182年の人生

山碕田鶴

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2043ー2057 高瀬邦彦

84ー(3)

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 なんだその隙のない笑い方は。今さらながら、やることがいちいち気に入らない。

「酷い言い草だな。哀れなあなたを助けてやろうという善良な心くらい私にもある」
「あいにく私は人の善意を信じない。常に疑え。仲間こそ疑え。そうやって生きてきた。親族を疑い忘れて死んだおかげで余計に疑り深くなった。お前には常に胡散臭うさんくささを感じる。悪意はなさそうだが、情で動くとも思えない。既に一度、情に流されてお前は失敗した。二度はない。お前は常に計算している。違うか?」

 高瀬は平然と私を見続ける。

「お前、意識の中に入り込んでいる私にさえ見せないものがたくさんあるだろう?  お前の意識の中は、拷問されても絶対開かない鉄壁の倉庫だらけだ。本社でヒミコに会った時も、お前の心は完全に閉ざされた。あんな技をどこで磨いた?  ……相馬か?  そうか、想いを隠す苦行は相当だったか。ククッ」
「立場をわきまえろ。あなたはずいぶんと偉そうではないか」
「当たり前だ。私は常に自分に有利な状況を探っている。一瞬でもお前の心が揺れて隙ができれば、お前を手玉に取れるかもしれないではないか」

 高瀬のあきれ顔から深い溜息が漏れた。心底私を馬鹿だと思ったろう?  もっと私を見下して、つまらない人間だと思い知れ。

「なあ、私は哀れか?  この世に醜くしがみついてただ生きることを望む私は、お前が情けをかけたくなるほど哀れか?」

 伸ばした手で高瀬の頬に触れる。一文字に結ばれた薄い唇に親指を這わす。
 ああ、こうして私から触れるのは初めてか。我ながら悪趣味だ。
 高瀬はその手を強く掴んで止めた。

「鬱陶しい。私に全部吐けと言うなら、あなたも下らない小細工はやめろ。私の中で生きるなら、相応に働いてもらう。それだけだ」
「意図を知らされず駒として使われるのはごめんだ。初めに全て教えろ」
「ずいぶんと必死だな」
「無駄な探り合いをして疑心暗鬼になりたくないだけだ。それが原因でお前を死なせることになったら寝覚めが悪いだろう?」
「私の身体から出たがっているのに、私に死なれるのは嫌か?  やはり寂しがりか」
「ただの経験則だ」

 お前は案外世話焼きだ。お前の基準は理解できないが、自分より下だと見れば警戒はしない。むしろ庇護の対象だ。
 お前はいつでも私を追い出せる。その余裕が、哀れな私を追い出させない。
 その歪んだ優しさで私を照陽から守りきれ。いつか私がここを出て行く、その時まで。
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