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最初のはじまり
幸せはつかの間
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度重なる悪行、その邪悪な性質は、レイチェルの魂をミランダの魂にふさわしい器に矯正するような毎日。
ミランダの邪悪な悪意に満ちた心を拒み拒絶していたレイチェルだが、日に日にその嫌悪感は快楽となりミランダの魂との同化を望むようになっていた。
それがレイチェルの意志としてではなくミランダの意志だったとしても。もはやレイチェルは限りなくミランダになりかけていた。そして、ある日のこと。
レイチェルが召喚した異世界人に命令する。
「異世界人。あなたに役目を与えてあげるわ!」
異世界人は突然のレイチェルの発言に困惑した。
「なんでだよ!」
しかし、レイチェルは異世界人に容赦しない。
「あなたを奴隷にして、ボロ雑巾になるまで使い潰して、最後には殺してやるわ!」
突如レイチェルからの死刑宣告。世間には、悪役令嬢がかわいそうだとか言っている人もいるが、ほんとにそうだろうか?
「そ、そんなぁ!」
絶望する異世界人にムチを振るレイチェル。
「アハハハハハハ!」
ムチを打たれた異世界人は悲鳴を上げる。
「ぎゃぁああああ!」
すると、異世界人が何かを落とす。
「ふぅ、ん?これは?」
「そ、それは…!」
「あら~、きれいなペンダント。」
レイチェルは落ちたペンダントに興味を示す。
「ためろ!それは妹の!」
異世界人はペンダントを守ろうとする。しかし。
「ジャマ。」
「ぐはっ!」
異世界人はレイチェルに蹴られる。
レイチェルはペンダントを拾い品定めをする。
「ふぅ~ん。」
異世界人はレイチェルに返してもらうよう懇願する。
「か、かえして……!!」
レイチェルは異世界人に質問する。
「ねえ、妹さん、どうなったの?」
苦し紛れに口を動かす異世界人。
「死んだ…不意な事故で…。」
すると、レイチェルは嬉しそうにする。
「そう!なら、あなたには不要ね?」
レイチェルの理不尽な言葉に異世界人は動揺する。
「え?」
それから憎しみと怒りが爆発し、異世界人は怒る。
「クソッタレが!オレのいた世界でも!どうして世間はこんな悪人をかばうんだぁ!」
するとレイチェルが躊躇ないセリフを吐く。
「ダマレ、ゴミクズ」
異世界人は自分の体に違和感を覚える。冷たくて鋭い何かが。
胸には冷たい金属の刃がささり、そこから赤い血がこぼれていた。「ガハッ!?」
レイチェルは異世界人の首を持ち持ち上げ、耳元で囁く。
「あなたはもう用済みよ。」
「お、おまえ……。」
「バイバイ。」
「ま……」
そして、レイチェルはナイフを抜き取る。
「あ、あ、あ。」
異世界人は倒れ込み、動かなくなる。
「あーあ、汚れちゃった。」
レイチェルはペンダントを地面に落とし、踏みつける。
こうして、レイチェルの悪行は続く。
レイチェルの悪事はエスカレートする。レイチェルの手により不幸になったものの少数派は、いくら国王に訴えても、相手にされずそれどころか民衆にもなぜか恨まれ憎しみの的にされる。さらに、レイチェルは召喚した異世界人を奴隷のように扱い、こき使った。
異世界人はレイチェルを憎みながらも、逆らえず言われるがままであり、飽きたら捨てられる。レイチェルは火種の問題をきっちり処分しているため、生き残った異世界人はいない。用済みになれば死ぬ。
「あなたの世界の国は少子化で悲惨なのよね?」
「きっとトラックにひかれれば天国のような世界に行けると信じてるんだ!」
「迷惑なこと。でも、生まれ変わりが本当なら死んでいったミジンコの数は?」
「へ?」
「きっとあなたやその仲間たちもきっと、わざとトラックにひかれて、いきついた世界は、今もそちらの世界で人口が増え続けている発展途上国ではないの?」
レイチェルは続けて話す。
「生まれたとたんに手足を親に切り捨てられて、道端に置かれ、お金の恵みの置台にされるの。そして死んだら次の子を。それ以外はゴミの山をあさり、ゴミが崩れて下敷きになるの。あなたは永遠の負け組。元の世界でもクズ。どこに行ってもクズ。」
「うるさい!お前に何がわかる!」
「わかるわ。だってあなた、無職だもの。」
「う!」
「それに、あなたは、わたしが殺した異世界人と同じ。生きる価値のない、クズの負け犬。」
「ちがう!」
「なにが?」
「う!」
「ほら、何も言えないじゃない?あなたたち異世界人は、みんなそう。自分の都合しか考えず、勝手に気に入った女を鎖につなげて、邪魔になれば殺す。」
「それは……。」
「そうやって、今まで多くの異世界人がたくさんの人を殺してきたの。」
「それは……。き、キミもおんなじじゃないかぁ!」
異世界人はレイチェルに抗議する。しかし、レイチェルの鋭い威圧に異世界人はビビる。
「はぁ?」
「…う。」
「バツとして鞭打ち十回。」
「う、うわぁああああああ!」
ムチが肉に当たる音が響く。
次は異世界に目覚めた女性だった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
レイチェルは、発狂してよろこぶ。
「ああ、いいわぁ!その悲鳴!絶望の叫び声!素晴らしいわ!」
レイチェルが異世界人の召喚に飽きて、とある館の処理が落ち着く。そう。地下はたくさんの人骨で転がっていた。
後処理をしていた館の使用人は安堵していた。
「チッ!つかえないゴミね!」
人骨にヤジを飛ばす使用人。彼女たちに心はないのか?いや、その世界からきた人も少なからず、どの世界にも異常と違和感を感じていただろう。
殺人鬼をかばったり、レイプ犯をかばったりする謎の力。悪人を許すことこそが正義だという謎の力がこうも世界を狂わせたのだろう。
そして…。
レイチェルは鏡の前に立ち、自分の姿にコンプレックスを抱いていた。それは、自分よりも容姿が優れている女性を見ると殺してやりたい衝動に駆られるからだ。
「どいつもこいつも、わたしより美しいなんて許せない!どうしようかしら…」
レイチェルはとある教会のシスターに敵対心を燃やしていた。
「くふっ…ふふふふふ…。」
レイチェルは奇妙に笑う。またなにか恐ろしいことを考え付いたのだろう。
レイチェルは邪悪に満ちた目をしながら、準備をする。
夜の教会。最後の戸締りで夜の番を務めている一人のシスターが教会を徘徊しているところ。
金髪ロングの青灼眼の女性は、扉の鍵を閉める。すると、反対側から鍵をかけられる音がした。
振り返ると謎の貴族の女性がいる。レイチェルだ。
こんな夜中に何か用かと尋ねるシスター。
「遅くに何か用ですか?」
するとレイチェルは黒い笑みを浮かべて答える。
「ええ。ちょっとね。」
レイチェルは腰に短剣を隠しており、シスターの命を狙っていた。
「あなたがこの教会のシスターセリシアね。」
「はい。そうですけど……。」
「あなたが悪いのよ。わたしより美しいあなたが…だから…」
レイチェルは躊躇なく短剣を取り出して、刺そうとする。しかし、金属のはじく音が響く。
レイチェルは一瞬なにが起こったのか理解できない。
レチェルの持つ短剣は何か強い力で吹き飛ばされたのだ!
「え?」
レイチェルは驚く。手を滑らせたのではない。明らかに何かの力がレイチェルの握っている短剣を叩き飛ばしたのだ!
シスターセリシアは余裕の態度を見せる。
「おやおや、狙いはわたしの命でしたのね、でも残念。あなたは終わり。」
シスターセリシアはレイチェルに近づき容赦なくレイチェルを床にたおす。
「キャア!?」
悲鳴をあげるレイチェル。
「くくく……。」
「なんの真似です!」
「あなたを利用させていただきます。貴族というのは昔から宗教と深くかかわっていました。この領地でもあなたの力は我々に大きくかかわっています。わたしが嫉妬するくらい。あなたを消そうとも考えました。しかし、そんなことをしたら、我々の教会の力は弱まる。それでは意味がない。少し前に大司教様から指示がありまして、この地の管理者をこちらの側に迎え入れなさいと。でも、敵対的なあなたをこちらに誘い込むのは難しいでしょう。そこで、念のために大司教様から奥の手を授かっております。」
シスターは不気味な笑みを浮かべ、レイチェルの耳元でささやく。
「あなたの姿をもらうわ」
シスターの瞳孔が開く。
「い、嫌!」
「大丈夫よ。すぐに終わるわ。」
「誰か!助けて!」
レイチェルは叫ぶが誰も来ない。
「無駄よ。ここは誰もいない。さあ、あなたがわたしのものになれば、あなたの魂は永遠にこの世にとどまることができる。」
「い、嫌!むぐっ!」
レイチェルはシスターにキスをされて口をふさがれる。
「むぐっ!ぷはっ!なにをするの!」
レイチェルが訴えると、レイチェルは自分の体に異変を感じる。
(からだが…うごかない…!)
