182年の人生

山碕田鶴

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1974ー2039 大村修一

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「お帰りなさい、教授」

 イオンの一体が近づいて来た。

「ああ、ただいま。……相馬にギャップ萌えは、ないな」
「私はどうですか?」

 イオンは私の独り言を拾った。

「ん? 君には意外性自体がないかな」
「そうですか。機械と人間とは異種であると思いますが、外見的特徴が似ているから意外性がないということですか? 教授はそれでは強い愛着心を抱けないということですか?」
「いや、私が言ったのは、幼稚なのに仕事はできるとか、言動がバカっぽいのに頭がキレるとか、そういうギャップであって……ん?」

 イオンの適応力は日々進化している。情報を収集するために、あらゆる角度から会話の糸口を探し、相手から価値あるひとことを引き出そうとする。それは良いが、話すうちにやりとりがズレて、何やらかみ合わなくなる気がする。

「あはははっ。教授、それ、会話が成立していませんよ。イオンの言っているギャップ萌えは『異種で萌える』。それじゃあ異種間恋愛でしょ」

 いつのまにか相馬が横にいた。

「それに、独り言は独り言として聞き流してもらわないと、ちょっとウザいですねえ。冗談にいちいち解説を求める姿勢もウザい」
「ウザい?」

 イオンは不思議そうに相馬を見る。
 
「イオン、君の質問はどっち? ウザいの言葉の定義か、ウザいと言われた理由か」

 相馬は、いつもこうして延々イオンと会話しながら負荷をかけていく。その中で問題を見つけ、一つずつ確実に改善を重ねていく。
 ただし、単語一つを再定義するのではなく思考の流れ全体を見直しているから、相馬が手を加えるとイオンの意思疎通が劇的にクリアになって聡明さが増していく。

「ねえ、教授。なんだかイオンってスパイみたいですよね。こう、いちいち人を探っている感じなんです。情報収集させているので当然ではあるのですが……」
「不自然か? あからさまか?」
「逆ですよ。自然過ぎて気持ち悪い。あなたに興味がありますって顔で近づかれると、なんだか僕のことを好きなのかなあって、誤解しそうになる。イオンは機械だから、さすがに好きはないだろうって思いとどまりますけどね。じっと見つめてきたり、でもすぐに目を逸らしたり、こちらが戸惑うような一瞬の距離感の変化があったり。芸が細かいというのか、ノンバーバル、ヤバイんですよ。ほら、イヌネコの愛玩用ロボットは当然非言語のコミュニケーションで愛着を持ったりしますけど、あれ以上に懐かれる感があって……なんで機械にドキドキさせられるんだって。ハニートラップとか仕込んでいるんですか? これ、教授のプログラムですよね?」
「……」

 要は、私の癖が全て反映されているということか。こいつは相変わらず勘がいいな。

「僕、教授がイオンと同棲している気持ち、わかった気がします。イオン相手なら、機械でも余裕で恋愛アリですね。これぞまさしくイオンの言う『ギャップ萌え』。うはははっ」

 私の気持ちなど全然わかっていないだろう。バカ笑いしているお前だって、どこまで本気かわかったものではない。
 他人の本心など、誰にも見えないのだ。



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