嫁ぎ、絶えず人々の注目の的となった若き皇太子妃の相談相手として支えた侯爵夫人と皇后との友情は今でも続き、たびたび皇后からお茶に呼ばれる仲である。

 私的なお茶会にはそれぞれの子女たちも一緒に参加することもあり、クリスタも皇后にかわいがられた。その縁から、皇后が間に立ち、クリスタの社交界デビューの付き添い人として、皇后の実家であるブルボア公爵家の夫人、自身の兄嫁を世話してくれた。クリスタのデビューは皇后の助けで特別なものとなった。

 社交シーズンの初め、花の咲き誇る美しい宮廷で、その年成人を迎え社交界デビューする貴族の令嬢たちはデビュタントと呼ばれる場で皇后のから祝福を受ける。そこには既婚の女性が付添人となり母親とともに社交界でのマナーを教え、令嬢の後ろ盾として付き添う。令嬢たちはこの付添人により家門の人脈をアピールすることができる。

 皇后自ら特定の令嬢の付添人となることはできないが自身の代わりに義姉をこの付添人として世話したのである。これは明確に皇后のお墨付きとして公言されたに等しく、クリスタのデビューが注目されることは確実であった。
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