182年の人生

山碕田鶴

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2039ー2043 相馬智律

57-(4)

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 リツは私を振り払い、なおも笠原に近づいた。

 ザシュッ!

「リツ!」

 私と笠原は同時に叫び、同時に動いていた。二人がリツに覆いかぶさった瞬間、リツの足首と腕から、火花のように赤い色が散った。

「お前、こうなるとわかっていたな!」
「リツを頼んだ」

 話が噛み合っていないだろう!
 笠原は瞬時に私とリツから離れた。

 ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!

 笠原の身体が崩れる前に、私は三度音を聞いた。
   カイ?

   カイ⁉︎

 静寂。
   全ての音が消えていた。笠原の音も消えた。
   もう撃って来る様子はない。
 警備員たちは建物の陰に移動したまま動かない。
 私は立ち上がって周囲を見回した。
   任務完遂ということか。
 カイにゆっくりと近づく。

「カイ!」

 私が笠原の前に立つよりも早く、リツは地を這って笠原に折り重なった。
 どちらが赤く染めたのか。何度も見覚えのある光景に、私は虚しい溜息しか出なかった。

「リツ。君も怪我をして……」

 リツの身体を起こそうとして肩に手をかけた私は、あまりの衝撃に声をなくした。

   リツ⁉︎

 リツの足首と腕には皮膚が深く裂けた傷があり、すぐにも止血が必要な状態と思われた。
 だが、その奥からはシリコーンで覆われた金属柱がのぞいていた。
   油の匂い。
   裂け目から見える鈍い光沢。
 私はとっさに自分の上着を脱いでリツを覆った。
 リツが不思議そうに私を見上げた。

「リツ……君は……」
「え?」

 リツはわずかに起き上がって、怪我をした足首を見た。

「な……に。何?  これ何⁉︎」

 リツは、私以上の衝撃を受けていた。
 わっと立ち上がろうとして倒れ、それでも立ち上がって動こうとした。完全に錯乱状態で、手で顔を覆って絶叫するが、声にならずに喉から切り裂くような空気が抜ける音が響き続けた。
 私はリツを抱き抱え、力ずくで抑え込んだ。

「リツ!  大丈夫だから!  大丈夫だから!  リツ!  大丈夫だ!」

 全く聞こえていないであろうリツは、私にしがみついて暴れ続けた。

「リツ……」

 聞こえるはずのない声がした。
 リツの手を、掴むはずのない手が掴んだ。

「カイ⁉︎」

 ところどころ砕け散った赤い塊から、無傷の腕が伸びていた。
 リツの手を掴んだ笠原の手は動いていなかった。掴まれたリツも、じっと動かなくなった。

「リツ。大丈夫だ。このままシキと行け。約束したろう?  身の安全は考慮した。お前の命を俺より優先すると保証したろう?  シキは大丈夫だ……」

 リツは、何度もうなずいた。

「お前……何をしたのだ?」

 私はようやく声に出して言った。

「お前たちは死霊が視えないからな。分離した肉体を動かすのは難儀だな」
「そうじゃない!  リツのことだ!」
「シキ……これが、お前の望んだ未来だ……」
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