シスターはレイチェルを眺めにやける。
「麻痺毒が効いたようね。」
「ひぃ!」
シスターは欲望に任せ、彼女の体をさわる。
「ぐぅ!」
「わたしがあなたになれば、我々の力はさらに高まる。」
「い、嫌!」
「あなたには感謝しているの。あなたのおかげで、私以上の力を持つ人間を消せたわ。」
「わ、わた、しは……。」
「あなたをわたしにしてあげるわ。」
そう言ってシスターはドレスを脱ぎ、レイチェルを裸にしてベッドに連れ込んだ。「うう!」
「あなたがわたしになるのよ!」
「やめなさい!やめて!」
「宗教にも金が必要なのレイチェル、今日から私があなたになるわ」
シスターは抵抗するレイチェルを拘束し、そしてレイチェルに自分の体をこすりつけ始めた。
「うう!」
「これで、あなたはわたしになるのよ。」
「いや、やめて…」
シスターは抵抗するレイチェルを拘束する。そしてレイチェルに自分の体をこすりつけ始めた。
「ふふ……。いいじゃない。気持ちよくなるのは悪いことじゃないのよ。」
「いや……!」
「ふふふ……。」
シスターは満足そうに笑い、さらに激しくレイチェルに抱きつく。
「もっと声を出していいわよ。」
「うぐう!」
「ふふふふふ。」
シスターは興奮して息が荒くなり狂ったように笑い続け、シスターは快楽の声を上げる。
「ハァ、ハァ、」
「うう……!」
「フゥ、ンフッ、」
「ううー!」
「うう、ウウン!」
「ああああああ!」
「ああ……!私の中に入ってくる……!混ざり合って一つになる……!ああ……!」
レイチェルは壁にかけている鏡を見て驚く。なんと半身ぐらいがシスターと本当に混ざっていたのだ!
「ああ!まじわっていくわ…わたしとあなたが、境目なく溶けていくのを。」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
レイチェルの絶叫が響く。
「くく……。もうすぐで完全にひとつになれるわね……。」
シスターはそう言いながら自分の胸に手を当てて、レイチェルに言う。
「感じる…鼓動が高くなっているのが…、指先まで感覚を感じる…。汗をかきだしているのも…。」
「い、嫌!これ以上わたしを奪わないでぇ!」
「くく……。もう遅いわ。」
「お願い!何でもしますから!どうか、私の体だけは返して!」
レイチェルは涙ながらに懇願するが。
「なんでも?それじゃぁ、わたしのすべてを受け入れなさい!あなたに神のすばらしさを教えてあげるわ!」
「そ、そんな!」
「大丈夫よ。すぐに終わるから。」
「嫌ァ!」
レイチェルは泣き叫ぶがシスターは無視をして、再びレイチェルと融合しようとする。
「いやぁああああ!あああ……うわぁあああ………」
シスターはレイチェルの心とまじわり境目がなくなりかけている。
「こ…これは…!わたし…の…記憶?…違う…。違わない。うぁぁ…ほしい…貴族の地位が…。シスターの姿が…!」
「アアアアアア!!!」
レイチェルの悲鳴は教会中に響いた。
そして彼女の頭の中でまるで洗脳のような暗示が脳裏で響く。
(わたしがシスターで、あなたがレイチェルで、レイチェルがシスターで、シスターがレイチェルで、わたしがシスターで、シスターがレイチェルで、わたしがシスターで、シスターがレイチェルで、レイチェルがシスターで…)
暗闇の部屋で倒れている一人の女性。シスターのセリシアの姿がない。
レイチェルは虚ろな目をしたままぶつぶつ言っている。
彼女はレイチェルの記憶を手に入れたことで、レイチェルになり、レイチェルになったことで、シスターになった。
「私の名前は、レイチェル…・ルミエール。わたし…は…。」
彼女こそ、本物の悪令嬢である。
しかし、彼女の魂はレイチェルと混ざり合い、もはやレイチェル本人とも言える存在になっていた。
彼女は鏡に写る自分を見てたずねる。
「私は、私は誰?」
レイチェルは起き上がると自分の手を見つめる。
「私は、私は誰?私は……私は……私は……、私はシスター・レイチェル、神に仕える者。」
レイチェルは、自分の体を確かめるように両手を見つめる。
「ああ……そうです。私がシスター・レイチェル。神の愛を伝えるもの。」
レイチェルは、自分の胸元に手を当てる。
「そう、私は、私の肉体は、シスター・レイチェル。神から与えられた肉体。」
しばらく鏡を眺めていたレイチェルだが…不意に口角を吊り上げる。
「そう、わたしはこの地の領主レイチェルであり、この教会のシスターセリシア…。」
「さて、やることが二つできたわ。領主の仕事と教会の仕事。くっ!うわああああ…。」
シスター・レイチェルは、肉と骨がきしむ音を立てる。
「ああ…、はあ…。」
シスターは、息切れをしながら言う。
「ああ……すごい……これが……神の御業……。」
シスターは両手を広げ天を見上げ、満面の笑みで言う。
「ああ……神様ありがとうございます。」
シスターレイチェルは、鏡を見て手を頬に当て自分の顔を確認する。
「美しい……。」
シスターレイチェルは、レイチェルの顔を手に入れ、シスターの姿をしていたときよりも美しくなっていた。
「くく……うふふ……。」
シスターレイチェルは笑い出す。
「ああ…なんてすばらしいのかしら。わたしの望んでいた貴族生活とシスターの姿が、私のモノに」
シスターレイチェルは自分の体を抱きしめる。
「神よ、愛の祝福に感謝します」
そう言ってシスターレイチェルは祈りを捧げる。
そして、シスターレイチェルは、部屋を出ると、廊下を歩きながら自分の手を見つめてつぶやく。
「ああ……、素晴らしいわ。こんなにも体が軽い。」
シスターレイチェルは、自分の胸元に手を当てて呟く。
「これが貴族の肉体。」
シスターレイチェルは、階段を下ると、食堂に入る。そこには一人の男が座っていた。
「おや?どうしたんだい?シスター。食事かい?」
その男はシスターレイチェルを見ると、微笑みかける。
「成功したな。」
そう言った男の名は、レイヴン。この教会の男。
「ええ、無事終わったわ。」
「そうか。」
シスターレイチェルは、椅子に座って食事をする。
「これからは、お前がレイチェルになりすまし、我々に可能な限り援助しろ。」
「わかったわ。」
シスターレイチェルはそう言うとスープを口にする。
「くく……、さっき声が聞こえたぞ?わかってはいるが。」
「うるさいわね。」
「まあいい……。神の意志を遂行するのだシスターセリシア。」
「任せておいて……。」
そう言うと、シスターレイチェルは笑った。
彼女は先ほど取り込んだレイチェルの残した服に着替え、待ち合わせていたレイチェルの帰りを近くで待っている馬車の男に接触する。
「出しなさい。」
「ああ…レイチェルさま…遅かったから失敗したんじゃないのかと思ったぞ?」
「おいていったら殺すわよ。」
「もともと、オレをこんな役目に強引にしたのはアンタだろ?」
「今、死にたいの?」
「ひぃ…わかりました…。」
彼女は、王都の城にいた。そして彼女の瞳には野心がこもっていた。
「すべては神のため…我らの教えのため…。」
シスターセリシア、今の名をレイチェルは、城から街を見下ろしていた。
「さぁ、始めるわ。神が本当の支配者になるの……。」
レイチェルは、不敵な笑みを浮かべていた。
翌日、レイチェルは個人的なことで宗教に興味があるという盲目で大司教に会いに行っていた。
レイチェルは大司教のお膳で膝をつき、頭を垂れる。
「セリシア、神からの意志だ。お前のできる範囲でそのレイチェルとかいう貴族の力を利用して、可能な限り献金して、この地を乗っ取るのだ。この地の領民には、我々の教えを生活基準で行わせ義務にするのだ。」
「はい、かしこまりました。」
「そして最後に、もしもこの国と戦争になったときは、その貴族を殺してくれ。このことは他言無用だ。この秘密を知るのは、私とレイヴンとお前だけだ。」
「承知しました。アーメン」
シスターセリシアは神とやらのためならなんでもする狂信者だ。
このおかしなやり取りに疑問を抱かないシスターセリシアは、レイチェルの姿で暗躍する。
そして月日が流れ、レイチェルの領地は着実に宗教に染められていた。
異を唱える者は、容赦なく弾圧し支配する。現実世界の昔のヨーロッパの歴史をただよわせるものだった。
レイチェルの権力であらかた役目を務めているセリシアは、夜中の教会に戻り自分の部屋に入る。
