182年の人生

山碕田鶴

文字の大きさ
上 下
140 / 199
2039ー2043 相馬智律

68-(2)

しおりを挟む
「総帥は教団代表でもある……のだよな?」
「僕はまだ詳しくは知りません。でも、ヒミコさんの周りには不思議な力を持つ人が集まっているみたいですよ」
「ヒミコ?」
「総帥の名前です。ヒミコさんはカイの名を知っていました。いつも笠原様って呼んでいたけれど」

 ヒミコは偽名であろう。本名を知られて呪われることは当然避けるはずだ。

「つまりヒミコは、カイが死神でリツが相馬の魂の入ったアンドロイドだと承知しているのか」
「たぶん。あと、NH社とBS社のスポンサーで、国家元首の人格移殖のコーディネーターで……って本部にいた職員が認識していました」

 リツは、他人の思考から直接情報が入手できるようになったのか。

「ヒミコさんの考えは読めませんよ。でも、カイと約束したっていうのは、わざわざテレパシーみたいに伝えてくれたんです」
「そうか。とにかくリツはここから出られるのか。ならば千年安泰だな。カイが約束したなら、大丈夫だ」
「シキは、カイを信頼しているんですね」

 リツは嬉しそうだった。

「信頼ではない。単なる事実だ」

 あれは人間を超えた存在だ。死神が名を教えたのであれば、ヒミコは全てを受け入れ理解しているだろう。
 立会人として現れたヒミコを思い出した。
   淡紅色のワンピーススーツで大人びて見えたが、まだ二十歳を過ぎたばかりくらいであろうか。控えめながら意思の強そうな、柔らかな微笑みを絶やさず全てを見通したような、高貴で近寄りがたい雰囲気だった。
   あれが、照陽グループの現在の総帥か。
   会議室で私とリツが話す様子を見守っていた彼女は、まるで全て聞こえているかのようだった。私と目が合っても、逸らすことなくまっすぐこちらを見返してきたな。私が長生きなのも当然承知か。 

「……そうか、照陽か」

   私を消そうとしているのは照陽だ。そう考えて合点がいった。
   ヒミコは死神に代わって私を消す気なのだ。死神がこの世の些事さじに関わり国家元首をアンドロイドにしてやったのは、照陽が私を消す口実を作るためか。いや、照陽への見返りか。
   世俗にまみれて人間の欲得に手を貸すとは、死神もずいぶんと落ちぶれたものだな。
   ……あるいはリツを保護してもらうための対価か。
   いずれにしても照陽グループはどこまで影響力があるのか。ただのスポンサーではあるまい。
   占い師の組合から始まった団体に教祖はいないが、教師たちは顧客でもある企業や政治関係者から広く支持を集めている。
   照陽に勢力拡大の動きは元々ない。それでもグループが大きくなり続けるのは、存続のための守りが鉄壁なのだろう。
   ふと、私を見ていたリツと目が合った。
   勝手に人の心を読むな。知らなくてもいい余計なことをそうして知ってしまうから、お前は悲しくなるのだろう?
   カイはお前が大切だから、お前にとって一番安全な照陽に引き取ってもらおうと考えたのだ。それだけだ。お前の件は、私とカイの問題とは別だ。カイはリツが大事だ。私もリツが大事だ。それだけではだめか?
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

アポリアの林

千年砂漠
ホラー
 中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。  しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。  晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。  羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。

【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール
ホラー
愛しています愛しています 私はあなたを愛しています 恨みます呪います憎みます 私は あなたを 許さない

『霧原村』~少女達の遊戯が幽から土地に纏わる怪異を呼び起こす~転校生渉の怪異事変~

潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。 渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。 《主人公は和也(語り部)となります。ライトノベルズ風のホラー物語です》

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

歩きスマホ

宮田 歩
ホラー
イヤホンしながらの歩きスマホで車に轢かれて亡くなった美咲。あの世で三途の橋を渡ろうとした時、通行料の「六文銭」をモバイルSuicaで支払える現実に——。

不労の家

千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。  世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。  それは「一生働かないこと」。  世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。  初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。  経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。  望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。  彼の最後の選択を見て欲しい。

限界集落

宮田 歩
ホラー
下山中、標識を見誤り遭難しかけた芳雄は小さな集落へたどり着く。そこは平家落人の末裔が暮らす隠れ里だと知る。その後芳雄に待ち受ける壮絶な運命とは——。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...