182年の人生

山碕田鶴

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2043ー2057 高瀬邦彦

88-(3)

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「この世が終わるというのか?」
「俺は預言者ではない。この世を形づくるのは人間の意思だ。終焉とはひとつの可能性だ」
「不法滞在者である私の存在がこの世を壊すとでもいうのか?」
「お前ひとりでこの世の未来が決まるわけがなかろう」
「だが、不具合とは、私の存在が世界を歪ませるという意味ではないのか?」
「お前の存在が許されないこととこの世の終焉とは別問題だ。混ぜて語るな。不具合ひとつで壊れるほどこの世は単純ではないぞ」

 答えるのも億劫だというふうに、私の周囲の影が引いた。

「私は長くこの世に在り続けたことで知を蓄積し、継続してアンドロイドを作ってきた。イオンは私が存在した証だ。普通の人間が一代で成せることではない。イオン技術は世界に影響を与えた。本来いるはずのない私が生き続けたことで世界が変わり、それが終焉に向かう原因になった可能性はないのか?」
「なんだ、お前はこの世を破滅させる心当たりでもあるのか?  お前がこの世界に影響を与えたのは確かだ。だが、不法滞在であろうとも今この世に生きる一人に過ぎない。予定された未来など元々ない。お前がいてもいなくても、世界は常に正解なのだ。消滅も破滅もまた正解だ。お前は終焉を感じるのだろう?  このまま進めばお前の予感どおり終わりが来るだろう。だが、予感は予測だ。吉澤識が死を迎えた時に未来を見たのと同じ原理だ。見た時点のデータから計算される予測値でしかない。百四十年前には説明が難しかったが、今ならスーパーコンピュータやらAIやらがシミュレーションしてくれると言えばイメージできるか?  実際に未来を確定させるのは、その時に生きる人間だ。どうなるのかは、なってからしかわからない。そして、俺には関係ない」

 つまらなそうに答える死神は、この世が終わろうとも全く意に介さないのだろう。
 だが、私をあの世に誘うお前がなぜ私の生を肯定する?  こうして現れるたびに、なぜ私を満たす?

「カイ、私とはなんだ?」

 死神が冷笑したような気がした。

「それを俺に訊くのか?  自分で答えを探すためにこの世にいるのではないのか?  答え合わせをしてあの世へ帰る気になったか?」
「私が何者かは自分で決める。お前にとって、お前から見た私とはなんだ?」
「俺から見た?  そんなことに意味はない」
「私には意味がある。せっかく死神のお前と知り合えたのだ。お前をもっと知りたい。カイからはこの世がどう見えているのか知りたい」
「俺と知り合いか。ずいぶんと仲が良さそうではないか。都合のいい解釈だな。俺をもっと知りたい?  それこそがお前だ。知の欲の塊だ」

 すっと影が伸びて私の頬に触れた。唇とこめかみを這う感触に震える私を見て、死神は楽しんでいる。

「私とは、なんだ?」

 もっと、根源的な答えが欲しい。私はあの世やその先の世界について訊いているのではない。私が生きるこの世を知りたいのだ。この世を外から見ることのできるお前にはどう映っているのか?
   カイには何が見えている?
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