レイチェルは月の明かりが窓からのぞく暗くも少し明るい部屋で自分のドレスを取り出し着替える。
そして。
「んんんん……うう…ぁぁ…。」
レイチェルの肉体に変化が起こる。ゆっくりと変化して髪の色も変色する。
そこには先ほどレイチェルを取り込んだセリシアの姿が。
「ふぅ……」
セリシアは、鏡を見る。
「美しいわ。わたしって本当に美しいわね。でも……わたしじゃないみたい……。」
そう言いながら鏡の中の自分を見てつぶやく。
セリシアはレイチェルの顔の特徴を引き継ぎ、いいとこばかりだった。
「あはは……あはははははは……。」
セリシアは笑い出す。
「さて、次の段階に進まないと……。」
そう言ってセリシアは、自分の部屋を出て礼拝堂に向かう。
祈りを終えると、席にいつの間にいたのかレイヴンという男が声をかける。
「セリシア。レイチェルとしての生活はどうだい」
「順調よ。」
「そいつはよかった。」
「それより、例のモノは用意できた?」
「ああ、もちろんだとも。」
「そう、じゃああとは計画通りに。」
「わかっているとも。」
レイヴンとセリシアが会話をしている最中に突如、謎の笑い声が礼拝堂に響く。
「フフフフフ…」
突然の出来事にセリシアとレイヴンは驚き、セリシアは聞く。
「誰!?」
月明かりが照らす謎の黒い影。コウモリのような翼と角。それは悪魔だった。
「はじめまして、私は魔界からやってきた魔族の一人。あなた達の魂をいただきに来ました…」
レイヴンは思わず驚く。
「なに!?」
「まずはそこのレイヴンとかいう人」
なんということか、距離はあっという間に詰められる。
「くっ!死ね!悪魔!」
レイヴンは短剣を取り出すが…。
「チャーム(魅了)」
しかし、レイヴンは悪魔に斬りかかる。
悪魔は驚いていた。
「なに?!きかない?」
悪魔の魔術をものとしないレイヴンは得意げに言う。
「わたしには通用しないぞ!」
「くっ!」
悪魔は少し戸惑う。
(やはり警戒している相手にはきかないみたいね…。少し気を抜いていたわ…)
レイヴンはかまえる。
「さあどうする悪魔!」
レイヴンは悪魔の行動をうかがう。すると悪魔はレイヴンに人差し指の指先を向ける。
「動かないでね」
「は?」
レイヴンは悪魔に指図される筋合いはないため首をかしげる。
すると、悪魔の指先から禍々しい赤白いピンク色の光線が放たれた!
思わぬ展開と出来事で、対応に遅れたレイヴンは撃ち抜かれてしまう。
「!!」
レイヴンは吹っ飛び床に倒れる。セリシアはレイヴンを助けようとレイヴンに駆け寄る。
「レイヴン!」
すると、そのセリシアに悪魔が声をかける。
「無駄よ、レイヴンは目を覚まさない。私が直接起こさない限りね」
「くっ!」
セリシアは冷や汗をかき身を構え悪魔に問いかける。
「あなたは…何者なの!」
すると悪魔は笑みを浮かべて答える。
「私の名はメルヴィーナ・メフィストフェレス。魔王サタン様の忠実な下僕であり、四天王の一人。サタン様から授かった私の役目は、人間どもの監視と潜入。この地の領主は宗教にも深くかかわっているそうで、この地の情報を手に入れるなら、この教会の人間としてもぐりこんだ方が都合がいい。シスターセリシア、あなたの体を乗っ取らせて頂くわ。」
「なっ!」
セリシアは驚く。
メルヴィーナは武器を持たないセリシアに言う。
「フッ、何も持っていないあなたに何もできることはないわ。次はわたしの番ね。」
セリシアは動揺する。急な接近!人間業とは思えない速度で一瞬にしてセリシアと間合いを詰めた悪魔はその爪でセリシアを切り裂く。
セリシアの体に切り傷ができる。
「ぁぁぁぁ!!!」
あまりの痛さに悲鳴を上げるセリシア。
「さようなら、シスターセリシア。」
メルヴィーナはセリシアの前に移動し、体制を低くし、セリシアの表情をうかがうように座る。
「う……ぐ……」
メルヴィーナは、苦しむセリシアの耳元にささやくように話す。
「安心しなさい、今は嫌でもすぐに気分がよくなるわ。さあ、私の愛を受け入れなさい!」
メルヴィーナはセリシアに先ほどつけた傷に指先を入れ、体の中に入り込もうとする。
「ひぃ……!」
セリシアは驚く。自分の傷口に少女の悪魔が入り込もうとしているのだ!
しかし、メルヴィーナは異変に気付く。
「ん?入れない?」
「いやああああああ」
絶叫するセリシア。セリシアはメルヴィーナの頬に手をふる。
頬を叩かれたメルヴィーナの頬は、赤くなっていた。
「いたいねぇ…今のはクリティカルヒットよ」
気分を悪くしたメルヴィーナはセリシアの頬に仕返しで叩く。
メルヴィーナの与えるビンタも強烈だ。セリシアは痛みに目を閉じ顔を下げる。
「フッ、対策していたのね」
「……。」
「しかたない、さっきの男の体を乗っ取って、裸で町々を走るのも悪くないわ。あなたの教会の教えが大変なことになるけど」
メルヴィーナがそういうと、レイヴンに近づき、レイヴンの顔を持ち上げレイヴンの口を広げる。
「はぁぁぁぁ………」
メルヴィーナは口からどす黒い煙を出しレイヴンに入れようとした!するとセリシアが叫ぶ!
「待って!」
メルヴィーナはセリシアに聞く。
「なに?」
セリシアは苦い顔をしていう。
「ください…。わたしにあなたの愛を…。」
メルヴィーナはセリシアの表情を見て答える。
「よろしい。それじゃぁまずは、あなたが自分を守っている結界に私を入れること認めなさい。さあ。」
メルヴィーナはセリシアの前に移動する。メルヴィーナの言葉にセリシアは息をのむ。
「神に誓い…メルヴィーナさまの愛の証を認めます。ください…わたしにあなたの愛を…」
「上出来よ」
メルヴィーナはセリシアを抱きしめる。
なにが起こるのかわからず、眺めるセリシア。すると、異変が起こる!
セリシアにくっついているメルヴィーナがゆっくりと、セリシアに溶けていくようにセリシアのカラダに入る。
「ぐっ…!……ぁっ……!」
苦しみを感じたセリシアは、メルヴィーナを引きはがそうとするが、時はおそくメルヴィーナの姿は、セリシアのカラダに半分溶けている。メルヴィーナの姿は消える。
そして、異変が終わったセリシアは冷静に腹を抱えた両手をおろす。
すると、セリシアの体は真っ黒に染まっていく。暗黒の闇がセリシアを包む。ドロッとしたいかにも命を奪いそうな感じの闇はセリシアを包みその力は強大で瞬く間にそれは飲み込んだ。
セリシアは黒い霧に包まれていき、その姿が見えなくなる。
全身を黒く染め、その霧が晴れる。
どす黒い闇は消え、一人の女性が瞳を閉じ宙から落りる。
しばらく瞳を閉じているその美女は、静かにゆっくりと目を開ける。
ホワイトブロンドの髪と悪魔の角、透き通った青い瞳と悪魔の翼を持つ美女が現れた。
一見セリシアにしか見えないが、顔は、メルヴィーナがセリシアの特徴を受け継いだような、もしくはメルヴィーナが髪を伸ばし大人になったような、メルヴィーナの面影があるセリシアの顔つきだ。
修道女の服を着ているが、悪魔のような翼を生やし、頭に角をはやした女性だ。その姿は、悪魔にも聖女にも見える。
メルヴィーナは、教会の鏡の前に立ち、月明かりで自分の姿を見る。
その姿はどう見ても先ほど融合されたセリシアにも見えるが成人になったメルヴィーナにも見える。いや、先ほど犠牲になった者たちのいい特徴だけをもらったようなより美しい姿になっていた。
「うーん…なかなかいいわね…感じる…私の中に……私の中が満たされていくのがわかる……シスターセリシアの力が…素晴らしい……この身から込み上がる力が……この力があれば……私は……神に……」
メルヴィーナは自分の両手を見て、己の身から込み上がる魔力と力を実感した。
メルヴィーナは、シスターの記憶と力と姿をすべて手に入れた。
「さて、早速サタン様に報告に行きましょうか」
メルヴィーナは、礼拝堂を出る。そして、メルヴィーナは、翼を広げ、夜空に向かって飛んで行った…。
玉間では、メルヴィーナの主、サタンが使用人のセバスと話している時だった。
「ぐわぁああああああ!」
「何事だ!」
「敵襲です!すでに城門の兵は壊滅!現在、場内の兵力で対処しています!」
魔王サタンは異変に気付く。扉は破壊されて、見張りの警備兵が爆風で吹っ飛ばされる。
そして、爆風の中から何かが飛んできた!
