92 / 199
1974ー2039 大村修一
46-(2/2)
しおりを挟む
「お帰りなさい、教授」
イオンの一体が近づいて来た。
「ああ、ただいま。……相馬にギャップ萌えは、ないな」
「私はどうですか?」
イオンは私の独り言を拾った。
「ん? 君には意外性自体がないかな」
「そうですか。機械と人間とは異種であると思いますが、外見的特徴が似ているから意外性がないということですか? 教授はそれでは強い愛着心を抱けないということですか?」
「いや、私が言ったのは、幼稚なのに仕事はできるとか、言動がバカっぽいのに頭がキレるとか、そういうギャップであって……ん?」
イオンの適応力は日々進化している。情報を収集するために、あらゆる角度から会話の糸口を探し、相手から価値あるひとことを引き出そうとする。それは良いが、話すうちにやりとりがズレて、何やらかみ合わなくなる気がする。
「あはははっ。教授、それ、会話が成立していませんよ。イオンの言っているギャップ萌えは『異種で萌える』。それじゃあ異種間恋愛でしょ」
いつのまにか相馬が横にいた。
「それに、独り言は独り言として聞き流してもらわないと、ちょっとウザいですねえ。冗談にいちいち解説を求める姿勢もウザい」
「ウザい?」
イオンは不思議そうに相馬を見る。
「イオン、君の質問はどっち? ウザいの言葉の定義か、ウザいと言われた理由か」
相馬は、いつもこうして延々イオンと会話しながら負荷をかけていく。その中で問題を見つけ、一つずつ確実に改善を重ねていく。
ただし、単語一つを再定義するのではなく思考の流れ全体を見直しているから、相馬が手を加えるとイオンの意思疎通が劇的にクリアになって聡明さが増していく。
「ねえ、教授。なんだかイオンってスパイみたいですよね。こう、いちいち人を探っている感じなんです。情報収集させているので当然ではあるのですが……」
「不自然か? あからさまか?」
「逆ですよ。自然過ぎて気持ち悪い。あなたに興味がありますって顔で近づかれると、なんだか僕のことを好きなのかなあって、誤解しそうになる。イオンは機械だから、さすがに好きはないだろうって思いとどまりますけどね。じっと見つめてきたり、でもすぐに目を逸らしたり、こちらが戸惑うような一瞬の距離感の変化があったり。芸が細かいというのか、ノンバーバル、ヤバイんですよ。ほら、イヌネコの愛玩用ロボットは当然非言語のコミュニケーションで愛着を持ったりしますけど、あれ以上に懐かれる感があって……なんで機械にドキドキさせられるんだって。ハニートラップとか仕込んでいるんですか? これ、教授のプログラムですよね?」
「……」
要は、私の癖が全て反映されているということか。こいつは相変わらず勘がいいな。
「僕、教授がイオンと同棲している気持ち、わかった気がします。イオン相手なら、機械でも余裕で恋愛アリですね。これぞまさしくイオンの言う『ギャップ萌え』。うはははっ」
私の気持ちなど全然わかっていないだろう。バカ笑いしているお前だって、どこまで本気かわかったものではない。
他人の本心など、誰にも見えないのだ。
イオンの一体が近づいて来た。
「ああ、ただいま。……相馬にギャップ萌えは、ないな」
「私はどうですか?」
イオンは私の独り言を拾った。
「ん? 君には意外性自体がないかな」
「そうですか。機械と人間とは異種であると思いますが、外見的特徴が似ているから意外性がないということですか? 教授はそれでは強い愛着心を抱けないということですか?」
「いや、私が言ったのは、幼稚なのに仕事はできるとか、言動がバカっぽいのに頭がキレるとか、そういうギャップであって……ん?」
イオンの適応力は日々進化している。情報を収集するために、あらゆる角度から会話の糸口を探し、相手から価値あるひとことを引き出そうとする。それは良いが、話すうちにやりとりがズレて、何やらかみ合わなくなる気がする。
「あはははっ。教授、それ、会話が成立していませんよ。イオンの言っているギャップ萌えは『異種で萌える』。それじゃあ異種間恋愛でしょ」
いつのまにか相馬が横にいた。
「それに、独り言は独り言として聞き流してもらわないと、ちょっとウザいですねえ。冗談にいちいち解説を求める姿勢もウザい」
「ウザい?」
イオンは不思議そうに相馬を見る。
「イオン、君の質問はどっち? ウザいの言葉の定義か、ウザいと言われた理由か」
相馬は、いつもこうして延々イオンと会話しながら負荷をかけていく。その中で問題を見つけ、一つずつ確実に改善を重ねていく。
ただし、単語一つを再定義するのではなく思考の流れ全体を見直しているから、相馬が手を加えるとイオンの意思疎通が劇的にクリアになって聡明さが増していく。
