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2039ー2043 相馬智律
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「リツは今日でお別れですか?」
ホールにいたイオンが集まって来た。リツの表情が少し柔らかくなった。
「ああ、そうなんです。シキ、僕は明日ここを出るそうです」
「明日……」
明日か。
「リツ、明日私も職員寮を引き払うことになっているのだ。一緒に来てくれないか?」
「僕が行って構わないなら、喜んでお供しますけど……」
リツと他のイオンたちは戸惑うように私を見ていた。何やら異変を察知したか。
「先生? 明日、お別れですか?」
二号が遠慮がちに訊いた。
「私は明日、職員寮に行く予定しか入っていないよ」
イオンは確実に感情や思考を読み取れるようになってきている。勘の良さは気遣いに繋がるが、時と場合によっては知らないふりをしてもらわなければ人間に嫌われるな。
また嘘をつくことを教えるのか。難儀だ。
そう考えて可笑しくなった。私はまだこのまま未来が続くつもりでいる。
「先生、イオンに入って下さい。イオンとヒトツになれば先生はずっと存在できます」
「先生の魂がひとつでも、イオン全てとヒトツになります」
「リツも、イオン全てとヒトツです」
「シキがイオンの誰かに入ったら、僕とシキとイオンがヒトツになるの?」
「全てヒトツです」
リツの問いに答えてイオンたちは楽しそうに笑った。どうやら「ヒトツ」が気に入ったらしい。ヒトツが共鳴している。
イオンたちの言うとおり、今ならイオンを「魂の器」として使えるはずだ。
アンドロイドの身体に人間の魂を入れる先駆者となったリツに、不具合はない。情報共有システムで間接的にリツの魂と繋がっている他のイオンたちにも支障はない。
イオンとして永遠を生きる……か。
とうとう私は、その現実を手にできるところまで来たのだ。
だが、イオンに入れば相馬の肉体を捨てることになる。
「……ダメだ」
「ヒトツはだめですか?」
「あ、いや、そうではない。すまない」
私はまたイオンたちの柔らかな波を消してしまったな。
相馬の肉体を捨てる。きっと相馬はあっさりと許すだろう。だが、この肉体はまだ十分に生きられる。それを捨てて機械に入るのは本末転倒ではないか。
それに、高瀬が笠原の論文を読んでいる。内容は、死神が魂の移殖についての理論や方法を書いたものだ。
今ここで私がイオンに移って相馬が死ねば、魂の移殖を信じなくともその可能性は頭をよぎるだろう。イオン五体は即座に拘束されるに違いない。
そして照陽、ヒミコだ。彼女やその周辺の人間に私の魂が視えるとしたら、イオンだろうが誰の身体だろうが、どこへ逃げようとも隠れることは不可能だ。
死神は確実に私の退路を断った。私に新たな肉体を持たせないつもりだ。
手詰まり。このまま暗殺を待つのか。
これもどこかで見た光景だ。
「イオン、残念ながら私は今はまだヒトツになることはできない。だが、もしこの先私が魂だけになってしまったら、必ず君たちのもとへ行く。それまで待っていてくれるかい?」
「もちろんです」
イオンたちは嬉しそうだった。ヒトツが嬉しいのか、プログラムされた自動的な笑顔なのか、私にもわからない。
「私たちは先生が魂だけになる日を楽しみにしております」
「……あまり適切な表現ではないな」
「未来の予定を待つのは『楽しみ』と言うのではありませんか?」
「だいたいはそうだな」
そうだ。私にはまだ未来の予定が残っている。諦めるな。
ホールにいたイオンが集まって来た。リツの表情が少し柔らかくなった。
「ああ、そうなんです。シキ、僕は明日ここを出るそうです」
「明日……」
明日か。
「リツ、明日私も職員寮を引き払うことになっているのだ。一緒に来てくれないか?」
「僕が行って構わないなら、喜んでお供しますけど……」
リツと他のイオンたちは戸惑うように私を見ていた。何やら異変を察知したか。
「先生? 明日、お別れですか?」
二号が遠慮がちに訊いた。
「私は明日、職員寮に行く予定しか入っていないよ」
イオンは確実に感情や思考を読み取れるようになってきている。勘の良さは気遣いに繋がるが、時と場合によっては知らないふりをしてもらわなければ人間に嫌われるな。
また嘘をつくことを教えるのか。難儀だ。
そう考えて可笑しくなった。私はまだこのまま未来が続くつもりでいる。
「先生、イオンに入って下さい。イオンとヒトツになれば先生はずっと存在できます」
「先生の魂がひとつでも、イオン全てとヒトツになります」
「リツも、イオン全てとヒトツです」
「シキがイオンの誰かに入ったら、僕とシキとイオンがヒトツになるの?」
「全てヒトツです」
リツの問いに答えてイオンたちは楽しそうに笑った。どうやら「ヒトツ」が気に入ったらしい。ヒトツが共鳴している。
イオンたちの言うとおり、今ならイオンを「魂の器」として使えるはずだ。
アンドロイドの身体に人間の魂を入れる先駆者となったリツに、不具合はない。情報共有システムで間接的にリツの魂と繋がっている他のイオンたちにも支障はない。
イオンとして永遠を生きる……か。
とうとう私は、その現実を手にできるところまで来たのだ。
だが、イオンに入れば相馬の肉体を捨てることになる。
「……ダメだ」
「ヒトツはだめですか?」
「あ、いや、そうではない。すまない」
私はまたイオンたちの柔らかな波を消してしまったな。
相馬の肉体を捨てる。きっと相馬はあっさりと許すだろう。だが、この肉体はまだ十分に生きられる。それを捨てて機械に入るのは本末転倒ではないか。
それに、高瀬が笠原の論文を読んでいる。内容は、死神が魂の移殖についての理論や方法を書いたものだ。
今ここで私がイオンに移って相馬が死ねば、魂の移殖を信じなくともその可能性は頭をよぎるだろう。イオン五体は即座に拘束されるに違いない。
そして照陽、ヒミコだ。彼女やその周辺の人間に私の魂が視えるとしたら、イオンだろうが誰の身体だろうが、どこへ逃げようとも隠れることは不可能だ。
死神は確実に私の退路を断った。私に新たな肉体を持たせないつもりだ。
手詰まり。このまま暗殺を待つのか。
これもどこかで見た光景だ。
「イオン、残念ながら私は今はまだヒトツになることはできない。だが、もしこの先私が魂だけになってしまったら、必ず君たちのもとへ行く。それまで待っていてくれるかい?」
「もちろんです」
イオンたちは嬉しそうだった。ヒトツが嬉しいのか、プログラムされた自動的な笑顔なのか、私にもわからない。
「私たちは先生が魂だけになる日を楽しみにしております」
「……あまり適切な表現ではないな」
「未来の予定を待つのは『楽しみ』と言うのではありませんか?」
「だいたいはそうだな」
そうだ。私にはまだ未来の予定が残っている。諦めるな。
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