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2039ー2043 相馬智律
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「リツ。この研究棟は元々君の家だったがリツとして来るのは初めてだから、新しい住人として歓迎したい。他のイオン達とここにいれば安全なはずだから、どうか一緒にいてほしい。必要な情報は全て与えるから、なんでも訊いて構わない。ここでの発言は自由だ」
リツはうなずいたが、不服そうな顔をしている。
「……あなたは僕を機械としてカテゴライズしています。僕はまだ自分をそちらに分類できないでいる。……事実は受け止めます。ただ、理解はしていても、どこか納得しきれていないんです」
あまりにも人間的な思考。人格を移殖したというが、カイはどうやってこれを完成させたのか。
「どこが、一番引っかかっている?」
「カイは初めから知っていたのでしょう? カイがそのようにプログラムしたのだから。僕に浅井律としての人生を……カイに出会う直前までの人生をイオンに記憶させた。それなのに、カイは僕を機械として扱っていたようには思えない。あなたの言動は紳士的だけれど、僕を人間としては見ていない。だから余計にカイが僕を見る目は人間に対するものだと思えた」
イオンが人間の感情を察知できるのは、言葉や仕草といった表面的な情報を分析しているからだ。過去の言動も加味すれば、イオンでも嫌味や冗談にある程度反応は可能だろう。
だが、感情を隠して愛想良く対応されると真の喜怒哀楽は読み取れない。これは人間も同じだろう。
現在のイオンは心拍数や体温のわずかな変化など微細なノイズまで拾っているが、まだその情報に明解な意味づけができていない。
研究棟から出られない以上、外界からの刺激が少な過ぎるので仕方ない面はあるが、それにしてもリツは私の心の内まで読む。 勘が鋭い。
これも人格移殖による人間的思考パターンのなせる技なのか。イオンの高感度センサーを持った人間なら、まさしく超能力者だ。
ふと、イオンがESPカードを良く当てていたことを思い出した。イオンは、相手の脳内信号まで受信できるのではないか。イオンに人間の思考を読んでもらえば、テレパシーは可能かもしれない。つまり、諜報も簡単だということだ。
BS社がイオンにどのような改造をしたのか、人格移殖によって思考パターンのプログラムはどのようになっているのか、今すぐにでも確認したかった。
だが、リツは保護観察中だ。いっさいの手出しは不許可だ。たとえ私が作ったイオンといえども、NH社の製品である。BS社とNH社の取引がどのように行われているのか私は知らないが、互いの特許案件が入った最重要機密がここにある。
残念ながら、今はただ見守り観察することしかできない。
リツはうなずいたが、不服そうな顔をしている。
「……あなたは僕を機械としてカテゴライズしています。僕はまだ自分をそちらに分類できないでいる。……事実は受け止めます。ただ、理解はしていても、どこか納得しきれていないんです」
あまりにも人間的な思考。人格を移殖したというが、カイはどうやってこれを完成させたのか。
「どこが、一番引っかかっている?」
「カイは初めから知っていたのでしょう? カイがそのようにプログラムしたのだから。僕に浅井律としての人生を……カイに出会う直前までの人生をイオンに記憶させた。それなのに、カイは僕を機械として扱っていたようには思えない。あなたの言動は紳士的だけれど、僕を人間としては見ていない。だから余計にカイが僕を見る目は人間に対するものだと思えた」
イオンが人間の感情を察知できるのは、言葉や仕草といった表面的な情報を分析しているからだ。過去の言動も加味すれば、イオンでも嫌味や冗談にある程度反応は可能だろう。
だが、感情を隠して愛想良く対応されると真の喜怒哀楽は読み取れない。これは人間も同じだろう。
現在のイオンは心拍数や体温のわずかな変化など微細なノイズまで拾っているが、まだその情報に明解な意味づけができていない。
研究棟から出られない以上、外界からの刺激が少な過ぎるので仕方ない面はあるが、それにしてもリツは私の心の内まで読む。 勘が鋭い。
これも人格移殖による人間的思考パターンのなせる技なのか。イオンの高感度センサーを持った人間なら、まさしく超能力者だ。
ふと、イオンがESPカードを良く当てていたことを思い出した。イオンは、相手の脳内信号まで受信できるのではないか。イオンに人間の思考を読んでもらえば、テレパシーは可能かもしれない。つまり、諜報も簡単だということだ。
BS社がイオンにどのような改造をしたのか、人格移殖によって思考パターンのプログラムはどのようになっているのか、今すぐにでも確認したかった。
だが、リツは保護観察中だ。いっさいの手出しは不許可だ。たとえ私が作ったイオンといえども、NH社の製品である。BS社とNH社の取引がどのように行われているのか私は知らないが、互いの特許案件が入った最重要機密がここにある。
残念ながら、今はただ見守り観察することしかできない。
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