「ぐわぁあああああ!」
伝令の兵は倒される。
そして、破壊された扉から、高級ジュータンにブーツをはいた何者かが歩いて入ってきた。
その者は、シスターの服装をした女性。
「何者だ」
サタンは尋ねる。すると、その女性は、魔王の前で礼をして挨拶する。
「魔王直属護衛のメルヴィーナ・メフィストフェレス、任務を終え、ただいま帰還しました。」
「なに?」
サタンは驚く。当然だ。メルヴィーナとは姿が違う。
「メルヴィーナ、なのか?その姿は…もしや…」
「人間の情報をより得られやすい個体を見つけたので、その者の体と記憶と力を奪ってきました。」
セバスはたずねる。
「まさか……メルヴィーナ……お前は……その姿は…人間と融合したのか?」
「はい」
すると魔王サタンが待てず欲望をさらけ出す。
「なんと!では、メルヴィーナよ、その奪った体をよこせ!早く!」
「はい」
メルヴィーナはすぐに行動に移した。
「何をしている!はやく!ぐぁぁぁあ!」
使用人セバスは驚く。目の前で王の命を奪われたのだ!
「な!」
メルヴィーナは、サタンの血で赤く染まった腕を口元に持っていき、舌で指先からなめるように拭き取る。
「なにをしている!貴様!!なぜ魔王様を!」
メルヴィーナは口角をつりあげる。
「見てわからないですか?クーデターですよ」
「なにぃい!?」
「この体の主、シスターセリシアの記憶によれば、あなたは、魔王に忠誠を誓っていると、そして、あなたは、神が嫌いだと、ならば……」
メルヴィーナは、血のついた手をハンカチでふき取りながら言う。
「私が神である魔王様を滅ぼします」
メルヴィーナはそういうと、玉座に座ったまま殺された魔王サタンの遺体を足でゆっくりどかして、玉座の椅子を確保する。
「お待ちなさい!!」
メルヴィーナは振り返る。そこには、戦闘準備を整えた一人の魔族がいた。
「私は、魔王直属護衛隊隊長アスタロト。メルヴィーナとやら、この場で成敗してあげましょう!」
(これは好機!メルヴィーナをクーデター未遂で始末すれば!私が次の王位後継者となれる!)
メルヴィーナは、王座に座っている。
「あら?さっきまでこっそり隠れて王の死を待っていた、あなたが言うことですか?」
それを聞いたセバスは驚く!
「なんだと?!」
アスタロトはわかっていたのかとあざ笑うようにいう。
「フッ!気づいていましたか。そうですよぉ!覚悟しなさい!」
「それじゃぁ……」
メルヴィーナは玉座から立ち上がる。
「私も本気で行きましょうか。」
メルヴィーナからおぞましい魔力を感じる。彼女のカラダからどす黒い魔力があふれ出ている!!
「なんだと!」
メルヴィーナの全身から闇のオーラが溢れ出る。
メルヴィーナの髪が揺れる。
「さあ、行きますよ」
「ま!待ってくだs」
アスタロトは顔を半分破壊される。顔の半分は消え、城の壁も消え、外の景色が見える。アスタロトは冷や汗をかく。
戦いを眺めるセバスはつぶやく。
「な、なんて力だ…!」
メルヴィーナは余裕の態度を見せる。それを見たアスタロトは皮肉る。
「…見ない間に強くなって帰ってきましたねぇ。」
しかし、メルヴィーナは口角をつりあげたまま余裕の態度。
「…フン、まあいいでしょう。しょせん、あなたは実力負けで落ちた元四天王。もう一度、叩き落してさしあげます。」
アスタロトは奥の手を見せる。
なんと!彼のカラダは細胞単位でバラバラになり複数になった!
「どうですかぁ!私の力はぁ!これがあなたとわたしの実力の差!あなたの力は、しょせん借り物!私の実力には到底及ばない!死になさい!」
アスタロトはさらにしゃべる。
「わたしの大きさは変幻自在、呼吸でもしたら、あなたの肺に入って暴れて差し上げますよ!」
城一面にあふれるアスタロト。小さなアスタロトがメルヴィーナにせまる!無数のアスタロトがメルヴィーナに襲い掛かる!
メルヴィーナは右手を上げ、指を鳴らす。
するとメルヴィーナを中心に竜巻が発生する!
「なっ!」
無数のアスタロトは、風に巻き込まれ、ズタズタにされる。
「ぐわああああああ!!!!!」
風を自在に操り、たくさんいたアスタロトを一つに固める。竜巻が吹き終わり、玉間に肉塊が落ちる。
セバスは、アスタロトの断末魔を聞きながら、つぶやいた。
「……やはり……メルヴィーナは強い……」
「うふふふ……あっはははははははは!!!!!」
メルヴィーナの笑い声が響く。
メルヴィーナの高笑いが響き渡る中、城内の兵は壊滅し、玉座の間まで侵入したアスタロトをメルヴィーナが倒した。
メルヴィーナは、サタンが殺された玉座に座り、ワイングラスに赤い液体を注ぎ、一口飲み、片手にワイングラスを揺らしながら勝利にひたる。
メルヴィーナは満足そうな笑みを浮かべセバスに振り返り言った。
「セバスさん、私が今日からこの国の王よ」
セバスは戦っても負けると判断しだまる。
「…ぐっ……」
するとメルヴィーナは真剣な表情で話す。
「セバス、あなたに二つの選択をあたえるわ。わたしに忠誠を誓うか、今すぐここで死ぬか」
「……」
「二つに一つよ、どうする?この国は、私が支配するの。」
セバスはしばらく考え、目を開け答えを言う。
「あなたさまに…あなた様の側につきま」
すると遮るようにアスタロトが言う。
「やめなさい…!みっともないですよ…!今まで王に、そばで仕えた側近が…!」
肉の塊からなんとか再生したようだ。
「さすが四天王。今の四天王は優秀ね。わたしが落とされるのもわかる気がする」
そして、メルヴィーナは玉座から立つと歩いてアスタロトに近づき、そばに行くと足を止め、前に立つ。
アスタロトは口角をつりあげる。
(これはチャンス…自分から近づくとは、愚かなり…フフ…)
メルヴィーナは、アスタロトのえりもとを両手で掴んで持ち上げ、アスタロトの目を見る。
アスタロトは自分を見上げるメルヴィーナを見る。
「チャーム(魅了)」
「な!か、からだが…!動かない…!まさか…!わたしがこんな奴に…!」
(興奮している…!…だと?!)
メルヴィーナは抵抗できないアスタロトを楽しそうに眺める。
(くっ!絶好のチャンスなのに…!至近距離なのに…!アタマが…!頭の中が……メルヴィーナの事でいっぱいだぁああああああ!)
「ぐぅおおおおおおおおおおおおおお!」
冷静が売りのアスタロトは自分の強さを奪われ、苦しんでいる。
「さようなら、アスタロト」
「ぐぅ……」
メルヴィーナは、アスタロトを巻き込み強大な竜巻を起こす。
「あああああああああああああああああああ!」
「ふぅわぁあああああああああああああああ!」
メルヴィーナを中心に大きな竜巻が二人を巻き込み、竜巻は二人を刻み風は赤く染まる。竜巻が収まり、血まみれになった玉座の間に立っているメルヴィーナ。彼女は笑顔だった。
声には出さず、口は開いて笑みを浮かべる。その光景を見て、セバスがたずねる。
「魔王様……次のプランは……」
すると血まみれのメルヴィーナが口角をつりあげふりかえる。
「そうね……次は……」
そのころアスタロトは……
「くっ…!なんという強さ…!念のために分身を残しておいてよかった…今回は負けましたが…次は…次こそは…!」
アスタロトは小さな体で城から離れ空へ飛ぶ。
ミランダの邪悪な悪意に満ちた心を拒み拒絶していたレイチェルだが、日に日にその嫌悪感は快楽となりミランダの魂との同化を望むようになっていた。
それがレイチェルの意志としてではなくミランダの意志だったとしても。もはやレイチェルは限りなくミランダになりかけていた。そして、ある日のこと。
レイチェルが召喚した異世界人に命令する。
「異世界人。あなたに役目を与えてあげるわ!」
異世界人は突然のレイチェルの発言に困惑した。
「なんでだよ!」
しかし、レイチェルは異世界人に容赦しない。
「あなたを奴隷にして、ボロ雑巾になるまで使い潰して、最後には殺してやるわ!」
突如レイチェルからの死刑宣告。世間には、悪役令嬢がかわいそうだとか言っている人もいるが、ほんとにそうだろうか?
