182年の人生

山碕田鶴

文字の大きさ
上 下
115 / 199
2039ー2043 相馬智律

57-(4/4)

しおりを挟む
 リツは私を振り払い、なおも笠原に近づこうとした。

 ザシュッ!

「リツ!」

 私と笠原は同時に叫び、同時に動いていた。二人がリツに覆いかぶさった瞬間、リツの足首と腕から、火花のように赤い色が散った。

「お前、こうなるとわかっていたな!」
「リツを頼んだ」

 笠原はそれだけ言うと瞬時に私とリツから離れた。
 話が噛み合っていないだろう!

 ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ!

 笠原の身体が崩れる前に、私は三度音を聞いた。

 カイ⁉︎

 リツに重なり地に伏せて動けないまま、笠原を目で追った。

 カイ?

 全ての音が消えていた。笠原の音も消えた。
 静寂。
 もう撃って来る気配はない。
 警備員たちは建物の陰に移動したまま動かない。
 私は立ち上がって周囲を見回した。
 任務完遂ということか。
 笠原にゆっくりと近づく。

「カイ!」

 私が笠原の前に立つよりも早く、リツは地を這って笠原に折り重なった。
 どちらが赤く染めたのか。何度も見覚えのある光景に、私は虚しい溜息しか出なかった。

「カイ! カイ⁉︎」

 リツが呼びかけるのは、ただの赤い塊だ。応えるはずもない。

「リツ。君も怪我をして……」

 リツの身体を起こそうとして肩に手をかけた私は、あまりの衝撃に声をなくした。

 リツ⁉︎

 リツの足首と腕には皮膚が深く裂けた傷があり、すぐにも止血が必要な状態と思われた。
 だが、その奥からはシリコーンで覆われた金属柱がのぞいていた。
 油の匂い。
 裂け目から見える鈍い光沢。
 私はとっさに上着を脱いでリツを覆った。
 リツが不思議そうに私を見上げた。

「リツ……君は……」
「え?」

 リツはわずかに起き上がって、怪我をした足首を見た。

「な……に。何? これ何⁉︎」

 リツは私以上の衝撃を受けていた。
 わっと立ち上がろうとして倒れ、それでも立ち上がって動こうとした。
 完全に錯乱状態だった。手で顔を覆って絶叫するが、声にならずに喉から切り裂くような空気が抜ける音が響き続けた。
 私はリツを抱き抱え、力ずくで抑え込んだ。

「リツ! 大丈夫だから! 大丈夫だから! リツ、大丈夫だ!」

 全く聞こえていないであろうリツは、私にしがみついて暴れ続けた。
 どういうことだ? 何が起きている?
 混乱しているのは私も同じだ。だが、私以上にリツが混乱しているではないか。

「リツ……」

 その時、聞こえるはずのない声がした。
 リツの手を、掴むはずのない手が掴んだ。

「カイ⁉︎」

 ところどころ砕け散った赤い塊から、無傷の腕が伸びていた。
 リツの手を掴んだ笠原の手は動いていなかった。掴まれたリツも、じっと動かなくなった。

「リツ、大丈夫だ。このままシキと行け。約束したろう? 身の安全は考慮した。お前の命を俺より優先すると保証したろう? シキは大丈夫だ……」

 リツは何度もうなずいた。

「お前……何をしたのだ?」

 私はようやく声に出して言った。

「お前たちは幽霊が視えないからな。バラバラになった肉を動かすのは難儀だな」

 原形をとどめない頭部に残る口がわずかに動くたび、おぼれるような声に押されて命の残骸が吐き出されていく。

「そうじゃない! リツのことだ!」
「ああ、そっちか。シキ……これが、お前の望んだ未来だ……」



しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

『忌み地・元霧原村の怪』

潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。 渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。 《主人公は月森和也(語り部)となります。転校生の神代渉はバディ訳の男子です》 【投稿開始後に1話と2話を改稿し、1話にまとめています】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

奇怪未解世界

五月 病
ホラー
突如大勢の人間が消えるという事件が起きた。 学内にいた人間の中で唯一生存した女子高生そよぎは自身に降りかかる怪異を退け、消えた友人たちを取り戻すために「怪人アンサー」に助けを求める。 奇妙な契約関係になった怪人アンサーとそよぎは学校の人間が消えた理由を見つけ出すため夕刻から深夜にかけて調査を進めていく。 その過程で様々な怪異に遭遇していくことになっていくが……。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する

黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。 だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。 どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど?? ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に── 家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。 何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。 しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。 友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。 ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。 表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、 ©2020黄札

ジャクタ様と四十九人の生贄

はじめアキラ
ホラー
「知らなくても無理ないね。大人の間じゃ結構大騒ぎになってるの。……なんかね、禁域に入った馬鹿がいて、何かとんでもないことをやらかしてくれたんじゃないかって」  T県T群尺汰村。  人口数百人程度のこののどかな村で、事件が発生した。禁域とされている移転前の尺汰村、通称・旧尺汰村に東京から来た動画配信者たちが踏込んで、不自然な死に方をしたというのだ。  怯える大人達、不安がる子供達。  やがて恐れていたことが現実になる。村の守り神である“ジャクタ様”を祀る御堂家が、目覚めてしまったジャクタ様を封印するための儀式を始めたのだ。  結界に閉ざされた村で、必要な生贄は四十九人。怪物が放たれた箱庭の中、四十九人が死ぬまで惨劇は終わらない。  尺汰村分校に通う女子高校生の平塚花林と、男子小学生の弟・平塚亜林もまた、その儀式に巻き込まれることになり……。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...