182年の人生

山碕田鶴

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1974ー2039 大村修一

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 相馬は結局、朝まで私の部屋にいた。私は年寄りなので早々に寝かせてもらったが、かなり遅くまで部屋に置いてあるイオンに関するデータをあさっていたようだ。
 私が起きた時には、脱ぎ散らかした服もなくなっていた。服を脱いだ意味がわからない。
 相馬はすぐに管理棟に呼び出されたらしい。昨夜の件の事情聴取か。私には何の連絡もないので、相馬が話をつけたのだろう。
 相馬が派手に不調にさせた盗聴器や監視カメラは今日中に修理されるはずだ。私は日中にあえて研究棟を出て、研究施設の玄関口とも言える中央門まで散歩した。
 敷地内であれば移動は自由だ。ただし、門外へ出るには相応の手続きとチェックが必要である。
 機密を外部へ持ち出せば存在が消されるという噂がある。研究所には戸籍のない者もいると聞く。私が入社した頃に比べると段違いに情報統制は厳しくなっている。
 外部から遮断された施設内で生きることを決意すれば、これほど快適な場所はない。私はそれを決めたひとりだ。相馬はどうだろう。
 社会的自由と引き換えに最先端の研究が保証されるこの環境を喜んで受け入れたのだろうか。
 中央門のすぐ脇には、小さな売店があった。外部からの搬入品の倉庫も兼ねている。その奥には食堂もある。敷地内外の接触を極力減らす工夫であろう。門にもその周辺にも警備員が常駐している。
 ふらりと売店を覗いてみると普通のコンビニといった感じである。久しく菓子など食べていないと思い、商品棚を見てついキャラメルを手に取った。
 博覧会で評判だといって、幼い頃に吉澤の家で食べた記憶がよみがえる。
 一世紀半も昔になるのかと、急に懐かしくなって思わず買い求めた。
 なぜ急に昔を思い出したのか。親子以上も年の離れた相馬と親しく話をしたせいだろうか。
 昨夜相馬と妙な接触をしたことで、自分が年を取ったと実感させられた。この肉体は相応に老いてゆく。私には相馬ほどの活力は残っていない。
 年を取らないイオンを長年見続けていて自分も若いつもりでいた。早川たちの年寄り扱いはどこか他人事のように感じていた。
 だが、私は相馬に比べて明らかに気力も落ちている気がする。やはり精神は肉体に支配されているらしい。
 研究棟に戻ると、相馬がイオンたちと話していた。
 ただ談笑しているようにも見えるが、機械にとって雑談するほど難しいことはない。
 変な間を置かずタイミング良く話し、複数人とでも分別認識して自然な表情を作る。特定の人間にだけ注意が向かないようにする。機械だというのに、気配りが欠かせないのだ。
 イオンは自分から相手に声をかけて会話を続けるようにできており、また、自分から雑談を終了することさえある。
 どこまでも人間らしく、人間と自然に接することができるアンドロイドになるべく彼らは調整されている。
 相馬は話しながら詳細なデータを採取し、しばらく研究室にこもってまた出てくるを繰り返していた。
 昨夜全裸ではしゃいでいたのと同一人物にはとても見えないな。
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