「そ、そんなぁ!」
絶望する異世界人にムチを振るレイチェル。
「アハハハハハハ!」
ムチを打たれた異世界人は悲鳴を上げる。
「ぎゃぁああああ!」
すると、異世界人が何かを落とす。
「ふぅ、ん?これは?」
「そ、それは…!」
「あら~、きれいなペンダント。」
レイチェルは落ちたペンダントに興味を示す。
「ためろ!それは妹の!」
異世界人はペンダントを守ろうとする。しかし。
「ジャマ。」
「ぐはっ!」
異世界人はレイチェルに蹴られる。
レイチェルはペンダントを拾い品定めをする。
「ふぅ~ん。」
異世界人はレイチェルに返してもらうよう懇願する。
「か、かえして……!!」
レイチェルは異世界人に質問する。
「ねえ、妹さん、どうなったの?」
苦し紛れに口を動かす異世界人。
「死んだ…不意な事故で…。」
すると、レイチェルは嬉しそうにする。
「そう!なら、あなたには不要ね?」
レイチェルの理不尽な言葉に異世界人は動揺する。
「え?」
それから憎しみと怒りが爆発し、異世界人は怒る。
「クソッタレが!オレのいた世界でも!どうして世間はこんな悪人をかばうんだぁ!」
するとレイチェルが躊躇ないセリフを吐く。
「ダマレ、ゴミクズ」
異世界人は自分の体に違和感を覚える。冷たくて鋭い何かが。
胸には冷たい金属の刃がささり、そこから赤い血がこぼれていた。「ガハッ!?」
レイチェルは異世界人の首を持ち持ち上げ、耳元で囁く。
「あなたはもう用済みよ。」
「お、おまえ……。」
「バイバイ。」
「ま……」
そして、レイチェルはナイフを抜き取る。
「あ、あ、あ。」
異世界人は倒れ込み、動かなくなる。
「あーあ、汚れちゃった。」
レイチェルはペンダントを地面に落とし、踏みつける。
こうして、レイチェルの悪行は続く。
レイチェルの悪事はエスカレートする。レイチェルの手により不幸になったものの少数派は、いくら国王に訴えても、相手にされずそれどころか民衆にもなぜか恨まれ憎しみの的にされる。さらに、レイチェルは召喚した異世界人を奴隷のように扱い、こき使った。
異世界人はレイチェルを憎みながらも、逆らえず言われるがままであり、飽きたら捨てられる。レイチェルは火種の問題をきっちり処分しているため、生き残った異世界人はいない。用済みになれば死ぬ。
「あなたの世界の国は少子化で悲惨なのよね?」
「きっとトラックにひかれれば天国のような世界に行けると信じてるんだ!」
「迷惑なこと。でも、生まれ変わりが本当なら死んでいったミジンコの数は?」
「へ?」
「きっとあなたやその仲間たちもきっと、わざとトラックにひかれて、いきついた世界は、今もそちらの世界で人口が増え続けている発展途上国ではないの?」
レイチェルは続けて話す。
「生まれたとたんに手足を親に切り捨てられて、道端に置かれ、お金の恵みの置台にされるの。そして死んだら次の子を。それ以外はゴミの山をあさり、ゴミが崩れて下敷きになるの。あなたは永遠の負け組。元の世界でもクズ。どこに行ってもクズ。」
「うるさい!お前に何がわかる!」
「わかるわ。だってあなた、無職だもの。」
「う!」
「それに、あなたは、わたしが殺した異世界人と同じ。生きる価値のない、クズの負け犬。」
「ちがう!」
「なにが?」
「う!」
「ほら、何も言えないじゃない?あなたたち異世界人は、みんなそう。自分の都合しか考えず、勝手に気に入った女を鎖につなげて、邪魔になれば殺す。」
「それは……。」
「そうやって、今まで多くの異世界人がたくさんの人を殺してきたの。」
「それは……。き、キミもおんなじじゃないかぁ!」
異世界人はレイチェルに抗議する。しかし、レイチェルの鋭い威圧に異世界人はビビる。
「はぁ?」
「…う。」
「バツとして鞭打ち十回。」
「う、うわぁああああああ!」
ムチが肉に当たる音が響く。
次は異世界に目覚めた女性だった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
レイチェルは、発狂してよろこぶ。
「ああ、いいわぁ!その悲鳴!絶望の叫び声!素晴らしいわ!」
レイチェルが異世界人の召喚に飽きて、とある館の処理が落ち着く。そう。地下はたくさんの人骨で転がっていた。
後処理をしていた館の使用人は安堵していた。
「チッ!つかえないゴミね!」
人骨にヤジを飛ばす使用人。彼女たちに心はないのか?いや、その世界からきた人も少なからず、どの世界にも異常と違和感を感じていただろう。
殺人鬼をかばったり、レイプ犯をかばったりする謎の力。悪人を許すことこそが正義だという謎の力がこうも世界を狂わせたのだろう。
そして…。
レイチェルは鏡の前に立ち、自分の姿にコンプレックスを抱いていた。それは、自分よりも容姿が優れている女性を見ると殺してやりたい衝動に駆られるからだ。
「どいつもこいつも、わたしより美しいなんて許せない!どうしようかしら…」
レイチェルはとある教会のシスターに敵対心を燃やしていた。
「くふっ…ふふふふふ…。」
レイチェルは奇妙に笑う。またなにか恐ろしいことを考え付いたのだろう。
レイチェルは邪悪に満ちた目をしながら、準備をする。
夜の教会。最後の戸締りで夜の番を務めている一人のシスターが教会を徘徊しているところ。
金髪ロングの青灼眼の女性は、扉の鍵を閉める。すると、反対側から鍵をかけられる音がした。
振り返ると謎の貴族の女性がいる。レイチェルだ。
こんな夜中に何か用かと尋ねるシスター。
「遅くに何か用ですか?」
するとレイチェルは黒い笑みを浮かべて答える。
「ええ。ちょっとね。」
レイチェルは腰に短剣を隠しており、シスターの命を狙っていた。
「あなたがこの教会のシスターセリシアね。」
「はい。そうですけど……。」
「あなたが悪いのよ。わたしより美しいあなたが…だから…」
レイチェルは躊躇なく短剣を取り出して、刺そうとする。しかし、金属のはじく音が響く。
レイチェルは一瞬なにが起こったのか理解できない。
レチェルの持つ短剣は何か強い力で吹き飛ばされたのだ!
「え?」
レイチェルは驚く。手を滑らせたのではない。明らかに何かの力がレイチェルの握っている短剣を叩き飛ばしたのだ!
シスターセリシアは余裕の態度を見せる。
「おやおや、狙いはわたしの命でしたのね、でも残念。あなたは終わり。」
シスターセリシアはレイチェルに近づき容赦なくレイチェルを床にたおす。
「キャア!?」
悲鳴をあげるレイチェル。
「くくく……。」
「なんの真似です!」
「あなたを利用させていただきます。貴族というのは昔から宗教と深くかかわっていました。この領地でもあなたの力は我々に大きくかかわっています。わたしが嫉妬するくらい。あなたを消そうとも考えました。しかし、そんなことをしたら、我々の教会の力は弱まる。それでは意味がない。少し前に大司教様から指示がありまして、この地の管理者をこちらの側に迎え入れなさいと。でも、敵対的なあなたをこちらに誘い込むのは難しいでしょう。そこで、念のために大司教様から奥の手を授かっております。」
シスターは不気味な笑みを浮かべ、レイチェルの耳元でささやく。
「あなたの姿をもらうわ」
シスターの瞳孔が開く。
「い、嫌!」
「大丈夫よ。すぐに終わるわ。」
「誰か!助けて!」
レイチェルは叫ぶが誰も来ない。
「無駄よ。ここは誰もいない。さあ、あなたがわたしのものになれば、あなたの魂は永遠にこの世にとどまることができる。」
「い、嫌!むぐっ!」
レイチェルはシスターにキスをされて口をふさがれる。
「むぐっ!ぷはっ!なにをするの!」
レイチェルが訴えると、レイチェルは自分の体に異変を感じる。
(からだが…うごかない…!)
