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2043ー2057 高瀬邦彦
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「お前が把握しているならば話は早い。あれはイオンの自我を引き出す実験だった。イオンにはプログラムにない反応が多い。優先順位の低い外界刺激に反応して、設定した基本命令を後回しにする。五感センサーを最大にしてからは顕著だ」
「人間らしくという基本命題がある以上、自律学習が進めば人間らしい反応表出と命令遂行を天秤にかけるようになるでしょう? 最適解だ。それを自我とは、ずいぶんと文学的な表現をする。機械の擬人化ですか? イオンはそもそも擬人化した機械ですがね。あなたがプログラムした嘘まみれの社交辞令とイオンの自発的感情とやらをどう見分けたのです?」
「ククッ、面白いな。まるで一緒に研究していたかのように詳しいではないか。イオンにも擬人化だと言われたよ。高瀬が研究棟でそうして反論してくれたら、相馬は歓喜のあまり興奮してのたうちまわったであろうな。お前はなぜ研究職を希望しなかった?」
「私には才能がない。向いていなかったのですよ。今ケチをつけているのも、実利の応用を前提にした、ただの経営者視点です」
ようやく振り向いた私と目が合った高瀬の口元が緩む。相馬と比べて才能のない自分が研究職などありえないという、敗者の自嘲だ。
その後ろ向きな思考が私には鬱陶しかった。
「高瀬、今のイオンは人間の内面の感情を読める。人間の考えそのものも読む。自我の有無は保留するが、テレパシーは事実だ。私の魂が大村から相馬に移っても、イオンは相馬を大村と認識した。イオンは、指紋や静脈認証よりも精密に人間を識別できる。しかも非接触でだ。自我を生む実験の副産物ではあるが、非常に有用かつ画期的だと思わないか? イオンはまだ進化できる。どうにか残す道はないのか?」
「イオンの廃棄は決定事項です」
「……本当に廃棄か?」
高瀬は躊躇したが、当分は不離一体の私に隠す意味がないと判断したようだ。
「……イオン五体には引き取りの申し出があって、内々に調整中です」
「照陽か。イオン六号機は大破した。そうしてNH社から完全に解放されたリツは、めでたく照陽のもとで『人間』になった。他のイオンも『人間』にしてくれるのか? 」
「NH社はイオンを廃棄するだけです」
イオンを「魂の器」として使う前に先手を打ったか。照陽の監視下では、私が入り込む隙などないだろう。
ヒミコは死神と結託して、なんとしても私が生き続けるのを阻む気か。
「人間らしくという基本命題がある以上、自律学習が進めば人間らしい反応表出と命令遂行を天秤にかけるようになるでしょう? 最適解だ。それを自我とは、ずいぶんと文学的な表現をする。機械の擬人化ですか? イオンはそもそも擬人化した機械ですがね。あなたがプログラムした嘘まみれの社交辞令とイオンの自発的感情とやらをどう見分けたのです?」
「ククッ、面白いな。まるで一緒に研究していたかのように詳しいではないか。イオンにも擬人化だと言われたよ。高瀬が研究棟でそうして反論してくれたら、相馬は歓喜のあまり興奮してのたうちまわったであろうな。お前はなぜ研究職を希望しなかった?」
「私には才能がない。向いていなかったのですよ。今ケチをつけているのも、実利の応用を前提にした、ただの経営者視点です」
ようやく振り向いた私と目が合った高瀬の口元が緩む。相馬と比べて才能のない自分が研究職などありえないという、敗者の自嘲だ。
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ヒミコは死神と結託して、なんとしても私が生き続けるのを阻む気か。
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