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1974ー2039 大村修一
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死神といえども、人間として生まれれば肉体に囚われるのか。それを承知でこの死神は私のもとへやって来る。
なんとも職務に忠実なことだ。
「魂と肉体が強固に繋がっていると言うが、私はお前を弾き飛ばした。他の人間の魂も……追い出した」
「そう。お前はいわばシステムの不具合だ。相手に隙がなければさすがに魂を引き剥がすなど無理だろうが、既に三度肉体を奪った」
「修一は……まだ子供だった」
「お前はこの世の罪人だな。だがシキ、お前は誰にも罰せられることはない。罰を受けて罪を償うことはできないのだ。もちろんあの世で罪は問われない。すなわち、禊がない。無罪放免とは違うぞ。自分の行いは取り消せないということだ。履歴は消せない。誰が忘れようとも記憶は魂に刻まれ、己を構成する情報の一部となって永遠に残り続けるのだ」
「この世で反省や更生をした人間でもか?」
「この世のルールはこの世のものだ。更生した人間は過去を忘れるのか? 反省のない人間が、それを記憶に残していないのか? この世を離れれば薄れた記憶も感覚も鮮明になって己に戻ってくる。逃れることはできない」
死神は私の罪悪感を一蹴するように笑った。
「そういう……意味か」
「お前は他人から責められ、痛みを感じて罪を償った気になりたいのか。ならば安子に会えば良かろう。安子に罵倒されれば世を儚み、自らこの世を去るか?」
唯一真実を知り、私を責め続けたのが安子だ。私は安子を遠ざけ、謝罪どころかまともに話すことすらしなかった。死神を理由にして、安子からも逃げるようにこの研究施設にこもっている。
修一と安子に対する申し訳なさは決して消えることがなかった。
「シキ。お前が安子を気にするのは、安子を案じてのことではあるまい。お前自身が安子に責められるのを恐れているからだろう?」
死神が私を非難する様子はない。すっと伸びた腕が、今度は私の頭上に近づく。
「無駄だ、シキ。案ずるふりで気にするくらいなら、罪悪感を持ったまま開き直れ。お前が生き続けようとする限り、後悔はできないのだ。自分の保身で気にするのなら、もっと建設的なことを気にしろ。魂を無駄に汚すな」
死神の腕が近づいただけで、私は穏やかな波を受け取ったような心持ちになった。満たされる感覚に、自然と涙が溢れた。
「シキ。お前が気にしていた修一は、すぐにあの世へ向かった。子供の魂は軽やかだ。この世への執着も少ない。安子に恨まれるとすれば、お前より俺であろうな。安子は修一の魂を身体に戻そうと必死だった。それを引き離して彼岸へ送ったのだ。安子は遠藤がやったとは思っていないがな。ひとつお前に教えてやる。いいか、この世は一度きりではない。望めばまた来ることができる」
私は目を覚ました。死神の感触がわずかに残っている。
シキ。
死神は、何度も私の名を呼び話しかけてきた。呼ばれるたびに囚われていく。恐怖が生を実感させる。
私は生き続けたい。後悔は偽善だ。言い訳は許されるはずもない。
誰もいない部屋で、私はひとり泣き続けていた。修一への懺悔ではなく、ただ彼の魂の安寧を祈って、泣いた。
なんとも職務に忠実なことだ。
「魂と肉体が強固に繋がっていると言うが、私はお前を弾き飛ばした。他の人間の魂も……追い出した」
「そう。お前はいわばシステムの不具合だ。相手に隙がなければさすがに魂を引き剥がすなど無理だろうが、既に三度肉体を奪った」
「修一は……まだ子供だった」
「お前はこの世の罪人だな。だがシキ、お前は誰にも罰せられることはない。罰を受けて罪を償うことはできないのだ。もちろんあの世で罪は問われない。すなわち、禊がない。無罪放免とは違うぞ。自分の行いは取り消せないということだ。履歴は消せない。誰が忘れようとも記憶は魂に刻まれ、己を構成する情報の一部となって永遠に残り続けるのだ」
「この世で反省や更生をした人間でもか?」
「この世のルールはこの世のものだ。更生した人間は過去を忘れるのか? 反省のない人間が、それを記憶に残していないのか? この世を離れれば薄れた記憶も感覚も鮮明になって己に戻ってくる。逃れることはできない」
死神は私の罪悪感を一蹴するように笑った。
「そういう……意味か」
「お前は他人から責められ、痛みを感じて罪を償った気になりたいのか。ならば安子に会えば良かろう。安子に罵倒されれば世を儚み、自らこの世を去るか?」
唯一真実を知り、私を責め続けたのが安子だ。私は安子を遠ざけ、謝罪どころかまともに話すことすらしなかった。死神を理由にして、安子からも逃げるようにこの研究施設にこもっている。
修一と安子に対する申し訳なさは決して消えることがなかった。
「シキ。お前が安子を気にするのは、安子を案じてのことではあるまい。お前自身が安子に責められるのを恐れているからだろう?」
死神が私を非難する様子はない。すっと伸びた腕が、今度は私の頭上に近づく。
「無駄だ、シキ。案ずるふりで気にするくらいなら、罪悪感を持ったまま開き直れ。お前が生き続けようとする限り、後悔はできないのだ。自分の保身で気にするのなら、もっと建設的なことを気にしろ。魂を無駄に汚すな」
死神の腕が近づいただけで、私は穏やかな波を受け取ったような心持ちになった。満たされる感覚に、自然と涙が溢れた。
「シキ。お前が気にしていた修一は、すぐにあの世へ向かった。子供の魂は軽やかだ。この世への執着も少ない。安子に恨まれるとすれば、お前より俺であろうな。安子は修一の魂を身体に戻そうと必死だった。それを引き離して彼岸へ送ったのだ。安子は遠藤がやったとは思っていないがな。ひとつお前に教えてやる。いいか、この世は一度きりではない。望めばまた来ることができる」
私は目を覚ました。死神の感触がわずかに残っている。
シキ。
死神は、何度も私の名を呼び話しかけてきた。呼ばれるたびに囚われていく。恐怖が生を実感させる。
私は生き続けたい。後悔は偽善だ。言い訳は許されるはずもない。
誰もいない部屋で、私はひとり泣き続けていた。修一への懺悔ではなく、ただ彼の魂の安寧を祈って、泣いた。
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