シスターはレイチェルを眺めにやける。
「麻痺毒が効いたようね。」
「ひぃ!」
シスターは欲望に任せ、彼女の体をさわる。
「ぐぅ!」
「わたしがあなたになれば、我々の力はさらに高まる。」
「い、嫌!」
「あなたには感謝しているの。あなたのおかげで、私以上の力を持つ人間を消せたわ。」
「わ、わた、しは……。」
「あなたをわたしにしてあげるわ。」
そう言ってシスターはドレスを脱ぎ、レイチェルを裸にしてベッドに連れ込んだ。「うう!」
「あなたがわたしになるのよ!」
「やめなさい!やめて!」
「宗教にも金が必要なのレイチェル、今日から私があなたになるわ」
シスターは抵抗するレイチェルを拘束し、そしてレイチェルに自分の体をこすりつけ始めた。
「うう!」
「これで、あなたはわたしになるのよ。」
「いや、やめて…」
シスターは抵抗するレイチェルを拘束する。そしてレイチェルに自分の体をこすりつけ始めた。
「ふふ……。いいじゃない。気持ちよくなるのは悪いことじゃないのよ。」
「いや……!」
「ふふふ……。」
シスターは満足そうに笑い、さらに激しくレイチェルに抱きつく。
「もっと声を出していいわよ。」
「うぐう!」
「ふふふふふ。」
シスターは興奮して息が荒くなり狂ったように笑い続け、シスターは快楽の声を上げる。
「ハァ、ハァ、」
「うう……!」
「フゥ、ンフッ、」
「ううー!」
「うう、ウウン!」
「ああああああ!」
「ああ……!私の中に入ってくる……!混ざり合って一つになる……!ああ……!」
レイチェルは壁にかけている鏡を見て驚く。なんと半身ぐらいがシスターと本当に混ざっていたのだ!
「ああ!まじわっていくわ…わたしとあなたが、境目なく溶けていくのを。」
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
レイチェルの絶叫が響く。
「くく……。もうすぐで完全にひとつになれるわね……。」
シスターはそう言いながら自分の胸に手を当てて、レイチェルに言う。
「感じる…鼓動が高くなっているのが…、指先まで感覚を感じる…。汗をかきだしているのも…。」
「い、嫌!これ以上わたしを奪わないでぇ!」
「くく……。もう遅いわ。」
「お願い!何でもしますから!どうか、私の体だけは返して!」
レイチェルは涙ながらに懇願するが。
「なんでも?それじゃぁ、わたしのすべてを受け入れなさい!あなたに神のすばらしさを教えてあげるわ!」
「そ、そんな!」
「大丈夫よ。すぐに終わるから。」
「嫌ァ!」
レイチェルは泣き叫ぶがシスターは無視をして、再びレイチェルと融合しようとする。
「いやぁああああ!あああ……うわぁあああ………」
シスターはレイチェルの心とまじわり境目がなくなりかけている。
「こ…これは…!わたし…の…記憶?…違う…。違わない。うぁぁ…ほしい…貴族の地位が…。シスターの姿が…!」
「アアアアアア!!!」
レイチェルの悲鳴は教会中に響いた。
そして彼女の頭の中でまるで洗脳のような暗示が脳裏で響く。
(わたしがシスターで、あなたがレイチェルで、レイチェルがシスターで、シスターがレイチェルで、わたしがシスターで、シスターがレイチェルで、わたしがシスターで、シスターがレイチェルで、レイチェルがシスターで…)
暗闇の部屋で倒れている一人の女性。シスターのセリシアの姿がない。
レイチェルは虚ろな目をしたままぶつぶつ言っている。
彼女はレイチェルの記憶を手に入れたことで、レイチェルになり、レイチェルになったことで、シスターになった。
「私の名前は、レイチェル…・ルミエール。わたし…は…。」
彼女こそ、本物の悪令嬢である。
しかし、彼女の魂はレイチェルと混ざり合い、もはやレイチェル本人とも言える存在になっていた。
彼女は鏡に写る自分を見てたずねる。
「私は、私は誰?」
レイチェルは起き上がると自分の手を見つめる。
「私は、私は誰?私は……私は……私は……、私はシスター・レイチェル、神に仕える者。」
レイチェルは、自分の体を確かめるように両手を見つめる。
「ああ……そうです。私がシスター・レイチェル。神の愛を伝えるもの。」
レイチェルは、自分の胸元に手を当てる。
「そう、私は、私の肉体は、シスター・レイチェル。神から与えられた肉体。」
しばらく鏡を眺めていたレイチェルだが…不意に口角を吊り上げる。
「そう、わたしはこの地の領主レイチェルであり、この教会のシスターセリシア…。」
「さて、やることが二つできたわ。領主の仕事と教会の仕事。くっ!うわああああ…。」
シスター・レイチェルは、肉と骨がきしむ音を立てる。
「ああ…、はあ…。」
シスターは、息切れをしながら言う。
「ああ……すごい……これが……神の御業……。」
シスターは両手を広げ天を見上げ、満面の笑みで言う。
「ああ……神様ありがとうございます。」
シスターレイチェルは、鏡を見て手を頬に当て自分の顔を確認する。
「美しい……。」
シスターレイチェルは、レイチェルの顔を手に入れ、シスターの姿をしていたときよりも美しくなっていた。
「くく……うふふ……。」
シスターレイチェルは笑い出す。
「ああ…なんてすばらしいのかしら。わたしの望んでいた貴族生活とシスターの姿が、私のモノに」
シスターレイチェルは自分の体を抱きしめる。
「神よ、愛の祝福に感謝します」
そう言ってシスターレイチェルは祈りを捧げる。
そして、シスターレイチェルは、部屋を出ると、廊下を歩きながら自分の手を見つめてつぶやく。
「ああ……、素晴らしいわ。こんなにも体が軽い。」
シスターレイチェルは、自分の胸元に手を当てて呟く。
「これが貴族の肉体。」
シスターレイチェルは、階段を下ると、食堂に入る。そこには一人の男が座っていた。
「おや?どうしたんだい?シスター。食事かい?」
その男はシスターレイチェルを見ると、微笑みかける。
「成功したな。」
そう言った男の名は、レイヴン。この教会の男。
「ええ、無事終わったわ。」
「そうか。」
シスターレイチェルは、椅子に座って食事をする。
「これからは、お前がレイチェルになりすまし、我々に可能な限り援助しろ。」
「わかったわ。」
シスターレイチェルはそう言うとスープを口にする。
「くく……、さっき声が聞こえたぞ?わかってはいるが。」
「うるさいわね。」
「まあいい……。神の意志を遂行するのだシスターセリシア。」
「任せておいて……。」
そう言うと、シスターレイチェルは笑った。
彼女は先ほど取り込んだレイチェルの残した服に着替え、待ち合わせていたレイチェルの帰りを近くで待っている馬車の男に接触する。
「出しなさい。」
「ああ…レイチェルさま…遅かったから失敗したんじゃないのかと思ったぞ?」
「おいていったら殺すわよ。」
「もともと、オレをこんな役目に強引にしたのはアンタだろ?」
「今、死にたいの?」
「ひぃ…わかりました…。」
彼女は、王都の城にいた。そして彼女の瞳には野心がこもっていた。
「すべては神のため…我らの教えのため…。」
シスターセリシア、今の名をレイチェルは、城から街を見下ろしていた。
「さぁ、始めるわ。神が本当の支配者になるの……。」
レイチェルは、不敵な笑みを浮かべていた。
翌日、レイチェルは個人的なことで宗教に興味があるという盲目で大司教に会いに行っていた。
レイチェルは大司教のお膳で膝をつき、頭を垂れる。
「セリシア、神からの意志だ。お前のできる範囲でそのレイチェルとかいう貴族の力を利用して、可能な限り献金して、この地を乗っ取るのだ。この地の領民には、我々の教えを生活基準で行わせ義務にするのだ。」
「はい、かしこまりました。」
「そして最後に、もしもこの国と戦争になったときは、その貴族を殺してくれ。このことは他言無用だ。この秘密を知るのは、私とレイヴンとお前だけだ。」
「承知しました。アーメン」
シスターセリシアは神とやらのためならなんでもする狂信者だ。
このおかしなやり取りに疑問を抱かないシスターセリシアは、レイチェルの姿で暗躍する。
そして月日が流れ、レイチェルの領地は着実に宗教に染められていた。
異を唱える者は、容赦なく弾圧し支配する。現実世界の昔のヨーロッパの歴史をただよわせるものだった。
レイチェルの権力であらかた役目を務めているセリシアは、夜中の教会に戻り自分の部屋に入る。
