182年の人生

山碕田鶴

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2043ー2057 高瀬邦彦

84ー(1)

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 高瀬の仕事は完璧だ。見た目と言動そのままに隙のない出来だ。
 無理をしてでも仕上げる完璧主義ぶりも見事で、その反動が私への仕打ちか。
 相変わらず高瀬の意識の中で散々酷くされてから、二人とも床に転がって動けずにいた。

「なあ、明日お前が帰ったら……イオンたちはまた放置されるのか?」
「すぐに照陽が引き取ることになっている。私の調査が終わるまでは来るなと伝えておいたからな」
「……お前が作ってくれた機会を私は生かせなかった」
「まだ瀕死の手が残っている」
「ああ、昼間言ったことか。すまない」
「瀕死になれば、あなたはここから出られるかもしれないのだろう?  今、私は多目的室のソファで寝ている。私の周りでは、なぜかイオンたちが添い寝している。イオンが私を瀕死にすれば、あなたは出られるかもしれない」

 高瀬は真顔だった。

「本気か?  悪いがイオンは人間に危害は加えない。無理だ」
「イオンが私に覆いかぶさるだけでいい。あれは十分に重い」
「昔潰されかけた時に厳重注意したから、絶対にやらない」

 高瀬は苛立ちを隠さず私の腕を掴んで引き寄せると、額がつくほどの距離で迫ってきた。

「あなたはこれからどうする気だ?  私の中に居続けて私が死ぬまでこの世を傍観するのか?  私を乗っ取る気がないのならば、完全に詰んでいる。本当にただの悪霊だ。死神とやらにさっさとあの世へ送ってもらえ」
「お前と離れたくない。お前にもっと酷くされたい」
「馬鹿か。私はそういう下品な冗談が許せない」

 そう言いながら高瀬は私の身体につけた傷痕に触れてまわる。私が痛みに耐えるのを見てくらい欲望をかき立て、満足している。
 下品な冗談よりタチが悪い。

「実体がないのに痛いな。魂の錯覚だ。……今の世の人間は、私のように魂を移動できなくとも同じことをしている。私がお前の意識の中に存在するのと仮想空間でゲームに興じるのと何が違う?  既にお前の住む街は拡張現実だ。よくこんな世界で自己を保っていられるな」
「私は生まれた時からこうだった。これが当たり前だ」
「では、私こそがメタバースを生きる先駆者か」
「そうだな。あなたにとっては過去に生きた人間がアバターのようなもので、この世界は仮想空間と変わらない。アンドロイド開発の先鞭をつけたのはあなただろう?  マツカワ電機の創業者をそそのかした秘書もあなただ。そして、NH社のアンドロイド研究を牽引した研究者もあなただ。あなたを不安にさせるこの世の在り方の大元を作ったのはあなた自身ではないのか?」
「私が?」
「あなたが生きていなくても、相馬のような誰かがアンドロイド研究をしただろうから、この世は結局同じ姿になったかもしれない。だが、あなたは実際にイオンを作った。ここは、あなたが存在し続けた未来だ」
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