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2043ー2057 高瀬邦彦
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相馬智律の死去に伴い、イオン型アンドロイドの研究開発及び研究棟の使用を終了し、今年度限りにて予算支出も停止する。事業報告は実験中の案件も含め統括本部に一任し、速やかに総括すること。
「よって今週末には退院して、すぐに研究施設へ行かなければならない」
高瀬の意識の中は明るいだけの何もない空間のはずである。しかし、私に申し送りをする背広姿の家主のせいで会議室にでもいる気分になり、全く寛げない。
高瀬は寝ている間も神経が休まらないな。
「その話なら、昼間私も聞いていた。退院理由が出張とは、酷い会社だな」
「仕方がないだろう。イオンの屋外試験中に想定外の異常が発生して爆発事故が起きたのだから。事故調査委員会が動く前に処理しろということだ」
「何が爆発事故だ。イオンが爆発するなど、そんな失態があるか⁉︎ 誰の筋書きだ? 暗殺現場に高瀬がいたのは、爆発事故とやらの目撃者になるためのアリバイ作りか? 敷地内の誰かが発砲音を聞いたとしても、イオンの事故だと言う気だったか。相馬の晩節を汚して、お前は悔しくないのか?」
「……シキ、元凶はあなただろう?」
高瀬は無表情にそれだけ言った。相馬が暗殺対象とされる以前に、私が相馬の身体を乗っ取ったことが根本原因であると告げている。
相馬が倒れる瞬間をまた思い出させてしまっただろうか。
相馬智律は正式に事故死とされた。イオン六号機が屋外試験中に爆発大破し、現場にいた研究棟所長の相馬が死去、同行していた統括本部長の高瀬は重傷を負ったことになっている。
本部では重大事案と受け止め、事故調査委員会設立を決定。委員選定に先立ち、イオン型アンドロイドの研究中止と残る五体の廃棄を発表した。
これらは、あくまで社内通達である。世間に広く公表されることはないだろう。
BS社の関わりについては、当然触れられていない。
「お前の手術や相馬の検死は、照陽が手配してBS社がやったのだろう?」
「BS社の母体は医療系企業で提携病院も多い。私は別の病院で手術をしてここへ転院となったようだが、どちらもBS社の系列だから情報統制しやすいだろう。この病院のカルテには、私が銃撃された記録はない。大破したイオンの金属片で負傷したことになっていた。真相を知るのは、ヒミコと直接面識のあるごく一部の幹部のみだ」
「よくカルテの記録まで知っているな……ああ、沢田さんか」
高瀬が一瞬の笑顔で協力者にした看護師だ。高瀬は他にも数人の協力者を作ったようで、それぞれ個別に同じ依頼をして情報を照合しているらしい。
今の私は高瀬と身体の感覚を共有しているが、こうして高瀬の意識の中で対面するたびエネルギーを吸い取られてかなり衰弱していた。日中、眠るように意識を漂わせて気力を回復させるのがやっとで、高瀬の行動全てを把握できる状態にはない。
高瀬は私が纏う白布を強引に掴んで引き寄せた。
私についた傷痕は、高瀬を満足させたらしい。痛みを思い出させるように、丁寧に強く深く、ひとつずつ傷痕に触れてくる。
高瀬の意識の中で再現された肉体に本来痛みはない。夢の中の世界と同じようなものだ。これは私の意識に刻まれた幻覚だ。
「痛っ……」
痛みに耐える私の姿は、高瀬をさらに満足させるらしい。
このままでは私が衰弱していくばかりだ。早くこの身体から出てイオンに移らなければ……。
死神とはまた違う恐怖が私を支配していた。
「よって今週末には退院して、すぐに研究施設へ行かなければならない」
高瀬の意識の中は明るいだけの何もない空間のはずである。しかし、私に申し送りをする背広姿の家主のせいで会議室にでもいる気分になり、全く寛げない。
高瀬は寝ている間も神経が休まらないな。
「その話なら、昼間私も聞いていた。退院理由が出張とは、酷い会社だな」
「仕方がないだろう。イオンの屋外試験中に想定外の異常が発生して爆発事故が起きたのだから。事故調査委員会が動く前に処理しろということだ」
「何が爆発事故だ。イオンが爆発するなど、そんな失態があるか⁉︎ 誰の筋書きだ? 暗殺現場に高瀬がいたのは、爆発事故とやらの目撃者になるためのアリバイ作りか? 敷地内の誰かが発砲音を聞いたとしても、イオンの事故だと言う気だったか。相馬の晩節を汚して、お前は悔しくないのか?」
「……シキ、元凶はあなただろう?」
高瀬は無表情にそれだけ言った。相馬が暗殺対象とされる以前に、私が相馬の身体を乗っ取ったことが根本原因であると告げている。
相馬が倒れる瞬間をまた思い出させてしまっただろうか。
相馬智律は正式に事故死とされた。イオン六号機が屋外試験中に爆発大破し、現場にいた研究棟所長の相馬が死去、同行していた統括本部長の高瀬は重傷を負ったことになっている。
本部では重大事案と受け止め、事故調査委員会設立を決定。委員選定に先立ち、イオン型アンドロイドの研究中止と残る五体の廃棄を発表した。
これらは、あくまで社内通達である。世間に広く公表されることはないだろう。
BS社の関わりについては、当然触れられていない。
「お前の手術や相馬の検死は、照陽が手配してBS社がやったのだろう?」
「BS社の母体は医療系企業で提携病院も多い。私は別の病院で手術をしてここへ転院となったようだが、どちらもBS社の系列だから情報統制しやすいだろう。この病院のカルテには、私が銃撃された記録はない。大破したイオンの金属片で負傷したことになっていた。真相を知るのは、ヒミコと直接面識のあるごく一部の幹部のみだ」
「よくカルテの記録まで知っているな……ああ、沢田さんか」
高瀬が一瞬の笑顔で協力者にした看護師だ。高瀬は他にも数人の協力者を作ったようで、それぞれ個別に同じ依頼をして情報を照合しているらしい。
今の私は高瀬と身体の感覚を共有しているが、こうして高瀬の意識の中で対面するたびエネルギーを吸い取られてかなり衰弱していた。日中、眠るように意識を漂わせて気力を回復させるのがやっとで、高瀬の行動全てを把握できる状態にはない。
高瀬は私が纏う白布を強引に掴んで引き寄せた。
私についた傷痕は、高瀬を満足させたらしい。痛みを思い出させるように、丁寧に強く深く、ひとつずつ傷痕に触れてくる。
高瀬の意識の中で再現された肉体に本来痛みはない。夢の中の世界と同じようなものだ。これは私の意識に刻まれた幻覚だ。
「痛っ……」
痛みに耐える私の姿は、高瀬をさらに満足させるらしい。
このままでは私が衰弱していくばかりだ。早くこの身体から出てイオンに移らなければ……。
死神とはまた違う恐怖が私を支配していた。
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