レイチェルは月の明かりが窓からのぞく暗くも少し明るい部屋で自分のドレスを取り出し着替える。
そして。
「んんんん……うう…ぁぁ…。」
レイチェルの肉体に変化が起こる。ゆっくりと変化して髪の色も変色する。
そこには先ほどレイチェルを取り込んだセリシアの姿が。
「ふぅ……」
セリシアは、鏡を見る。
「美しいわ。わたしって本当に美しいわね。でも……わたしじゃないみたい……。」
そう言いながら鏡の中の自分を見てつぶやく。
セリシアはレイチェルの顔の特徴を引き継ぎ、いいとこばかりだった。
「あはは……あはははははは……。」
セリシアは笑い出す。
「さて、次の段階に進まないと……。」
そう言ってセリシアは、自分の部屋を出て礼拝堂に向かう。
祈りを終えると、席にいつの間にいたのかレイヴンという男が声をかける。
「セリシア。レイチェルとしての生活はどうだい」
「順調よ。」
「そいつはよかった。」
「それより、例のモノは用意できた?」
「ああ、もちろんだとも。」
「そう、じゃああとは計画通りに。」
「わかっているとも。」
レイヴンとセリシアが会話をしている最中に突如、謎の笑い声が礼拝堂に響く。
「フフフフフ…」
突然の出来事にセリシアとレイヴンは驚き、セリシアは聞く。
「誰!?」
月明かりが照らす謎の黒い影。コウモリのような翼と角。それは悪魔だった。
「はじめまして、私は魔界からやってきた魔族の一人。あなた達の魂をいただきに来ました…」
レイヴンは思わず驚く。
「なに!?」
「まずはそこのレイヴンとかいう人」
なんということか、距離はあっという間に詰められる。
「くっ!死ね!悪魔!」
レイヴンは短剣を取り出すが…。
「チャーム(魅了)」
しかし、レイヴンは悪魔に斬りかかる。
悪魔は驚いていた。
「なに?!きかない?」
悪魔の魔術をものとしないレイヴンは得意げに言う。
「わたしには通用しないぞ!」
「くっ!」
悪魔は少し戸惑う。
(やはり警戒している相手にはきかないみたいね…。少し気を抜いていたわ…)
レイヴンはかまえる。
「さあどうする悪魔!」
レイヴンは悪魔の行動をうかがう。すると悪魔はレイヴンに人差し指の指先を向ける。
「動かないでね」
「は?」
レイヴンは悪魔に指図される筋合いはないため首をかしげる。
すると、悪魔の指先から禍々しい赤白いピンク色の光線が放たれた!
思わぬ展開と出来事で、対応に遅れたレイヴンは撃ち抜かれてしまう。
「!!」
レイヴンは吹っ飛び床に倒れる。セリシアはレイヴンを助けようとレイヴンに駆け寄る。
「レイヴン!」
すると、そのセリシアに悪魔が声をかける。
「無駄よ、レイヴンは目を覚まさない。私が直接起こさない限りね」
「くっ!」
セリシアは冷や汗をかき身を構え悪魔に問いかける。
「あなたは…何者なの!」
すると悪魔は笑みを浮かべて答える。
「私の名はメルヴィーナ・メフィストフェレス。魔王サタン様の忠実な下僕であり、四天王の一人。サタン様から授かった私の役目は、人間どもの監視と潜入。この地の領主は宗教にも深くかかわっているそうで、この地の情報を手に入れるなら、この教会の人間としてもぐりこんだ方が都合がいい。シスターセリシア、あなたの体を乗っ取らせて頂くわ。」
「なっ!」
セリシアは驚く。
メルヴィーナは武器を持たないセリシアに言う。
「フッ、何も持っていないあなたに何もできることはないわ。次はわたしの番ね。」
セリシアは動揺する。急な接近!人間業とは思えない速度で一瞬にしてセリシアと間合いを詰めた悪魔はその爪でセリシアを切り裂く。
セリシアの体に切り傷ができる。
「ぁぁぁぁ!!!」
あまりの痛さに悲鳴を上げるセリシア。
「さようなら、シスターセリシア。」
メルヴィーナはセリシアの前に移動し、体制を低くし、セリシアの表情をうかがうように座る。
「う……ぐ……」
メルヴィーナは、苦しむセリシアの耳元にささやくように話す。
「安心しなさい、今は嫌でもすぐに気分がよくなるわ。さあ、私の愛を受け入れなさい!」
メルヴィーナはセリシアに先ほどつけた傷に指先を入れ、体の中に入り込もうとする。
「ひぃ……!」
セリシアは驚く。自分の傷口に少女の悪魔が入り込もうとしているのだ!
しかし、メルヴィーナは異変に気付く。
「ん?入れない?」
「いやああああああ」
絶叫するセリシア。セリシアはメルヴィーナの頬に手をふる。
頬を叩かれたメルヴィーナの頬は、赤くなっていた。
「いたいねぇ…今のはクリティカルヒットよ」
気分を悪くしたメルヴィーナはセリシアの頬に仕返しで叩く。
メルヴィーナの与えるビンタも強烈だ。セリシアは痛みに目を閉じ顔を下げる。
「フッ、対策していたのね」
「……。」
「しかたない、さっきの男の体を乗っ取って、裸で町々を走るのも悪くないわ。あなたの教会の教えが大変なことになるけど」
メルヴィーナがそういうと、レイヴンに近づき、レイヴンの顔を持ち上げレイヴンの口を広げる。
「はぁぁぁぁ………」
メルヴィーナは口からどす黒い煙を出しレイヴンに入れようとした!するとセリシアが叫ぶ!
「待って!」
メルヴィーナはセリシアに聞く。
「なに?」
セリシアは苦い顔をしていう。
「ください…。わたしにあなたの愛を…。」
メルヴィーナはセリシアの表情を見て答える。
「よろしい。それじゃぁまずは、あなたが自分を守っている結界に私を入れること認めなさい。さあ。」
メルヴィーナはセリシアの前に移動する。メルヴィーナの言葉にセリシアは息をのむ。
「神に誓い…メルヴィーナさまの愛の証を認めます。ください…わたしにあなたの愛を…」
「上出来よ」
メルヴィーナはセリシアを抱きしめる。
なにが起こるのかわからず、眺めるセリシア。すると、異変が起こる!
セリシアにくっついているメルヴィーナがゆっくりと、セリシアに溶けていくようにセリシアのカラダに入る。
「ぐっ…!……ぁっ……!」
苦しみを感じたセリシアは、メルヴィーナを引きはがそうとするが、時はおそくメルヴィーナの姿は、セリシアのカラダに半分溶けている。メルヴィーナの姿は消える。
そして、異変が終わったセリシアは冷静に腹を抱えた両手をおろす。
すると、セリシアの体は真っ黒に染まっていく。暗黒の闇がセリシアを包む。ドロッとしたいかにも命を奪いそうな感じの闇はセリシアを包みその力は強大で瞬く間にそれは飲み込んだ。
セリシアは黒い霧に包まれていき、その姿が見えなくなる。
全身を黒く染め、その霧が晴れる。
どす黒い闇は消え、一人の女性が瞳を閉じ宙から落りる。
しばらく瞳を閉じているその美女は、静かにゆっくりと目を開ける。
ホワイトブロンドの髪と悪魔の角、透き通った青い瞳と悪魔の翼を持つ美女が現れた。
一見セリシアにしか見えないが、顔は、メルヴィーナがセリシアの特徴を受け継いだような、もしくはメルヴィーナが髪を伸ばし大人になったような、メルヴィーナの面影があるセリシアの顔つきだ。
修道女の服を着ているが、悪魔のような翼を生やし、頭に角をはやした女性だ。その姿は、悪魔にも聖女にも見える。
メルヴィーナは、教会の鏡の前に立ち、月明かりで自分の姿を見る。
その姿はどう見ても先ほど融合されたセリシアにも見えるが成人になったメルヴィーナにも見える。いや、先ほど犠牲になった者たちのいい特徴だけをもらったようなより美しい姿になっていた。
「うーん…なかなかいいわね…感じる…私の中に……私の中が満たされていくのがわかる……シスターセリシアの力が…素晴らしい……この身から込み上がる力が……この力があれば……私は……神に……」
メルヴィーナは自分の両手を見て、己の身から込み上がる魔力と力を実感した。
メルヴィーナは、シスターの記憶と力と姿をすべて手に入れた。
「さて、早速サタン様に報告に行きましょうか」
メルヴィーナは、礼拝堂を出る。そして、メルヴィーナは、翼を広げ、夜空に向かって飛んで行った…。
玉間では、メルヴィーナの主、サタンが使用人のセバスと話している時だった。
「ぐわぁああああああ!」
「何事だ!」
「敵襲です!すでに城門の兵は壊滅!現在、場内の兵力で対処しています!」
魔王サタンは異変に気付く。扉は破壊されて、見張りの警備兵が爆風で吹っ飛ばされる。
そして、爆風の中から何かが飛んできた!