「ねえ、教授。なんだかイオンってスパイみたいですよね。こう、いちいち人を探っている感じなんです。情報収集させているので当然ではあるのですが……」
「不自然か? あからさまか?」
「逆ですよ。自然過ぎて気持ち悪い。あなたに興味がありますって顔で近づかれると、なんだか僕のことを好きなのかなあって、誤解しそうになる。イオンは機械だから、さすがに好きはないだろうって思いとどまりますけどね。じっと見つめてきたり、でもすぐに目を逸らしたり、こちらが戸惑うような一瞬の距離感の変化があったり。芸が細かいというのか、ノンバーバル、ヤバイんですよ。ほら、イヌネコの愛玩用ロボットは当然非言語のコミュニケーションで愛着を持ったりしますけど、あれ以上に懐かれる感があって……なんで機械にドキドキさせられるんだって。ハニートラップとか仕込んでいるんですか? これ、教授のプログラムですよね?」
「……」
要は、私の癖が全て反映されているということか。こいつは相変わらず勘がいいな。
「僕、教授がイオンと同棲している気持ち、わかった気がします。イオン相手なら、機械でも余裕で恋愛アリですね。これぞまさしくイオンの言う『ギャップ萌え』。うはははっ」
私の気持ちなど全然わかっていないだろう。バカ笑いしているお前だって、どこまで本気かわかったものではない。
他人の本心など、誰にも見えないのだ。
1
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
不労の家
千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。
世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。
それは「一生働かないこと」。
世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。
初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。
経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。
望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。
彼の最後の選択を見て欲しい。
[全221話完結済]彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる
野花マリオ
ホラー
ーー彼女が語る怪異談を聴いた者は咲かせたり聴かせる
登場する怪異談集
初ノ花怪異談
野花怪異談
野薔薇怪異談
鐘技怪異談
その他
架空上の石山県野花市に住む彼女は怪異談を語る事が趣味である。そんな彼女の語る怪異談は咲かせる。そしてもう1人の鐘技市に住む彼女の怪異談も聴かせる。
完結いたしました。
※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。
エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。
表紙イラストは生成AI
ゴーストバスター幽野怜Ⅱ〜霊王討伐編〜
蜂峰 文助
ホラー
※注意!
この作品は、『ゴーストバスター幽野怜』の続編です!!
『ゴーストバスター幽野怜』⤵︎ ︎
https://www.alphapolis.co.jp/novel/376506010/134920398
上記URLもしくは、上記タグ『ゴーストバスター幽野怜シリーズ』をクリックし、順番通り読んでいただくことをオススメします。
――以下、今作あらすじ――
『ボクと美永さんの二人で――霊王を一体倒します』
ゴーストバスターである幽野怜は、命の恩人である美永姫美を蘇生した条件としてそれを提示した。
条件達成の為、動き始める怜達だったが……
ゴーストバスター『六強』内の、蘇生に反発する二名がその条件達成を拒もうとする。
彼らの目的は――美永姫美の処分。
そして……遂に、『王』が動き出す――
次の敵は『十丿霊王』の一体だ。
恩人の命を賭けた――『霊王』との闘いが始まる!
果たして……美永姫美の運命は?
『霊王討伐編』――開幕!
吼えよ! 権六
林 本丸
歴史・時代
時の関白豊臣秀吉を嫌う茶々姫はあるとき秀吉のいやがらせのため自身の養父・故柴田勝家の過去を探ることを思い立つ。主人公の木下半介は、茶々の命を受け、嫌々ながら柴田勝家の過去を探るのだが、その時々で秀吉からの妨害に見舞われる。はたして半介は茶々の命を完遂できるのか? やがて柴田勝家の過去を探る旅の過程でこれに関わる人々の気持ちも変化して……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる