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57.合縁 八
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カシャ。
明美がスマホで四人をまとめて撮った。
「明美さん、なんすか急に?」
「ん? 記念撮影。アキの写真はないけれど、みんながアキを思い出しているところ。と、それを聞かされているお客君。アキがいたっていう記録よ」
「ササイさんに送るんすか?」
「今は送らない。二十四時間仕事中だから。帰って来たら……気が向いたら見せるかもね」
「アキは文化祭を最後に消えたからねえ」
「幻のボーカルだよね。文化祭の時も俺たちの名前だけで参加申し込みしたから、記録にはないし」
「今考えたら、スゲーずるだよね。プロに手伝ってもらって、しかもササイさんが演奏までしちゃってさ」
「うひょひょひょ。ササイさん、絶対ムキになっていたよね。高校生相手に本気出しちゃって」
「ケン、それを言うなら妥協しない、だろ。何やってもかっこいいんだよ」
「バカねえ。子供っぽいんでしょ」
皆で好き勝手言っているが、楽しくて仕方がないのが晴久には伝わってくる。
「俺たちが揃って文化祭の思い出話をするの、初めてじゃない? なんとなく避けてきたっていうか、明美さんとは話しにくくてさ」
「明美さん、石崎さんとも話すことはなかったんですか?」
「お客君はアタシの苦労なんてなーんにも知らないから、お気楽に言ってくれるわよねー。アタシにとってアキは黒歴史なの。だから思い出は全部封印していたの。でも……」
四人は明美を見た。何か思い出していたのか、明美は視線に気づいてハッとする。
「今なら、『ササイ連合』と一緒に文化祭に出たアキって、勲章かもね」
明美は、清楚な美少女の面影で微笑んだ。その瞬間、明美の中で堰き止められていたアキとしての時間が、今の明美の中で流れ始めたようにも見えた。
勲章。
きっと明美は、アキの思い出と一緒に生きていける。
「明美さんが、『ササイ連合』って呼んだあ……」
憲次郎は感極まっていた。
「泣くな下僕ー!」
「お前もだー!」
ツインズと憲次郎は泣きながらじゃれ合い始めた。
「なんか今、やっと文化祭の打ち上げね。お客君のおかげ。話聞いてくれてありがとう。あーあ、あの頃楽しかったな。今になってしみじみ思う。お客君にも、そういうのある?」
「僕は……きっとこれからいっぱいになります」
「……お客君はいつも前向きで強気ね。ササイさんが老後保障契約したくなるの、わかるわ」
明美はいつものイジワルな目で笑った。
「お客君はササイさんに気に入られてていいよなー」
憲次郎が晴久に絡み始めた。
「憲次郎さん、お酒入っていませんか?」
「ケン、店の匂いだけで酔えるから」
トオルが笑って答えた。
「お客君、俺ね、基本ササイさんに嫌われてるっぽいの」
「ケン、カッコイイって認められていたじゃん」
「だからそれ、いい意味じゃないんだってば」
トオルと憲次郎の会話に明美が一言挟んだ。
「別にササイさん、ケンちゃんのこと嫌っていないわよ。苦手なだけ」
全くフォローになっていない。
しゅんとする憲次郎は、晴久に力なく笑った。
「俺ね、初めてササイさんに会った時にいきなり言われたんだよ。『君みたいにカッコイイ子は苦手です』って」
「は?」
一瞬、石崎のぶっきらぼうな態度が目に浮かんだ。
「それ、褒め言葉ですか?」
「だから全然いい意味じゃないんだってば。まぁ、ササイさんも自分にコンプレックスがあるのかなーって前向きに聞き流したけど。昔ササイさんがバンドをやっていた時のメンバーに、俺みたいなデカくてゴツい人がいて、そっちの方が断然目立っていたからさ」
「ササイさんはそんなに心狭くないぞー。存在感あったぞー」
「ケンがアキラに似ているなんて思い上がりだー」
ツインズがすかさず反論する。
「アキラ?」
晴久にワタルが答えた。
「バンドの中心メンバー。ササイさんの幼馴染みで、ずっと一緒にバンドを組んできた人だよ。雑誌のインタビューで、運命の出会いだって言っていた相手だね」
「あーもうっ、ボケケン! ジメジメした話しないでよ。文化祭の打ち上げが台無しでしょう? もう今日はお開き!」
明美の怒声で散会になった。
店を出る直前、晴久は明美にもアキラについて尋ねた。
「アキラ? 気になる?」
「いえ……あ、はい」
「素直で結構。もうササイさんとは関わりのない人よ。ササイさんにとっても、完全に縁が切れている人。ササイさん、アタシが初めて会った時にアキって名乗ったら、それだけですごく嫌そうな顔をしたのよ。あはは。ほーんと気が小さいんだから」
幼馴染みで一緒にバンドを組んで、運命の出会いだと石崎が信じた男。バンドの解散で縁が切れて今は関わりがないというが、体格の似た憲次郎や名前の似た明美を露骨に嫌がるほど石崎に影響を与えた存在。
