182年の人生

山碕田鶴

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2039ー2043 相馬智律

68-(2)

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「総帥は教団代表でもある……のだよな?」
「僕はまだ詳しくは知りません。でも、ヒミコさんの周りには不思議な力を持つ人が集まっているみたいですよ」
「ヒミコ?」
「総帥の名前です。ヒミコさんはカイの名を知っていました。いつも笠原様って呼んでいたけれど」

 ヒミコは偽名であろう。本名を知られて呪われることは当然避けるはずだ。

「つまりヒミコは、カイが死神でリツが相馬の魂の入ったアンドロイドだと承知しているのか」
「たぶん。あと、NH社とBS社のスポンサーで、国家元首の人格移殖のコーディネーターで……って本部にいた職員が認識していました」

 リツは、他人の思考から直接情報が入手できるようになったのか。

「ヒミコさんの考えは読めませんよ。でも、カイと約束したっていうのは、わざわざテレパシーみたいに伝えてくれたんです」
「そうか。とにかくリツはここから出られるのか。ならば千年安泰だな。カイが約束したなら、大丈夫だ」
「シキは、カイを信頼しているんですね」

 リツは嬉しそうだった。

「信頼ではない。単なる事実だ」

 あれは人間を超えた存在だ。死神が名を教えたのであれば、ヒミコは全てを受け入れ理解しているだろう。
 立会人として現れたヒミコを思い出した。
   淡紅色のワンピーススーツで大人びて見えたが、まだ二十歳を過ぎたばかりくらいであろうか。控えめながら意思の強そうな、柔らかな微笑みを絶やさず全てを見通したような、高貴で近寄りがたい雰囲気だった。
   あれが、照陽グループの現在の総帥か。
   会議室で私とリツが話す様子を見守っていた彼女は、まるで全て聞こえているかのようだった。私と目が合っても、逸らすことなくまっすぐこちらを見返してきたな。私が長生きなのも当然承知か。 

「……そうか、照陽か」

   私を消そうとしているのは照陽だ。そう考えて合点がいった。
   ヒミコは死神に代わって私を消す気なのだ。死神がこの世の些事さじに関わり国家元首をアンドロイドにしてやったのは、照陽が私を消す口実を作るためか。いや、照陽への見返りか。
   世俗にまみれて人間の欲得に手を貸すとは、死神もずいぶんと落ちぶれたものだな。
   ……あるいはリツを保護してもらうための対価か。
   いずれにしても照陽グループはどこまで影響力があるのか。ただのスポンサーではあるまい。
   占い師の組合から始まった団体に教祖はいないが、教師たちは顧客でもある企業や政治関係者から広く支持を集めている。
   照陽に勢力拡大の動きは元々ない。それでもグループが大きくなり続けるのは、存続のための守りが鉄壁なのだろう。
   ふと、私を見ていたリツと目が合った。
   勝手に人の心を読むな。知らなくてもいい余計なことをそうして知ってしまうから、お前は悲しくなるのだろう?
   カイはお前が大切だから、お前にとって一番安全な照陽に引き取ってもらおうと考えたのだ。それだけだ。お前の件は、私とカイの問題とは別だ。カイはリツが大事だ。私もリツが大事だ。それだけではだめか?
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