「ぐわぁあああああ!」
伝令の兵は倒される。
そして、破壊された扉から、高級ジュータンにブーツをはいた何者かが歩いて入ってきた。
その者は、シスターの服装をした女性。
「何者だ」
サタンは尋ねる。すると、その女性は、魔王の前で礼をして挨拶する。
「魔王直属護衛のメルヴィーナ・メフィストフェレス、任務を終え、ただいま帰還しました。」
「なに?」
サタンは驚く。当然だ。メルヴィーナとは姿が違う。
「メルヴィーナ、なのか?その姿は…もしや…」
「人間の情報をより得られやすい個体を見つけたので、その者の体と記憶と力を奪ってきました。」
セバスはたずねる。
「まさか……メルヴィーナ……お前は……その姿は…人間と融合したのか?」
「はい」
すると魔王サタンが待てず欲望をさらけ出す。
「なんと!では、メルヴィーナよ、その奪った体をよこせ!早く!」
「はい」
メルヴィーナはすぐに行動に移した。
「何をしている!はやく!ぐぁぁぁあ!」
使用人セバスは驚く。目の前で王の命を奪われたのだ!
「な!」
メルヴィーナは、サタンの血で赤く染まった腕を口元に持っていき、舌で指先からなめるように拭き取る。
「なにをしている!貴様!!なぜ魔王様を!」
メルヴィーナは口角をつりあげる。
「見てわからないですか?クーデターですよ」
「なにぃい!?」
「この体の主、シスターセリシアの記憶によれば、あなたは、魔王に忠誠を誓っていると、そして、あなたは、神が嫌いだと、ならば……」
メルヴィーナは、血のついた手をハンカチでふき取りながら言う。
「私が神である魔王様を滅ぼします」
メルヴィーナはそういうと、玉座に座ったまま殺された魔王サタンの遺体を足でゆっくりどかして、玉座の椅子を確保する。
「お待ちなさい!!」
メルヴィーナは振り返る。そこには、戦闘準備を整えた一人の魔族がいた。
「私は、魔王直属護衛隊隊長アスタロト。メルヴィーナとやら、この場で成敗してあげましょう!」
(これは好機!メルヴィーナをクーデター未遂で始末すれば!私が次の王位後継者となれる!)
メルヴィーナは、王座に座っている。
「あら?さっきまでこっそり隠れて王の死を待っていた、あなたが言うことですか?」
それを聞いたセバスは驚く!
「なんだと?!」
アスタロトはわかっていたのかとあざ笑うようにいう。
「フッ!気づいていましたか。そうですよぉ!覚悟しなさい!」
「それじゃぁ……」
メルヴィーナは玉座から立ち上がる。
「私も本気で行きましょうか。」
メルヴィーナからおぞましい魔力を感じる。彼女のカラダからどす黒い魔力があふれ出ている!!
「なんだと!」
メルヴィーナの全身から闇のオーラが溢れ出る。
メルヴィーナの髪が揺れる。
「さあ、行きますよ」
「ま!待ってくだs」
アスタロトは顔を半分破壊される。顔の半分は消え、城の壁も消え、外の景色が見える。アスタロトは冷や汗をかく。
戦いを眺めるセバスはつぶやく。
「な、なんて力だ…!」
メルヴィーナは余裕の態度を見せる。それを見たアスタロトは皮肉る。
「…見ない間に強くなって帰ってきましたねぇ。」
しかし、メルヴィーナは口角をつりあげたまま余裕の態度。
「…フン、まあいいでしょう。しょせん、あなたは実力負けで落ちた元四天王。もう一度、叩き落してさしあげます。」
アスタロトは奥の手を見せる。
なんと!彼のカラダは細胞単位でバラバラになり複数になった!
「どうですかぁ!私の力はぁ!これがあなたとわたしの実力の差!あなたの力は、しょせん借り物!私の実力には到底及ばない!死になさい!」
アスタロトはさらにしゃべる。
「わたしの大きさは変幻自在、呼吸でもしたら、あなたの肺に入って暴れて差し上げますよ!」
城一面にあふれるアスタロト。小さなアスタロトがメルヴィーナにせまる!無数のアスタロトがメルヴィーナに襲い掛かる!
メルヴィーナは右手を上げ、指を鳴らす。
するとメルヴィーナを中心に竜巻が発生する!
「なっ!」
無数のアスタロトは、風に巻き込まれ、ズタズタにされる。
「ぐわああああああ!!!!!」
風を自在に操り、たくさんいたアスタロトを一つに固める。竜巻が吹き終わり、玉間に肉塊が落ちる。
セバスは、アスタロトの断末魔を聞きながら、つぶやいた。
「……やはり……メルヴィーナは強い……」
「うふふふ……あっはははははははは!!!!!」
メルヴィーナの笑い声が響く。
メルヴィーナの高笑いが響き渡る中、城内の兵は壊滅し、玉座の間まで侵入したアスタロトをメルヴィーナが倒した。
メルヴィーナは、サタンが殺された玉座に座り、ワイングラスに赤い液体を注ぎ、一口飲み、片手にワイングラスを揺らしながら勝利にひたる。
メルヴィーナは満足そうな笑みを浮かべセバスに振り返り言った。
「セバスさん、私が今日からこの国の王よ」
セバスは戦っても負けると判断しだまる。
「…ぐっ……」
するとメルヴィーナは真剣な表情で話す。
「セバス、あなたに二つの選択をあたえるわ。わたしに忠誠を誓うか、今すぐここで死ぬか」
「……」
「二つに一つよ、どうする?この国は、私が支配するの。」
セバスはしばらく考え、目を開け答えを言う。
「あなたさまに…あなた様の側につきま」
すると遮るようにアスタロトが言う。
「やめなさい…!みっともないですよ…!今まで王に、そばで仕えた側近が…!」
肉の塊からなんとか再生したようだ。
「さすが四天王。今の四天王は優秀ね。わたしが落とされるのもわかる気がする」
そして、メルヴィーナは玉座から立つと歩いてアスタロトに近づき、そばに行くと足を止め、前に立つ。
アスタロトは口角をつりあげる。
(これはチャンス…自分から近づくとは、愚かなり…フフ…)
メルヴィーナは、アスタロトのえりもとを両手で掴んで持ち上げ、アスタロトの目を見る。
アスタロトは自分を見上げるメルヴィーナを見る。
「チャーム(魅了)」
「な!か、からだが…!動かない…!まさか…!わたしがこんな奴に…!」
(興奮している…!…だと?!)
メルヴィーナは抵抗できないアスタロトを楽しそうに眺める。
(くっ!絶好のチャンスなのに…!至近距離なのに…!アタマが…!頭の中が……メルヴィーナの事でいっぱいだぁああああああ!)
「ぐぅおおおおおおおおおおおおおお!」
冷静が売りのアスタロトは自分の強さを奪われ、苦しんでいる。
「さようなら、アスタロト」
「ぐぅ……」
メルヴィーナは、アスタロトを巻き込み強大な竜巻を起こす。
「あああああああああああああああああああ!」
「ふぅわぁあああああああああああああああ!」
メルヴィーナを中心に大きな竜巻が二人を巻き込み、竜巻は二人を刻み風は赤く染まる。竜巻が収まり、血まみれになった玉座の間に立っているメルヴィーナ。彼女は笑顔だった。
声には出さず、口は開いて笑みを浮かべる。その光景を見て、セバスがたずねる。
「魔王様……次のプランは……」
すると血まみれのメルヴィーナが口角をつりあげふりかえる。
「そうね……次は……」
そのころアスタロトは……
「くっ…!なんという強さ…!念のために分身を残しておいてよかった…今回は負けましたが…次は…次こそは…!」
アスタロトは小さな体で城から離れ空へ飛ぶ。
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