どんな人なんだろう。
明美がスマホで四人をまとめて撮った。
「明美さん、なんすか急に?」
「ん? 記念撮影。アキの写真はないけれど、みんながアキを思い出しているところ。と、それを聞かされているお客君。アキがいたっていう記録よ」
「ササイさんに送るんすか?」
「今は送らない。二十四時間仕事中だから。帰って来たら……気が向いたら見せるかもね」
「アキは文化祭を最後に消えたからねえ」
「幻のボーカルだよね。文化祭の時も俺たちの名前だけで参加申し込みしたから、記録にはないし」
「今考えたら、スゲーずるだよね。プロに手伝ってもらって、しかもササイさんが演奏までしちゃってさ」
「うひょひょひょ。ササイさん、絶対ムキになっていたよね。高校生相手に本気出しちゃって」
「ケン、それを言うなら妥協しない、だろ。何やってもかっこいいんだよ」
「バカねえ。子供っぽいんでしょ」
皆で好き勝手言っているが、楽しくて仕方がないのが晴久には伝わってくる。
「俺たちが揃って文化祭の思い出話をするの、初めてじゃない? なんとなく避けてきたっていうか、明美さんとは話しにくくてさ」
「明美さん、石崎さんとも話すことはなかったんですか?」
「お客君はアタシの苦労なんてなーんにも知らないから、お気楽に言ってくれるわよねー。アタシにとってアキは黒歴史なの。だから思い出は全部封印していたの。でも……」
四人は明美を見た。何か思い出していたのか、明美は視線に気づいてハッとする。
「今なら、『ササイ連合』と一緒に文化祭に出たアキって、勲章かもね」
明美は、清楚な美少女の面影で微笑んだ。その瞬間、明美の中で堰き止められていたアキとしての時間が、今の明美の中で流れ始めたようにも見えた。
勲章。
きっと明美は、アキの思い出と一緒に生きていける。
「明美さんが、『ササイ連合』って呼んだあ……」
憲次郎は感極まっていた。
「泣くな下僕ー!」
「お前もだー!」
ツインズと憲次郎は泣きながらじゃれ合い始めた。
「なんか今、やっと文化祭の打ち上げね。お客君のおかげ。話聞いてくれてありがとう。あーあ、あの頃楽しかったな。今になってしみじみ思う。お客君にも、そういうのある?」
「僕は……きっとこれからいっぱいになります」
「……お客君はいつも前向きで強気ね。ササイさんが老後保障契約したくなるの、わかるわ」
明美はいつものイジワルな目で笑った。
「お客君はササイさんに気に入られてていいよなー」
憲次郎が晴久に絡み始めた。
「憲次郎さん、お酒入っていませんか?」
「ケン、店の匂いだけで酔えるから」
トオルが笑って答えた。
「お客君、俺ね、基本ササイさんに嫌われてるっぽいの」
「ケン、カッコイイって認められていたじゃん」
「だからそれ、いい意味じゃないんだってば」
トオルと憲次郎の会話に明美が一言挟んだ。
「別にササイさん、ケンちゃんのこと嫌っていないわよ。苦手なだけ」
全くフォローになっていない。
しゅんとする憲次郎は、晴久に力なく笑った。
「俺ね、初めてササイさんに会った時にいきなり言われたんだよ。『君みたいにカッコイイ子は苦手です』って」
「は?」
一瞬、石崎のぶっきらぼうな態度が目に浮かんだ。
「それ、褒め言葉ですか?」
「だから全然いい意味じゃないんだってば。まぁ、ササイさんも自分にコンプレックスがあるのかなーって前向きに聞き流したけど。昔ササイさんがバンドをやっていた時のメンバーに、俺みたいなデカくてゴツい人がいて、そっちの方が断然目立っていたからさ」
「ササイさんはそんなに心狭くないぞー。存在感あったぞー」
「ケンがアキラに似ているなんて思い上がりだー」
ツインズがすかさず反論する。
「アキラ?」
晴久にワタルが答えた。
「バンドの中心メンバー。ササイさんの幼馴染みで、ずっと一緒にバンドを組んできた人だよ。雑誌のインタビューで、運命の出会いだって言っていた相手だね」
「あーもうっ、ボケケン! ジメジメした話しないでよ。文化祭の打ち上げが台無しでしょう? もう今日はお開き!」
明美の怒声で散会になった。
店を出る直前、晴久は明美にもアキラについて尋ねた。
「アキラ? 気になる?」
「いえ……あ、はい」
「素直で結構。もうササイさんとは関わりのない人よ。ササイさんにとっても、完全に縁が切れている人。ササイさん、アタシが初めて会った時にアキって名乗ったら、それだけですごく嫌そうな顔をしたのよ。あはは。ほーんと気が小さいんだから」
幼馴染みで一緒にバンドを組んで、運命の出会いだと石崎が信じた男。バンドの解散で縁が切れて今は関わりがないというが、体格の似た憲次郎や名前の似た明美を露骨に嫌がるほど石崎に影響を与えた存在。
どんな人なんだろう。
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